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守はいつものように。ゲームの世界で、
シンシアと肩を並べ、無数のモンスターを倒していった
ログアウトする直前、シンシアが優しく言った言葉が守の胸に深く響いた。
「また一緒に冒険しましょうね、フクさん。
現実がどんなに辛くても、ここでは私たち、いつでもヒーローになれますから。」
「ボクももっと強くならないとな」
「はい!ではまた」
「うん。おやすみ」
ログアウトしようとしたその時、守は画面に目立つ通知が表示されているのに気づいた。
**「運営からのお知らせ」**と書かれたアイコンをタップすると、画面に奇妙なメッセージが現れる。
「地球防衛軍への入隊を希望しますか?」
守は首をかしげた。
「入隊?どういうことだろう…このゲーム自体が『地球防衛軍』って名前だったはずだけど。」
眠気のせいで深く考えることができず、なんとなく
「入隊を希望する」のボタンを押す。画面に薄いエフェクトが表示されたが、それ以上の反応はない。
「なんだ、ただの演出か…」と肩をすくめながら、ふぁ~っと大きなあくびをする。
そのままスマホを置きかけたが、何か思い出したように手を伸ばし、
出会いサイトのアプリを開く。
最近メールをやり取りしている英子さん(35)のプロフィールが画面に表示される。
「やっと約束までこぎつけたんだ。これを逃しちゃダメだよな…」守は自分に言い聞かせるように呟く。
それでも眠気には勝てず、スマホを充電器に挿して布団へ潜り込んだ。
薄暗い部屋の中で、守の意識は次第に遠のいていった。
その夜、彼のスマホの画面が微かに光り、画面に新たなメッセージが現れる。
「入隊確認完了。準備を開始します。」
守は気づかないまま深い眠りに落ちていた。
数日後
いつものように、守がゲームを終えて椅子に寄りかかっていると、
部屋の窓が急に明るく光り始めた。
「ん…?」
眩しさに目を細めながら、守は立ち上がり窓へと近づく。カーテンを掴み、
勢いよく開けた瞬間、言葉を失った。
外の世界が変わっていた。
真っ白な光の波が空から降り注ぎ、地面が揺れ、建物の輪郭が歪んで見える。
雷が空を裂き、奇妙な音が辺りに響いていた。
「なんだ、これ…?」守は唇を震わせながら呟く。
その時だ。背中に冷たい稲妻が走るような感覚が襲った。
「ぐっ…!?」
全身に激痛が駆け抜ける。足元がぐらつき、彼は膝から崩れ落ちた。
「う、わあああああ!!!」
悲鳴が部屋中に響く。肌が焼けるように熱くなり、骨が砕ける音が耳の奥で鳴る。
全身を何か見えない力が引き裂いていくような痛み。
目の前が真っ白に染まり、轟音と共に守の意識は途切れた。
「……ん…?」
守はゆっくりと目を開けた。視界には、いつもの自分の部屋の天井が広がっている。
「……夢?」
起き上がり、辺りを見回したが、特に変わったところはなかった。
机の上のキーボード、壁のポスター、積み上がった空のカップ麺。
全てがいつも通りだった。
「なんだったんだ…今の…」
守は深いため息をつき、頭をかきむしった。
だが、その背中にはまだ微かに、稲妻のような感覚が残っていた。
朝の光が差し込む中、守はいつものように洗面所へ向かった。
顔を洗い、歯を磨き、髭を剃る準備をする。鏡を覗き込み、
いつもと変わらぬ自分の姿を確認するつもりだった。
しかし――。
鏡に映っていたのは、守自身ではなかった。
そこに映るのは、ゲーム「地球防衛軍」で彼が操作している美しいアバター「フク」の姿だった。
「……え?」
守は驚きで目を見開き、鏡に顔を近づけた。息が荒くなり、手が自然と鏡を掴む。
間違いない。映っているのは紛れもなくフクだ。彼が理想として作り上げた、強く、美しい女性の姿。
「これは……どういうことだ!?」
守は思わず自分の身体を触った。胸元に手を当てると、ふわりと柔らかい感触が返ってくる。
暖かく、明らかに女性の体だった。
「な、なにぃ!?」
動揺で頭が真っ白になる中、もう一度鏡を覗くと――。
「あっ……」
そこにはいつもの自分、冴えない中年男の姿が戻っていた。
守はその場に立ち尽くし、荒い息を整えながら額の汗を拭う。
「……なんだったんだ。ゲームのやりすぎで頭がおかしくなったのか。」
そう呟きながら、もう一度恐る恐る鏡を覗き込む。だが、そこに映るのはいつもの中年男の顔だ。
疲れた表情と乱れた髪、そして生えかけの髭。
「ふぅ……。」
守は深い溜息をつき、髭剃りを手に取った。とりあえず身支度を整えなくてはならない。
今日はバイトの休みの日だが、大切な予定があった。
「そうだ、小百合さんとのデートだ。」
守の胸が少しだけ高鳴る。出会い系サイトで知り合った小百合という女性と、
初めて会う約束をしている。彼女とはメールでのやりとりしかしていないが、
会話は妙に気が合い、守にとって久々の希望だった。
「あのサイトにどれだけ課金したか……考えるのはやめよう。」
苦笑いを浮かべながら準備を進める守の顔には、わずかに期待が浮かんでいた。
今日は、彼の中で特別な一日になるはずだった――少なくともこの時点では。