コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「迷惑じゃなかったですか?」
「ううん、だって、アンタが一緒の部屋で寝たいって言ったから。別に迷惑とかそんなんじゃないよ。それに、姉妹なら別に遠慮いらないって」
「お、お姉様ぁ!」
ギュウムッと私より遥かに大きな胸を押しつけてきて、私を抱きしめた妹、トワイライトは涙目で私に何度も頬ずりしてきた。憎たらしい豊満な胸だと、私は自分の壁のような旨を見て思った。ないわけではないが、服によってはないようにも見えるし、トワイライトと並んだらもう何も言えなくなってしまう。あった方がいいとは思わないが、胸がもう少しあった方が、ドレスが似合うんじゃないかとか、此の世界にきて可愛い服を見るたび思うようになった。そんなしょうもない嫉妬をしてもと思うが、改めて大きな胸を見ると思ってしまう。
私達は、夕食を終え、お風呂を別々にすませて後は寝るだけの状態にしていた。
私達の会話を聞いていたメイド達は嬉しそうだったし、シェフも私が頼んでおいた料理を出してくれたため、トワイライトはとても喜んでくれた。エトワールについては、情報が未知数だし、どうせ中身は私なのだから気にしていないが、トワイライトの情報はゲーム内でかなり細かく書かれていたため、好きなものが脂身の少ないお肉とオレンジのシャーベットということは知っていた。だから、彼女に喜んでもらいたくて、いつもは口を出さない料理に、シェフに頼みに言ったのだ。シェフは私のことを少なからずいいように思ってくれているために、快く受け入れてくれた。
トワイライトとの会話は弾んで、おすすめのお店があるから行こうとか、一緒に魔法の練習をしようだとか盛り上がった。
リュシオルとはオタクの話で盛り上がるオタ友だったが、こうしてトワイライトと話すときは仲のよい姉妹のような錯覚を覚える。友達とはまた違った感覚なのだと改めて思った。
「お姉様、パジャマ姿も素敵です。昼間の純白のドレスも素敵ですが、綺麗な身体のラインが出ていて……」
「ちょ、恥ずかしいからそんなに見ないでよ。それに、私が昼間着ているドレスは戦闘用だったりするし、オーダーメイドで聖女用にって作ってもらった奴なの。だから、防御力も高いし、破れにくくて動きやすい。そういえば、トワイライトのも作るって言っていたからきっと、その内届くはずよ」
「お、お姉様とペアルック!?」
「そ、それはどうか分からないけど」
何て私の言葉など聞いていないトワイライトは、ペアルックという言葉をどこから覚えたのか、私と色違いだったらいいとか、一緒に町を歩きたいとか妄想を口にしては頬に両手を当てて一人楽しそうにしていた。その姿が、推しのライブに行けるとか、新しいグッズがでるとかで喜んでいる自分の姿に重なってしまい、何ともツッコミ辛かった。突っ込む理由もないのだが。
そんなトワイライトを見ていて、どうして一緒に寝たいのかと少し疑問に思った事を尋ねてみることにした。いくら、私が好きとは言え一人用……にしては少し大きいベッドとはいえ二人で寝れば一人のスペースは狭くなるわけだし、疲れているのだから一人で寝たいと思っていたのだが。
私が尋ねると、トワイライトは当然とも言うように大きな胸に手を当てて必死に話した。
「だって、寂しいじゃないですか。姉妹なのに別々の部屋など! それに、お姉様と一緒に寝た方がきっと良い夢も見れると思います」
と、トワイライトは必死に言うの、私はその圧に押されてあはは……と乾いた苦笑いが零れるだけだった。
まだ出会って数時間ぐらいだというのにこんなにも懐かれると思わなかった。
「そ、そうなんだ。でも、二人で寝たら一人分のスペース狭くなるけど」
「一人で寝るよりかはマシです!」
「そんなに、私と寝たいの?」
「お姉様と一緒に寝たいです。同じベッドで寝れないなら部屋の前でも、同じ空気を吸って寝たいです」
「そ、そこまで!?」
私が思っていた以上に過激な思想を持っていたため、私は、若干ひいてしまった。でも、私が推しに対する思いも今の彼女とそう変わらないのだろうなと思って、私は流れるまま頷いてしまった。別に断る理由もなかったからだ。
彼女はきっとオタクではないが、私のように好きなものには一直線で周りが見えなくなるタイプなんだろうなと思った。ゲーム内でのトワイライトも、攻略キャラを助けるために一生懸命走っているような子だったし、あながち間違いではないし、設定通りなのかも知れない。それにしても、何で私に懐いたのだろうか。今日だけでもリース、グランツ、ブライトと顔を合わせただろうに。攻略キャラがトワイライトに対してどんな感情を抱いたかは定かではないが、あまりトワイライトの口から攻略キャラの話を聞かないし、誰が気になっているとかも一日で分かるような物ではないが、一目惚れしたんです。と言う話も聞かないから、興味がないのかも知れない。けど、話したくないって言う説もあるし。
でも、この子が嘘をつくような、黙っていられるようなタイプじゃないことをゲームで見てきたから、きっと本当にそこまで興味を持っていないんだろう。それがいいのか、悪いのかは私には判断できないが。今のところ、攻略キャラからアプローチしてこない限り、彼女が攻略キャラに率先して近付くことはないだろう。
「お姉様は趣味とかありますか?」
「しゅ、趣味? いきなりどうして?」
「いえ、趣味の共有をしたら仲良くなれるとその、お姉様と親しいメイドさんが言っていたので」
「あ、ああ、リュシオルが? た、確かに、趣味の共有したら、趣味が合ったら仲良くなれるかもだけど……」
と、私は言葉を濁した。
彼女に、二次元オタクと言うことをバレたくないからだ。だけど、この世界で推し活ができる訳でも、アニメや漫画があるわけでもないため、今趣味はお休み中といった所か。だから、話すことが出来なかった。
推しがいないわけでも無いが、リースとか言ったらまた誤解を招きそうだし、ここで下手に嘘をついて見栄をはるわけにも行かない。刺繍ですとかお花を育てることですとか、そういう可愛らしい趣味でないことは確かだ。もう、それは熱くなりすぎて我を忘れる趣味、それがオタ活。
私が回答に困っていると、パンって優しく手を叩いたトワイライトは口を開いた。
「私は、本を読むのが好きです」
「本? その、召喚される前にいた白い空間……だっけ? あそこに本とかあったりしたの?」
「はい、ですがあるのは聖女についての本や女神や混沌、歴史と言った歴史書、記述書ばかりで物語があったわけではありません。たった一冊の本を除いては」
と、トワイライトは何処か含みのあるように言うと一息ついた。
彼女が言う白い空間には、聖女になる為に必要なものが揃っているんだなあとぼんやり思いつつ、此の世界の文化や知識はなくとも神話や災厄、女神については詳しいのだろうと、少し羨ましく思った。私は本当に何も知らない状態で、知っていると言えばゲームの情報だけで召喚されたわけだから、此の世界に馴染むのに時間がかかったし、未だに貴族の生活は分からない。
「それは、囚われのお姫様を王子様が助けにいくというお話です。愛のキスで目覚めるっていう……も、もしかしたら幼稚かも知れませんし、ちょ、ちょっと恥ずかしいのですが」
と、トワイライトは少し恥ずかしがりながら言って、枕で顔を隠した。
彼女はやはり純粋だと思った。そんな本だけが彼女が元いた空間にあったのかと不思議に思ったが、このゲームの最後は攻略キャラと愛の力で災厄を討ち滅ぼす……というシナリオだから、「愛」というものが如何に大事で、大きな力を持っているか純粋なトワイライトに教えるためには良いものだったのかも知れない。
私からしたら彼女の言ったとおり少し幼稚な気がするが、内容によっては泣ける話かも知れないし、伏線とか貼られていて乙女ゲームを何本かプレイしている私でもキュンとする場面があるかも知れない。
そんな感じで、一人考え込んでいると、ちらりとトワイライトがその純白の瞳を向けて私を見てきた。
「お、お姉様のおすすめの本とかありますか?」
「私のおすすめの本か……このせかいには……えっと、まだ、ここに召喚されてきたから本読めてなくて、読む時間が無いほど忙しかったから。ほら、よかったら今度図書館とかいって探さない?」
「本当ですか! 図書館……メイドさん達が、大きな図書館が帝都にあると言ってましたので、今度許可をもらったら是非二人で行きましょう!」
と、少し口を滑らせたがそこには触れずトワイライトは嬉しそうに顔を輝かせた。その笑顔が眩しくて私はうっと目をそらしたが、両手を捕まれてしまい、そのキラキラとした笑顔の星が顔面に直撃した。
まあ、喜んで貰えたなら何よりだし、私も本は好きだったからやはり趣味が合うというか、話も合いそうで彼女と上手くやっていけそうだと思った。
「そうだ、もう遅いし寝ようか……ほら、明日早いし」
「明日用事があるんですか?」
「えーっと、ないけど、ほら私も久しぶりに魔法の練習したいし、トワイライトの魔法も見てみたいし」
「二人で、秘密の特訓というわけですね」
「そ、そういうわけじゃないかもだけど……そういうこと」
そういうことにしておこうと、期待に満ちあふれていたトワイライトの目を見て思った。この子には叶わないなあと思いつつ、私は灯を消してベッドに横になった。私の横にはトワイライトがいてじっと私見ているのが分かった。
「如何したの? 寝れないの?」
「いえ、お姉様が隣にいて下さるので寝れるのですが……」
と、口ごもるトワイライト。
どうしたのかと身体を起こそうとしたときパッと手を捕まれた。
「起きたとき、ちゃんと隣にいて下さいね」
「……っ」
そう言ってにこりと微笑んだトワイライトは、暗闇の中でもはっきり見えるぐらい美しい顔を私に見せておやすみなさい。と優しく囁いた。彼女が言った言葉が、昔、両親に私が言った言葉と同じで、私の目は少しだけ冴えてしまった。
(偶然よね……)