目を開くと息がすごく上がっているのに気づいた。
リアルすぎた。今のはリアルすぎる。 頭を打ちつけても尚、痛みがひどくジンジンして。気持ち悪い。無理すぎる。
が……今いる場所は部屋、いつもの部屋。それがわかって痛みが一気にひいた。
「梨花ちゃん?」
そして微笑む謙太。
この場面、見たことある。謙太が死んだという夢を見た後、起きた時に……。
どういうこと? あれは夢を見て目を覚まして……今回も夢だった、てこと?
夢のまた夢?
「梨花ちゃん、おはよう」
そうだ、このセリフも謙太の微笑みも同じだ。
私は確か……1回目の夢の時に謙太が死んだのを信じられなくて泣いて抱きしめたはず。
「うん、おはよう」
本当はこの言葉も言いたくないほどだ。だってこの時にはもう鷲見とは男女の仲になっているのだ。彼女の証言だと、だけどさ。
「元気ないね。それにすっごくうなされてた」
そこまで……。確かに悪夢だった。
「あ、うん。悪い夢見たから」
なんか彼を軽蔑してしまう。
他の女を抱いてたんでしょ。てか気持ち悪い。
私はふとテレビを見た。
「あなたはやり直したい過去はありますか?」
私はスマホの画面を見るとやはりあの日付に戻っていることを確認する。
「流行ってるらしいね」
ああ、この会話もなんか覚えている。
はあ、頭が痛い。何からどこまでが夢なの? 私、過去をやり直しているの? なんで?
やり直すなんてもっともっと前からやり直して欲しいくらいなのに。なぜこのタイミングで戻るの?
「作り置きしてから寝ちゃったもんね。おなかすいた?」
お腹はすごく空いている。
やっぱり無理。他の女を抱いた男だなんて。
「顔色悪いよ。どうしたの……」
彼の手が私の頭に……私は思わず振り払ってしまった。二人の間に沈黙が流れる。
「ごめん」
「どうしたんだよ、体の調子が良くないみたいだね。まだ休んでて」
謙太はダイニングに行ってしまった。
よくネット広告で夫に不倫された「サレ妻」の漫画を見るけど私がそのサレ妻になってしまったのか。私達にはそんなことがないと思ってたけど。
謙太の場合はお金も勝手に使い込む、他の女と寝る……。それ以外の落ち度はあるのだろうか。てか死んでしまったし。でも自殺か他殺か事故か今回もわからなかったなぁ。
にしても今は生きている、謙太。私の方はハッピーエンドでも彼のバッドエンドはこのまま続くのか、原因が分からない。
あ、お金……私は早急に共同貯金を確認する。アプリを開くとまだ残額は減ってない。じゃあこの時点ではお金は引き落とすようなことはしていない。
ここから彼はお金を引き落として何に使った? 鷲見とデートする為? 特に派手な買い物はしていなかったからそれしかないか。
じゃあどうすれば。
……!
私は思いついて謙太の元に行く。
「謙太」
いつも通りならにこやかに返答はしてくれるはずだ。
「あ、なに?」
……あ、よかった。いつもと変りない。
「さっきはごめんね」
「ううん。スープあっためたから飲む?」
「飲む」
一応こちらから謝らないとね。話が進まない。
あぁ。スープ温かくておいしい。さっきは……高いところから落ちた前は何も食べていなかった、のども通らなかったけどそれなのにおなかすくって不思議。
「あのね、その……共同貯金からお金使いたいんだけど」
そう、先にお金を引き出してしまおう作戦!!!
「えっ? 何に使うの」
少し驚いたような顔をしている。
「……お母さんから連絡有ってさ。ちょっと大きな病院通ってて治療が必要だからって」
「久しぶりに連絡有って……それか。でも、しょうがないよ。親はどうであれ大事にしないとね……梨花ちゃんがどう思うか分からないけどさ」
「うん……とりあえず、この今ある額を全部出していいかな」
とスマホの預金口座の残高を見せた。謙太は驚きもせず頷いた。
「大丈夫。ご両親もなんだかんだで結婚式のお祝い金も出してくれたし、信頼してる。出して大丈夫。またすぐ給与日だからすぐ補填されるし」
「ありがとう。助かります」
と深々と頭を下げると謙太が私を抱きしめてくれた。もちろんこのお金は別のところに保管する。謙太が他で預金していなければ……結婚前にお互いに見せ合ったんだ。貯金はこれだけだと。
だから鷲見さんだったり何かでお金を出すことなんてないはず。
てか親を使っちゃったけどまぁいいか。互いに会うこともないし本当に連絡していないし、何してるか分からないし。そもそも前のとき謙太が死んだって連絡したけども連絡が返ってこなかったんだよね。
あんな親なんて勝手に利用すればいい、嘘の為なら。
そして私のサレ妻ストーリーの方向は決まった。
私をあの毒親から救ってくれた謙太、謙太の一瞬の魔が差したことは目をつぶって再構築する。
そうしよう。
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