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私
の名前はアカリ。
今日は待ちに待った高校の入学式。
桜舞うこの道を歩くだけでも楽しい気分になる! それにしても、制服可愛い!! こんなん着れるなんて最高すぎる……
友達100人作れるかなぁー♪ そう思いながら歩いていると大きな交差点に出た。
信号が変わるまであと10秒くらい……. 早く青になって欲しいけど、なかなか変わらない。
そんな時だった。
1台のトラックが凄いスピードを出して走ってきた。
運転手さん寝てないか!? ヤバいと思った瞬間体が勝手に動いていた。
私は横断歩道を渡りきっていた男の子を突き飛ばしていたのだ。
(あっ、これ死んだわ……)
それは、一瞬の出来事だった。
今朝、いつものように家を出ようとしたら突然車が突っ込んできたのだ。
幸いギリギリ避けることができたけど、車はそのまま電柱に衝突して炎上していた。
運転手の姿はなく、どう考えてもこの事故で助かる見込みはないと思うんだけど、僕はなぜか生きていた。
「あのー、大丈夫ですか?」
ふいに声をかけられ振り向くと、そこには一人の女の子がいた。
年齢は僕と同じくらいだろうか。整った顔立ちをしており、長い黒髪がよく似合っている。とても可愛らしい子だけど、こんな子がこの辺りにいたかな……?
「えっと、君の名前は?」
「私は……」
彼女が口を開いた瞬間だった。僕の視界の端っこに映っていた少女の体が急に大きくなっていって――そのまま地面に倒れてしまったのだ!
「ちょ!? 大丈夫!?」
慌てて駆け寄るけど返事はない。完全に意識を失ってしまったようだ。一体何が起こったのか分からないけれど、今は彼女を病院に連れて行かないと!!
***
僕は彼女を背負いながら走った。背中には確かな重みがあるものの、その体は驚くほど軽かった。
しばらく走ると大通りに出た。タクシーを呼び止めて後部座席に乗り込むと、運転手さんに総合病院まで急いでもらうようお願いをした。幸いなことに病院はすぐに見つかった。受付で事情を説明するとすぐに治療室へと案内された。
それから数分後のことだった。処置を終えた医者らしき人物が部屋から出て来て、僕の方に近づいてきた。
「あの……娘さんの容態はどうなんでしょうか……?」
恐る恐る訊ねてみると、「命に関わるような事態ではないよ」という言葉が返ってきた。
「ただ少し厄介なことになっているようでね……詳しい話は親御さんに直接聞いてもらいたいんだけど、とりあえず君の連絡先を教えてもらえるかしら?」
そう言って医師は紙袋を渡してきた。中には薬が入っているらしい。
「……あの、これは?」
「君の症状を抑え込むためのものだ」
「症状を抑えるって、これ飲めば治るんですか!?」
「ああ、もちろんだとも」
「本当ですか!ありがとうございます!」
僕は嬉しくなって深々とお辞儀をした。これで僕を苦しめていた頭痛からも開放されるのだ。
「ただね、一つだけ約束して欲しいことがあるんだよ」
「なんでしょう?」
「えっと……」
私は目の前にいる女性を見る。
この女性が誰なのか分からない。けれど何故か懐かしい気がするのは何故だろうか。
「うーん……」
私は頭を悩ませる。しかしいくら考えても答えが出なかった。
「あ! ごめんなさい!」
私が困っていることに気が付いたのか女性は慌てて謝ってきた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それより何か用があったんじゃ無いんですか?」
私はそう言うと女性の方に向き直った。
「この方は?」
女性は少しだけ戸惑うような素振りを見せた後、「えっと……」と言い淀む。
「私はこの子の祖母になります。名前は久遠寺麗華。この子は久遠寺玲奈といいます」
「お婆様!」
「あらあらごめんなさいね。まだこの子には教えてなかったものだから」
「いえ。私こそ突然失礼しました。こちらからもお願いいたします。はい。ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきますね。また明日。ごきげんよう」
「……ふぅ。やっと帰ってくれたわ。まったく、これだから殿方は困るのですよね。少し話せば自分の言いたいことだけ言って帰っていくんですもの。本当に面倒くさいですわ」
「それにしても……さっきの方々はいったいどなただったのかしら? 私のことを『美しい』とか、『素晴らしかった』なんて褒めちぎってくださったけど……う~ん、正直よくわからなかったわ。だってあの人達の顔、皆同じに見えるのだもの」
「あぁ、そういえば名前を聞くのを忘れてしまったわ。せっかく貴重な体験ができたっていうのに……とても残念だわ」
「あら、もうこんな時間! はやく支度をして学校へ行かないと遅刻してしまうわ!」
「それじゃ、今日も元気に行ってきます!」
そう言って朝ごはんを食べて、玄関に向かう。靴を履いて外に出ようとした時だった。突然後ろから母さんの声がかかる。
「ちょっと待って! 忘れ物よ?」
振り向くとそこには俺と同じ高校に通うために今まさに家を出ようとしている妹の姿があった。
「あー……ごめんごめん。ありがと」
俺は手に持っていた弁当を受け取る。
「もうしっかりしてよね。いつも遅刻ギリギリじゃない」
呆れたような口調の母さんだが、どこか楽しげでもあった。それはきっと俺のことを信頼してくれている証でもあるのだろう。そんな母さんの期待に応えたいと思う反面、プレッシャーを感じることも多々あったりするのだが。
「大丈夫だって。ちゃんと間に合うように行くからさ」
苦笑しながら答えると、「ほんとかしらね〜」と言いながら首を傾げる。そして最後に一言だけこう付け加えた。
「行ってらっしゃい」
その言葉を聞いて少し安心したのか、笑顔を浮かべる母さん。
「うん。行ってくるよ」
そう返事をして、扉を開ける。
こうして俺――天川三月《あまかわみつき》の新しい一日が始まった。