テラーノベル
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「…大丈夫か?」
「う…ん。ちゃんと景色見えてる」
「なんだよそれ。まぁ、調子戻ったんならいいや」
「戻ってんのかな。自分じゃ分かんないや」
「自分ほど自分が分かんないもんだろ」
「哲学っぽい事言うとか…翔太くんこそ大丈夫?」
「ははっ、調子戻ってんじゃん。ついでに水分補給しとけ。で、着くまで目閉じときな」
「このペットボトル…、…こうなるって知ってて買っておいてくれたの?」
「……さぁな」
未開封のペットボトルは汗をかいていて、置かれてからの時間経過を物語っていた。俺の家に来る前に買った…んだよな、きっと。翔太くんは何をどこまで知っているんだろう。今だって一言の後は黙ったまま。車の中だと口が重くなる俺を慮って、握ったハンドルに意識を集中している。阿部ちゃんとはまた違った空気の心地良さが、甘えたくなる思いやりが、ただただ有難かった。
病院に着いたら阿部ちゃんは精密検査の真っ最中で、結果が出るまで動きようがない俺達は、何となく付かず離れずの距離で立ち竦んでいた。岩本くんもふっかさんも口を開かない。先程の心地良さとは丸っきり真逆だ。充分潤した筈の喉が酷く乾く。
そして、どれくらい経ったか。岩本くんが均衡を破ってふらりと体を翻した。
「…照、どこ行くの」
ふっかさんの問いに岩本くんは髪を掻き乱しながら掠れた声を漏らす。
「喉、乾いたなって。俺…ここ離れてもいい?」
「じゃー俺も着いて行くわ。照一人にさせらんないし」
行き掛けたふっかさんの肩を翔太くんの手が素早く引き留める。当然というか、二人の間に鋭い緊張が走った。岩本くんも俺も、固唾を飲んで動けない。
「……なんで止めんだよ、翔太」
「俺とめめさ、ちょっと話があるから場所変えたいんだよね。マネさん一人じゃなんだし、ふっかさんここに残ってよ」
「はぁ…?照放っとけって言うのかよ?」
「…一人にさせてやれって言ってんだよ」
「っ……、分かった。結果分かったら連絡する」
「いつもありがとな、ふっか。それと…ごめん」
「あいよー…たぁく。そんじゃ俺はこれからの事マネさんと話すかな~…めめ、頼むね」
「任された」
「翔太くん…どういう事?」
「俺も喉乾いたから付き合って。ふっかさんから連絡入ったらまたここに戻るで。…照もそれでいいよな?」
「……オーケー。それまでに頭冷やしとく」
「めめ、俺達はこっち。行くぞ」
阿部ちゃんがいる部屋を背に岩本くんは左へ、翔太くんの後を着いて俺は右へ曲がる。暗闇に消えて行く岩本くんを振り返って眺めつつ歩けば、仄かに明るい場所に出た。ロビーだ。真っ直ぐ自販機に向かいながら翔太くんが問い掛けてくる。
「なに飲む?」
「あ……コーヒー」
「ん。…俺も同じでいっか」
ガコン。独特の鈍い音で反射的に手が伸び、缶を二つ拾って翔太くんを見上げた。切長の目が逸れて長椅子へ向く。同時に並んで腰掛けてから持った一つを渡した。
「で、話って?」
「……目が覚めたら真っ暗だった時の話。もっと詳しく聞きたくて」
「いい、けど…あんまり話せる事ないんだよね。同じ内容繰り返すだけになるかもよ」
「何回繰り返しても構わない。少しでも取っ掛りが欲しくてさ…多分、阿部ちゃんのあの状態と関係あると思うから」
「やっぱり…そう、思うんだ。…うん、出来る限り詳しく話す」
「ゆっくりでいいよ」
「んん~~……駄目だ、さっぱりじゃん」
「だから言ったでしょ、あんまり話す事ないって」
「こういう時に阿部ちゃんがいたらな、…あ…悪い」
「ううん。こういう状況になってさ、改めて阿部ちゃんにおんぶにだっこだったの分かるよね」
「マジでなぁ……ん、待って。そっち方面詳しそうなの一人いたわ」
「…誰?」
「涼太」
「だて…さん?」
「呼んだ?」
「「うわあああぁぁっ!!」」
綺麗にハモる叫び声と、シンクロする振り返り。全く気配を感じさせずに俺達の背後を取っていた人は、ニコニコと微笑みながら首を傾げた。だてさん…だよな。本人?幻覚じゃなくて…?
吃驚し過ぎて言葉が出ない俺を置いて、だてさんと翔太くんは何時もの調子で語り始める。
「呼ばれる気がしてね、来てみて良かったよ。俺の出番なんでしょ?」
「…~お前さぁ、前から来いよ、前からっ!」
「ムードを大切にしたくて。でも目黒も驚くなんて意外だね」
「誰でも驚くっつうの!ほんっといい趣味してんな…。ふっかさんの方は?」
「佐久間達が賑やかにしてるよ。病院だからいけないんだろうけど、今のふっかには必要なんじゃない」
「あぁ…だったら安心か。じゃ涼太、早速頼むわ」
「うん。目黒、俺にも詳しく聞かせてくれる?」
そう言って俺の隣に座るだてさんを、不可思議な存在を見るような目付きで眺めてしまった。少し困った風に眉根を寄せて間を空けてから、澄んだ声でハッキリと告げられる。
「大丈夫。阿部は俺達で絶対に取り戻そう」
ゆぴ
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コメント
4件
おーー❤️ならなんとかしてくれそう!!!笑
更新ありがとうございます♪
第9話、読み終えました…。 翔太くんのあのペットボトル、ちゃんと未開封で買っておいてくれたんだって思うと、もう…じんときましたよ。言葉少なだけど、それだけに想いが伝わってくる感じが好きです。 あと、「一人にさせてやれ」って翔太くんが言ったところ、心がギュッとなった。それぞれが阿部ちゃんを想ってるんだなって。 だてさんの登場シーンも良かった…!不意に出てきて「呼ばれた気がして」って不気味可愛いし、最後の「絶対に取り戻そう」が力強くて、次が気になります。