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アカネ「…ここは…僕は”死んだ”はずじゃ…」

アカネが辺りを見回す。そこは見渡せども見渡せども真っ白な空間で、ぽつりと一つだけある椅子に座って寝ているアカネにそっくりな姿が目立っていた。

アカネ「……。」

アカネは恐る恐るその少年の頬を指でつつく。

アカネにそっくりな少年「ん………なぁに?」

アカネにそっくりな少年がその伏せていた目をゆっくり開ける。その少年の瞳孔はまるで炎のようだった。

アカネ「その瞳孔…。アカネ…君?」

アカネがそう問いかけると、アカネにそっくりな少年は大きく伸びをすると答える。

アカネにそっくりな少年「そうだよ。」

そう答えると、その少年の耳についた蝶を象った紫のイヤリングが揺れた。

アカネ「それは…」

イヤリングをしたアカネ「これ?…深い意味はないけどそっくりな姿が居たら混乱しちゃうだろうから、区別が出来るようにね。」

アカネ「…アカネ君は死んだはずじゃ…」

イヤリングを付けたアカネ「うん。僕は確かにあの日死んだよ。間違いなく。」

アカネ「なら…というか何故僕は…」

イヤリングを付けたアカネ「落ち着いて、順番に説明するから。…まずこの空間から説明しようか。…ここは僕が生前作った魔法で出来た空間だよ。…未完成の、ね。」

アカネ「未完成…?」

イヤリングを付けたアカネ「うん。…元々ここはお母さんの為に用意した魔法でね。最も完成する前に僕は死んでしまったけれど。」

アカネ「マスターの為…なら何故僕が…」

イヤリングを付けたアカネ「それもちゃんと説明するよ。…まず最初に、君の記憶メモリはまだ”生きている”。奇跡的にね。」

アカネ「…!生きて…」

イヤリングを付けたアカネ「うん。生きているよ、まぁ正確には生かしているだけれど。」

アカネ「…?」

イヤリングを付けたアカネ「…君はアカネじゃない、そうだね?…正確には僕の弟に当たるのかな、弟ずっと欲しかったんだ。…生きている内にどうして作られなかったんだ…!」

そう言うと、イヤリングを付けたアカネは膝を床につき酷く落ち込む。

アカネ「そ、それは難しいかと…。」

イヤリングを付けたアカネ「…否定はしないんだね。」

アカネはただただ沈黙を貫く。

イヤリングを付けたアカネ「…魔法って曖昧なものでね、案外信念とか関係あるんだよ。」

アカネ「信念?」

イヤリングを付けたアカネ「うん。…君は自分に”心”があると信じた。…そしてソレは記憶メモリに宿ってると認識、定義した。」

アカネ「アカネ君って…もしかして僕より知能が高いのでは…」

イヤリングを付けたアカネ「ただの年の功だよ。…とにかく、君がそう信じたから僕”達”は手が出せた。…今君がここに居るのは延命行為だよ。」

アカネ「…延命行為。」

イヤリングを付けたアカネ「…一つだけ教えて欲しいんだ。…どうして予備の記憶メモリを全て壊してしまったの?…いずれは”死”を迎えるとわかっていながら。」

アカネ「……妄執に囚われるのはあまり良いことではありません。」

イヤリングを付けたアカネ「そうだね。」

アカネ「…意味が無いと思ったんです。…僕はマスターの力になりたい。マスターに幸せでいて欲しい。…だから僕が邪魔だと思ったんです。マスターの為なら、僕は”死”んでもいいと、そう確かに思ってたんです。」

イヤリングを付けたアカネ「うん。」

アカネ「…なんで今になって気づいたんでしょう。…死にたくないなぁ…。」

アカネの頬を一筋の水が伝う。

アカネ「…?なんで…」

イヤリングを付けたアカネ「僕達がこの空間に呼んだのは、君の機体ではなく君の”心”が宿った”記憶”だからね。君が人間であるか、アンドロイドであるかなんて関係ない。」

アカネ「………。」

アカネの体は、とめどなく涙を流す。

アカネ「…マスターが作ってくれたこの目で、まだまだ色んなものを見ていたかった。…マスターが作ってくれた足でもっと、歩きたかった。…マスターが作ってくれたこの腕で、マスターのお手伝いがまだまだもっとしたかったなぁ…。」

アカネが泣き崩れていると、空間にピシリとヒビが入る。

イヤリングを付けたアカネ「…!時間が…」

アカネ「時間…?」

イヤリングを付けたアカネ「…この魔法は未完成だと言ったでしょ?それは魔法の主である僕が完成前に死んでしまったから。…今この空間は人の力、アヴィニア人の力を借りて無理やり擬似的に完成させてる。作った人と違う魔力を無理やり供給させてる。だから長くは持たないんだ。」

アカネ「アヴィニア人…聞いたことならありますが…」

イヤリングを付けたアカネ「僕はあの日、息絶えた日に傍にいた人に頼み事をしたんだ。ベツも、お母さんも突っ走りそうだったからね。兎に角、その人に僕はもし、アヴィニア人に出会うことがあればこの魔法を完成させてくれと頼んで欲しいと頼んだ。」

アカネ「じゃあ今どこかにアヴィニア人が…?」

イヤリングを付けたアカネ「うん、ノアって人がね。少し省くけど記憶に関しての魔法が使えるんだ。今、必死に君の記憶メモリが潰れないようにもしてる。…ただなんでかなんて知らないけど異常をきたすほどの魔力欠落を起こしてる。…だから余計時間はない。このままじゃ命を落としかねない。」

アカネ「ノアさんが…!?」

イヤリングを付けたアカネ「君を延命させてるのは意味の無いことなんかじゃない。よく聞いて、僕達がここに呼んだのには意味がある。このままじゃ君どころか全員死ぬ。」

アカネ「……。」

イヤリングを付けたアカネ「…でも方法が無いわけじゃない。」

アカネ「なら…!」

イヤリングを付けたアカネ「…君は性質が僕によく似ている、親子でもないのにここに来られるくらいには。だから高確率で成功はする。…でもそれをすれば君の記憶メモリは今度こそ焼け焦げる。」

アカネ「構いません。」

アカネは迷うことなくそう答える。

アカネ「…死ぬのは嫌です。でも…マスターが居ない世界は…もっと嫌だ。」

イヤリングを付けたアカネ「…分かった。」

空間にまた1つピシリとヒビが入る。

イヤリングを付けたアカネ「…!ごめん、君はもうここから出さないとまずい。」

そういうと、少年はぐいぐいとアカネを押す。

アカネ「わっわっ…」

アカネが困惑していると、少年はアカネの背中を押す。

イヤリングを付けたアカネ「お願い、お母さんを守って。」

アカネ「…必ず守ります。」

イヤリングを付けたアカネ「うん。行って。」

少年がそう言うと、アカネは何も無い空間から消える。

イヤリングを付けたアカネ「……。」

どれくらい何もせず立っていただろうか。

ノア「…アカネ君。」

イヤリングを付けたアカネ「ノアおね…ん?おにぃ…?…よく考えたらどっち…?いや、そんなことより大丈夫なの…?」

ノア「なんとかね。ギリギリではあるけど。大丈夫心配しないで。あと僕は性器がないからどっちでもないよ。」

イヤリングを付けたアカネ「それならいいんだけれど…。…アヴィニア人って不思議だね…。」

ノア「…ボクが特殊なだけだよ。それよりも」

イヤリングを付けたアカネ「?」

ノア「1人で最期を迎えるのは寂しいでしょう?…ボクでよければ君のことを話して欲しい。弟くんが出ていってここに居るのは魔力がある人達だけ。少しは持つはずだよ。」

イヤリングを付けたアカネ「…ノアさんは」

ノア「君は自分の心配だけしてなさい。」

そう言ってノアはアカネを撫でる。

イヤリングを付けたアカネ「感覚はもう…」

ノア「ボクの自己満だよ。」

ノアがそう言うと、アカネは観念したようにため息を付き、話し始める。

アカネ「…僕、物心ついた頃にはもう永くないって分かったんだ。…何を見てそう分かったかは覚えてない。父親が逃げたことか、石を投げられたことか、心当たりがありすぎて。」

ノア「うん。」

アカネ「…それで母さんが心配になった。」

ノア「……。」

アカネ「母さんは、僕が産まれる前から差別的な目に晒されてた。昔から獣人としての身体機能が低いから…。そんな中出会ったのが父さんだったんだ。」

ノア「優しい人だった?」

アカネ「わかんない。…でもきっと本当は優しかったんだろうね。…だけど僕が産まれてすぐ、僕が魔法を使えると知った途端逃げていった。」

ノア「…出産後は中々動けないのに酷い話だね。」

アカネ「うん、でも仕方がないのかなって。ヒトは未知を恐れる生き物だから。恐怖に飲まれてしまったのかもね。僕だって、未知が怖いから魔法を研究していたんだから。」

ノア「……。」

アカネ「それでも母さんは、女手一つで誰に何を言われようと、舐められて安い賃金で働かされても、文句のひとつも言わずいつも僕の目の前では笑顔を向けるようにして必死に育ててくれた。」

ノア「いいお母さんだね。」

アカネ「僕もそう思う。…出来ることならまた会いたかった。…案外妄執に囚われているのは僕の方かもね。」

ノア「アカネ君…。」

アカネ「そんな母さんが僕まで失ったらと思った。僕は自意識過剰でもなく正当な評価を下しているつもりだよ。…僕も弟が危惧したように妄執に囚われるんじゃないか、廃人にでもなってしまうのではないか、なんて考えた。」

ノア「…そう。」

アカネ「だから、この魔法を作り始めた。…この魔法の本来の役割は、母さんが妄執に囚われることのないように死を迎えた僕が話せるようにした空間。だけど完成にはかなり長い時間がかかるものだった。だから…未完成になってしまった。…君が魔法を完成させてくれるまでは。」

ノア「未完成とはいえ、この魔法はとても緻密に出来ているよ。僕は小さな小さな穴を蓋をして塞いだだけだよ。」

アカネ「君には凄く感謝してるんだ。…この魔法は死体まで持って来れない。精神を一時的に肉体から切り離して、ここに隔離してる状態で役目を終えて魔法を崩れるまで、いわば閉じ込めてる状態。…でも未完成になった結果、当初の予定と違って、死に近しい状態で尚且つ魔法の主である僕に性質がかなり近い人でしかここに入れなくなった。…永い永い間…ずっと1人だった。…気の狂うことも許されず…訪れるはずがない日を夢見た。…君が来るまで。だから本当に感謝してるんだ。…ありがとう。」

ノア「どういたしまして。…でも君が選んだのは」

アカネ「母さんじゃなくて弟を選んだことを言ってるんだよね。確かにノアさんが手伝ってくれたおかげで、いつでも母さんを呼ぶことが出来た。…でも気づいたんだ。母さんはとっくに妄執を断ち切っている。必要が無いんだ。…なら皆の命を優先するべきだ。」

ノア「…そっか。…君さえよければ…”記憶”を通して、マリアさん達のことを見れるよ。」

アカネ「…大丈夫なの?」

ノア「…君が気にする必要はないよ。…それと何か伝えたいことがあれば…ボクから伝えるよ。」

アカネ「…じゃあお願いしてもいい?」

ノア「もちろん。」

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