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年上男子と腹ペコ女子

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年上男子と腹ペコ女子

3 - 3話  不思議な食卓のはじまり

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2023年06月01日

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カーテンの隙間から漏れる光で、 微睡(まどろ)んだ(意識がゆっくりと覚醒していく。今日は仕事が休み、時刻は午前8時をまわったところ。ベッドから身体を起こして背伸びをする。なんて清々しい朝なんだ。

だけど、なんだかいつもと身体の調子が違うような…。

「…そうだ!」

お腹が減ってないんだ!最近朝は空腹で起きてたんだけど、今日はそんなことがない。それもそのはず、昨日はお隣の 芥 (あくた)さんに夕飯を食べさせてもらったんだから。……本当に申し訳ないことしたなぁ。

それにしてもあの人、口調は荒いのにお人好し過ぎる。ほぼ無理矢理、毎日の夕食を一緒に食べる約束をさせられてしまったけど、よく考えたらやっぱりおかしいよ。

今日は幸い休みだ。お礼を買って、それを渡してきちんと断ろう。


夕方のいつもよりだいぶ早い時間、芥さんの部屋の前に立ち、条件反射で大きく息を吸う。……あ、何だかふんわり甘いお醤油の匂いが。何を煮込んでるのかな?炒めてはいないみたい。

「美味しそう……お肉かな……?」

ポーッと匂いを嗅いでいる自分にハッとする。ダメだダメ。今日は断りに来たんだから。

インターホンを押すと中から足音がした。ガチャリと鍵が開いて、中から髪を縛っていない、昨日とは少し違う雰囲気の芥さんが顔を出す。

「こんばんは」

「おう、飯できるまで中入って待ってろ」

芥さんが扉を開いてくれたけど、 一向(いっこう)に中に入ろうとしない私に首を 傾(かし)げる。

「どうした?」

「これ、昨日のお礼です」

「別に気にすることねぇのに。悪りぃな」

「それで、あの……」

「んだよ」

「昨日の約束のことなんですけど……一緒に夕飯を食べるっていう。あれ、やっぱり大丈夫です、私」

「は?」

「昨日は確かに助かりました。……だけどやっぱり毎日なんて芥さんに申し訳ないし……私のことなら大丈夫なので、」

「……へぇ」

「……な、なかったことに してください……」

私が 吃(ども)りながら発する言葉を、芥さんは玄関の壁に寄りかかり、目を細めつまらなさそうに聞いていた。そして最後まで聞くと深い溜息を 吐(つ)く。

「まぁ、雫ちゃんがそこまで言うなら仕方ねぇよな」

「すみません」

「……あーぁ、今日の飯は 豚の角煮だったのにな」

「角煮……?」

「長い時間肉がほろほろになるまで煮込んで、食うと脂身が口の中でとろけて半熟卵はしっかり味が染みてて、割って出てきた黄身を肉に絡めるとすっげぇ美味いのになぁ」

「うっ」

「でも、なかったことにするんだもんな……俺だけで食うか」

そ、そんなに美味しいの?豚の角煮って特別な日しか食べられない、お肉ほろほろ脂身ジュワッのあれだよね?あの甘くてしょっぱくて、口に入れると 唸(うな)っちゃうような幸せな料理。

自分の意思がグラグラと揺れている。食べたい、だけどここで食べたらもう今後断れなくなっちゃいそう。

悩む私を眺めていた芥さんは、堪えきれなかったのかブッと吹き出した。

「フッ、…ククッ……そんなに難しそうな顔で必死に我慢してんなよ」

「えっ?」

「とりあえず飯食ってから決めようぜ。どうするか」

「えっえっ、ちょっと、」

手首を引かれ部屋に引き入れられると、抵抗するまもなく部屋中に漂う角煮の匂いでノックアウトされた。


「……ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

「そ、それでさっきの話ですが…」

「おう、そうだったな」

結局食べてしまった。ダイニングテーブルに向かい合って座り、満足そうに笑う芥さんにさっきの話を切り出そうとすると 遮(さえぎ)られた。

「食いっぷりから見て、雫ちゃんはここで飯食うの嫌ではないんだろ?」

「まぁ、そうですけど…」

「あのなぁ、誘ったのは俺なんだよ。だから申し訳ないとかそんな言葉はいらん」

「……でも、芥さんだって仕事してるじゃないですか。帰ってきて私のご飯まで作るのなんて疲れますよ普通」

「普通はな」

「それに、…会ったばかりで正直まだ芥さんのこと知りませんし…」

語尾が小さくなる。そんな私を見て芥さんは目を丸くし、近くに置いてあった 鞄(かばん)から名刺入れを取り出した。そこから一枚名刺を取り出すと、私に向かって差し出す。

「これ」

「はい?」

「ここに俺の勤め先、電話番号アドレス、書いてあるだろ」

名刺には芥さんの名前と、某大手家具量販店本社勤務、次長…?え、この人次長なの?しかもそんな大きな会社に勤めてるのになんでこんなアパートに…?

「肩書きはデカく感じるかもしれねぇけど、何も普通の社員と変わらねぇ。仕事も定時に上がれるようにやってるから飯を作るのも全く苦じゃない」

「そうなんですか?」

「寧(むし)ろ料理が好きなんだよ。俺は誰かに食わせたい、雫ちゃんはキチンとした飯を食いたい。そう考えたらお互い何の問題もないと思うんだが」

「確かにそうですけど」

「ここで飯を食えば寂しくない。腹も心も満たされて一石二鳥じゃねぇか」

口角を上げた芥さんに、もう何も返す言葉はなかった。だって全部図星だもん。

料理上手な芥さんが、お隣というだけで私を選び、ここまで良くしてくれる理由は分からない。だって芥さん程のルックスなら、女の子を誘えばきっと何人でもきてくれるだろうし。

けど、もうもやもや考えててもキリがない気がする。腹をくくろう。私はペコリと頭を下げる。

「よろしくお願いします」

「最初から大人しくそう言えよ」

「食費は払いますから」

「いらねぇ。ガキから金はとらん」

「だから子供じゃないです! 」

ここから、私と芥さんの不思議で優しい食卓が始まった。

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