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注意事項
〇暴力・流血表現。
〇登場人物の深い絶望や精神的苦痛の表現。
〇自決、及びそれに伴う死の描写有り。
〇バッドエンドの作品となります。
〇衝動書きの為、拙い文章です。
〇なかなかに生々しい表現が有ります。御自衛下さい。
以上の事をご理解の上、本作品をお楽しみ下さい。
「俺は、この世界全てを、俺の物にする」
和輝はニヤリと不気味に笑ってみせた。
「そうして、争いの無い、完璧な世界を作るんだ!」
辺り一面、何も無い戦場で和輝は声を上げた。
平和な世を作るために、多くの人々を殺しても良いのかと、彰は思った。
「じゃあ、俺が、俺が消してやるっ!」
気が付いたら、彰は叫びだしていた。
「このくだらない争いも、お前の馬鹿みてぇな野望の炎もなぁ!!」
利き手に持った剣を構え直し、彰は和輝に風を切り裂きながら勢い良く、斬り掛かった。
だが、そんな単純な攻撃を受けるほど和輝もやわじゃない。
和輝の持っている短剣と彰の剣がぶつかり合い、火花が散る。
これは、正義と正義がぶつかった戦い。誰が悪い訳でも無い。行き過ぎた正義と、それを止める正義。どちらが勝つのかなんて、誰も分からない。
「この世界のすべてを敵に回しても、やめるわけには、止まるわけにはいかないんだっ!」
和輝も負けずと短剣を華麗なまでに扱い、彰の心臓めがけて突き付ける。彰はなんとか、和輝の短剣を防ぐ。
なんて重いのだろうか。以前戦った時とは比べ物にならないほど、重い短剣だ。
彰は焦ったのだ。以前よりも断然強い和輝に。このままだと、負けてしまうのでは無いか、と。
ジリジリと彰は押されていっている。
和輝の振りかざす短剣が彰の髪を斬り、頬の皮膚を割いた。それは和輝も同じだ。彰の振りかざす剣が和輝の服を裂き、腕に傷を付ける。
辺りには血の匂いが充満していた。
鼻を突くような鉄の匂い、金属のぶつかる音、荒い二人分の息。
何分、続いたのだろう。とうとう、彰が倒れた。
「彰、、、、、、」
和輝はそこまで言って口を噤んだ。
元親友を自分自身の手で斬った。その事実が今、彼の心を壊しかけている。自身の正義を、貫いただけだと言うのに。
「まだ、まだだ。まだ、俺は負けてねぇっ!」
彰はよろめきながら、剣を杖のようにして立ち上がった。
「まだ、和輝を助けられていない!」
彰は、和輝の事を“元”親友だなんて考えていない。“今も”親友なのだ。そんな親友が苦しんでいる。彰が動く力はそれだけで湧いてくる。
例え、自身の命と引き換えにしてでも、和輝を救えたのなら良いと言わんばかりの勢いだった。
「どうして、お前は、俺を助けようとするんだ!」
真っ黒に染まってしまった和輝の瞳から、一雫の涙が漏れ出た。
「助けようとしてんじゃねぇ!助けるんだ!これは、決定事項だぁ!」
和輝にビシッと指をさして彰は叫んだ。
彰は勢い良く剣を振るった。その剣は、まるで空をも斬り裂く矢のような速さだった。
「っ!」
その瞬間、和輝の手に握られていた彼の瞳のように黒く染まった短剣は、弾けるようにして飛んで行った。
もう和輝は武器を持っていない。剣を持った彰に、和輝が力勝負で勝てるわけないのだ。
「満天の星空を二人でのんびりと眺めていたあの頃のままだったら、どれ程良かったか」
膝から崩れ落ち、悲しそうに眉を下げ、和輝はそう呟くようにして話す。
ゴリッと和輝の口の中から不気味な音が聞こえた。
「俺を、助けるって言ったな、俺は、どうせ、地獄行きだ」
血を吐きながら、和輝は彰に向かってそう言い放つ。
「あばよ、親友」
力無く、そう言い残して和輝は目を閉じ、眠りに就いた。永遠の、眠りに。
「和輝っ!」
彰が何度名前を口にしても和輝は返事をしない。体も冷たくなっている。
匂い的に、毒を口内に忍ばせていたのだろう。それを、噛んで、和輝は死んだ。
「馬鹿、馬鹿!馬鹿ぁっ!和輝の馬鹿野郎っ!」
氷のように冷たくなった和輝を抱えて、彰は泣き叫んだ。彰の力強いオレンジ色の瞳には、絶望が映し出されていた。
「俺の目指す、ハッピーエンドは!お前が居なきゃ成り立たねぇんだよ!」
ただ、ただ、泣き叫ぶ事しか、彰にはできなかった。
「世界中の人も救いてぇよ。でもよぉ、一番は、和輝を救う事だったんだぜ、」
いくら話しかけても、叫んでも、和輝からの返事は無い。涙と汗と鼻水でグチャグチャになった顔で彰は天に向かって叫び続けた。
早くも腐敗臭のする和輝の体にはハエがたかり始めている。
「この世には、神も仏も居ねぇのかよ!居んならさ、和輝を助けてくれよっ!」
いくら叫んでも返事は無い。彰の心に残ったのは、永遠に抱え続ける事になるであろう、絶望ただそれだけだった。