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Side桃
「ケホッ、ケホ…」
最近は咳とかむせるのも多くなってきた。まるで、病気を無視して働き続ける俺を自身の肺が𠮟りつけているみたい。
キリキリと軋む胸をTシャツ越しにさすりながら、マネージャーとのやり取りを確認する。
そこに記されている電話番号を押した。
しばらく電子音が響いたあと、聞き慣れた声がする。
『はい、もしもし』
「あの…京本ですが」
そう名乗ると、相手——ソニーの担当スタッフさんは、驚いた声を出した。
『え、京本さん?』
「マネージャーから連絡先を聞いて、掛けました。今大丈夫ですか?」
『はい。でも何で?』
「ちょっと今日はお願いしたいことがあるので」
そして、この間6人で考えた案を話す。わくわくしている反面、もし断られたらどうしようと不安もあった。
『あっ、そうだったんですか。収録ができなかった…。それで、プレイリストをこっちでやりたいんですね?』
はい、とうなずく。「あ、あと」
俺は唾を飲み込んで言った。
「生演奏でやりたいです」
緊張して答えを待っていると、相手は声色を明るくして言った。
『ぜひやりましょうよ! 最近、京本さんのそんな熱のこもった声聞いたの久しぶりですし。早速準備します』
急速に進んでいく話に自分でびっくりしながらも、嬉しい思いでいっぱいになる。
「ありがとうございます」とお礼を告げ、電話を切った。
気持ちは楽しいけれど、胸は相変わらずちょっと痛い。
心と身体って連動してるんじゃねーのかよ、と勝手に毒づく。
「んんっ、ケホッ」
肺や気管支の違和感を取り除こうと咳払いをしたが、それのせいで痛みはさらに追い打ちをかけてくる。
「いって! うぁっ…」
よろめく足でソファーから立ち上がり、痛み止めの薬を取りに行く。
錠剤を口に放り込んで、水で胃に流し込んだ。
「まだ…まだダメなんだよ、耐えてくれ」
視界の隅に、見えるように飾ってある俺らのCDをちらりと捉えた。
その左端には、モノクロに赤の差し色が効いたジャケットが。
「あれが、最終ミッションなんだって」
俺の嘆願がやっと届いたのか、胸痛はだんだん治まってきた。
「ふう…。頑張らねーとな」
そして数日後、スタッフさんたちが動いてくれて撮影の詳細が決まってきた。
それはおよそ3週間後。いわば、俺の決戦の場。
何としてでも決めなくちゃ。
あそこで納得いくパフォーマンスができなかったら気が済まないような気がしていた。
病気には、たぶん勝てない。
だけど、俺はこのまま闘い続けるしかない。
そう自分自身に宣戦布告をした。
続く