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一ノ瀬ルナ
10
#日記
QuartoMew
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62
フユめん
380
第14話「月の下で」
───結翔side
───ついに、アイツと面と向かって話す時間がやってきた
やっと……
やっと、この時が来た
俺がどれだけ待っていたことか
誰にも相談できなかった
何を聞けばいいのかも分からなかった
ただ、あの日の蓮が頭から離れなかった
寂しそうで
何かを諦めたようで
それなのに――
目だけは、妙に優しかった
俺には関係ない
そう思おうとした
何度も、そう思おうとした
でも、無理だった
だから今日、俺はここへ来た
──────その気持ちを、今日ここで
ちゃんとアイツにぶつけるために
結翔「……ここだよな」
月明かりに照らされた、いつもの場所
その先に、一人の人影があった
蓮「……あ、結翔くん」
結翔「……」
月を見つめていた蓮が、ゆっくりと振り返る
その顔を見た瞬間
結翔「…!」
俺は言葉を失った
妙に落ち着いた声
穏やかな表情
優しいのに、どこか遠い
儚くて
それなのに――
どこか幼かった
子供っぽいわけじゃない
何も疑わず誰かを信じていた頃のような
まだ何も諦めていなかった頃のような
そんな、心の奥に残った幼さだった
まるで――
誰にも見つけてもらえないまま、ひとりで大人になることを覚えてしまった少年のようだった
蓮「……こうやって会って話すの、何ヶ月ぶりだろうね」
結翔「まぁな」
結翔「お前も色々あったみたいだし、仕方ないだろ」
蓮「……」
蓮「学校に来られなかった大きな理由は、家の事情なんだ」
結翔「家の事情か」
蓮「俺ん家、親父しかいないから」
蓮「普通の家庭とは、少し違うんだよ」
結翔「…………」
蓮「昔から、色々あってさ」
結翔「その色々ってのは……どうなんd───」
蓮「……深掘りしてどうすんの?」
結翔「…………」
蓮「そういう人ってさ」
蓮「相手が踏み込まれたくないところまで、平気で踏み込もうとするじゃん」
蓮「自分は心配してるだけ」
蓮「知りたいだけ」
蓮「助けたいだけ」
蓮「……そうやって、自分に都合のいい理由を並べてさ」
蓮「嫌われることを恐れてない人がやることだよ」
蓮「自分が正しいって思い込んで、相手の気持ちまで勝手に決めてしまう」
蓮「……そんなクソみたいな人間になってしまうよ?」
結翔「…………」
皮肉なのか
忠告なのか
それとも、これ以上踏み込むなっていう意思表示なのか
俺には分からなかった
でも――
ここで引くつもりはなかった
結翔「……俺は、お前が話したくないなら無理に聞くつもりはねぇよ」
蓮「…………」
結翔「でも、俺が知りたいと思ったことまで諦めるつもりもねぇ」
結翔「お前が何を抱えてるのか、知りたいと思った」
蓮「…………」
蓮はしばらく俺を見ていた
そして――
蓮「俺が今何を抱えてるか言ったからって何の意味もない」
蓮「いい加減理解してくれる?」
結翔「…………」
蓮「どれだけ俺のことを気にかけても」
蓮「どれだけ俺のそばにいたって」
蓮「……それで、本当に俺を救えると思う?」
結翔「…………」
蓮「前に見ただろ」
蓮「仕事をしてる俺を」
蓮「……あれを見ても、まだ同じことが言えるのかって話」
結翔「…………」
蓮「もし――」
蓮「俺が、結翔くんの思ってるような人間じゃなくても」
蓮「俺が、真っ当な人間じゃなくても」
蓮「それでも俺の目を見て、同じこと言える?」
蓮「『助ける』って」
蓮「『救う』って」
蓮「……まだ、そんな綺麗な言葉を俺に向けられる?」
結翔「…………」
蓮「俺が何をしてきたのか知っても」
蓮「俺が、どんな人間なのか知っても」
蓮「それでも……同じことを貫き通すつもり?」
結翔「…………」
何も言えなかった
蓮の言葉が、胸に引っかかっていた
俺だって分かってる
俺は蓮のことを何も知らない
何をしてきたのかも
何を抱えているのかも
何を隠しているのかも
それでも――
結翔「……救えるかどうかなんて、俺には分かんねぇよ」
蓮「…………」
結翔「お前が何をしてきたのかも知らねぇ」
結翔「どんな人間なのかも、まだ全部は知らねぇ」
結翔「だから、分かったようなことを言うつもりはねぇよ」
蓮「…………」
結翔「ただ」
結翔「俺は、お前のことを知りたい」
結翔「それだけは変わらねぇ」
蓮「…………」
蓮は何も言わなかった
ただ、俺を見つめていた
蓮「……そう」
結翔「…………」
蓮「……まぁいいや。」
蓮「俺は止めない」
結翔「止められても、俺は引くつもりはねぇからな」
蓮「…………」
蓮はそれ以上、何も言わなかった
ただ、月を見上げる
その横顔は、静かだった
けれど――
蓮「(……真っ直ぐなところは、結翔くんのいいところなんだろうね…)」
蓮「(でも……今の俺には、それが痛いのはなんでだろう)」
蓮「(真っ直ぐ見られるほど、隠しているものまで見透かされそうになる)」
蓮「(俺はもう……そっちには戻れないのに)」
蓮「(真っ当な人間に戻れるなんて、もう思ってない)」
蓮「(……諦めればいい)」
蓮「(何も期待しなければ、何も失わない)」
蓮「(その方が、ずっと楽なのに)」
蓮「(……なんで、折れないんだよ?)」
蓮「…………」
蓮「……結翔くん」
結翔「ん?」
蓮「……そろそろ帰った方が良さそうだし、行こ」
結翔「……ああ」
二人は並んで歩き出した
しばらく、何も話さなかった
やがて、分かれ道に差しかかる
結翔「じゃあな、蓮」
蓮「……(ここでまたね、って言えるような人じゃない……よな。)」
結翔はそのまま歩き出す
けれど――
数歩進んだところで、足を止めた
結翔「……あ」
蓮「?」
結翔「一つだけ言っとくわ」
蓮「…………」
結翔は振り返った
月明かりの中で、まっすぐ蓮を見る
結翔「お前が自分をどう思ってるのかは知らねぇ」
結翔「何をしてきたのかも、これから何を選ぶのかも、俺にはまだ分からねぇ」
結翔「でもな」
結翔「お前が自分で自分を見放したからって、俺までそれに付き合うつもりはねぇよ」
蓮「…………」
結翔「お前が自分を嫌いになる理由を、俺が勝手に決めることもしねぇ」
結翔「だから――」
結翔「お前が自分のことを諦めるなら、それはお前の勝手だ」
結翔「でも、俺までお前を諦めたことにするのはやめろよな」
蓮「…………」
結翔「俺はまだ、お前のこと何も知らねぇんだから」
結翔「だったら、知りもしねぇ人間を勝手に終わらせるほど、俺は薄情じゃねぇよ」
蓮「…………」
結翔「じゃあな!」
蓮「…………」
結翔は今度こそ走っていった
夜道を駆けていく背中が、少しずつ遠ざかっていく
蓮「…………」
蓮は、その背中を見つめたまま動けなかった
何も言えない
何も返せない
さっきまでなら、いくらでも言葉を返せたはずなのに
今は――
一つも出てこなかった
蓮「………なんだよあれ……ッ」
声が震える
蓮「お前は……どれだけ……っ」
蓮「本当に……っ、どこまで……」
言葉が続かない
蓮は俯いて、片手で顔を覆う
蓮「…………なんなんだよ」
蓮「……そんなこと言われたら……」
その先だけは
どうしても言葉にできなかった
ただ――
遠ざかっていく結翔の背中を
いつまでも見つめていた
コメント
1件
リオンです。第14話、読み終わりました。 結翔くんの「俺までお前を諦めたことにするな」という台詞、すごく響きました。蓮くんが自分を「普通じゃない」と決めつけて諦めようとしているのに、結翔くんは「知りもしないのに終わらせるな」と真正面から否定する。この構造が鮮やかで、二人の距離感が月明かりの夜に浮かび上がるようでした。 蓮くんの独白「真っ直ぐ見られるほど隠しているものまで見透かされそうになる」という感覚も、設定に裏打ちされた深みがあって好きです。結翔くんが何を知らないのか、これから何が明かされるのか——伏線としても巧みに配置されていて、続きが気になります。