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#創作
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エメラは口こそ閉じているが、目を見開いて固まった。見覚えのある青年だからだ。
その青年がアディのデスクの前で立ち止まり、一礼をする。
「アディ様、初めまして。僕はクルスと申します。よろしくお願いします」
エメラは彼を忘れもしない。先日、森で密猟者から助けた青年だ。
深緑の髪に金色の瞳、その爽やかな笑顔すらもアディに似ている。
(どういう事ですの? クルスさんが側近の志願者……!?)
エメラは動揺して金の瞳を泳がせるが、クルスはエメラとは目を合わせない。真っ直ぐに正面のアディを見ている。
当然、アディはクルスと初対面。クルスこそが無謀にもエメラに求婚した男だという事を知らない。
アディはデスクの上に用意されたクルスの履歴書を見ながら面接を進める。
「へぇ、クルスくんは僕たちと同じ『バードッグ』なんだね。じゃあ、側近を志願した理由を聞かせてよ」
アディの隣で平然を装っているエメラだが、内心は気が気じゃない。魔獣の本能で胸騒ぎを感じているのだ。クルスの思惑もだが、アディが彼を恋敵だと知った時が恐ろしい。
「はい。アディ様は僕の憧れの存在であり、心から尊敬しているからです」
「え、そんなに僕を? もっと詳しく教えてよ」
アディは調子に乗って、さらに褒め言葉を引き出そうとしている。
「強くて聡明で容姿端麗なアディ様に少しでも近付きたくて……僕、実は髪型とかも真似したんです」
同種族だから容姿が似ているのは当然だが、髪型や口調などもアディに似せていたのだ。
それにしたって、どうもわざとらしいとエメラは疑ってしまう。クルスの狙いはアディではなく、エメラのはずだからだ。
すっかり気分が良くなったアディは、隣に立つエメラに目配せをする。
「エメ姉。どうかな、クルスくんは」
その口調は、『側近に採用してもいいよね』という同意を求めるニュアンスに聞こえる。
しかしエメラはクルスに対する不信感が拭えない。そこで、少し大胆な方法でクルスを試してみる事にした。
エメラはデスクに座るアディよりも一歩前に出る。魔獣王にも負けない威厳の立ち姿だ。
「クルスさん、初めまして。わたくしはアディ様の婚約者、エメラと申しますわ」
エメラは『婚約者』を特に強調して名乗った。さらに、わざと初対面であるかのような口ぶりで。何かを言われても覚えていないと言えばいいだけ。
もしあの日、クルスがエメラの胸元のペンダントを見ていたのなら、エメラは婚約していると気付いているはずだ。
クルスは全く動じている様子はない。微笑を絶やさずに変わらぬ口調で答える。
「はい。エメラ様の事も前々から全て存じ上げてます」
だが、それはエメラにとっては予想外な答えであり、彼の真意が謎めいてきた。
(知ってますの!? なら、なんで……)
クルスは、エメラが婚約していると知っていて求婚してきた。それを断られたにも関わらず、今またこうして近付いてくる。
エメラの婚約者はアディなのだ。敵う相手ではないのは分かっているはず。
こうなったら、エメラも多少わざとらしく対抗するしかない。
「わたくしとアディ様は熱愛ですのよ! それはもう……最高にラブラブなのですわ!」
ここに来て、なぜかエメラは語彙力を失った。しかしクルスは冷静さを失わない。
「はい。そんなラブラブなお二人を支えたいと思い、側近を志願しました」
エメラに語彙力を合わせた上に、見事に面接の答えとして完結させた。クルスという青年は大胆不敵なだけあって、ただ者ではない。
そしてアディはと言えば当然ながら、エメラのラブラブ発言にデレデレになっている。
「ふふ……エメ姉ってば嬉しい事を言うよね。じゃあ、クルスくんに決まりでいいね」
「え!?」
エメラが思わず声を上げるが、クルスからもエメラからも良い気分にさせられたアディに迷いはない。あっさりとクルスを新しい側近に決めてしまった。
それに慌てて物申すのはエメラだ。
「ですが、アディ様! その、クルスさんは男性ですわよ?」
「え? だからいいんだよ。だって女性を側近にしたらエメ姉が嫉妬するでしょ?」
(それは逆ですわ!)
その通り、逆は考えなかったのだろうか。エメラを狙うような命知らずの男など現れる訳がないと思っているのだろうか。
しかし現にクルスは追ってきたのだ。求婚を断った相手に、こうして執念深く。
「クルスくんは僕と年齢も近いし同種族だし、仲良くなれると思うんだよね」
「は、はぁ……そうでしょうか……」
恋敵どうしが仲良くなるのだろうか。余裕なのか天然なのか、なんとも危機感のない王子である。
「じゃあ、クルスくん。君を採用する。明日から側近として一緒に働いてもらうよ」
「はい! ありがとうございます!」
クルスは嬉しそうな笑顔で深く礼をした。
現状はアディの側近はエメラ一人だが、そこに新たな側近としてクルスを加える事になった。つまり側近二人体制である。
しかし、これが複雑な三角関係の始まりでもあった。
コメント
1件
うわああ第5話読んだよ〜!!😭💕 クルスってまさかあの森で助けた青年だったんだね!しかもアディに似せてきてるの、エメラからしたら恐怖でしかないじゃん…「婚約者ですわ」って牽制するエメラの必死さに笑ったけど、クルスが全く動じないのが逆に怖いよ😅 アディがデレデレでクルス採用しちゃったのも波乱の予感しかしない…! この三角関係、どう転ぶのか気になりすぎる〜!!