テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
部活が終わり、すっかり暗くなった帰り道。雨上がりのアスファルトが街灯を反射して、夜の街をどこか艶やかに彩っている。
「……朱里、寄るで。新作、今日からや」
治くんに手首を引かれて入ったのは、学校近くのコンビニ。彼は迷うことなくスイーツコーナーへ向かうと、黄金色に輝く『特製キャラメルプリン』を二つ手に取った。
「治くん、また甘いもの? 夕飯食べられなくなるよ」
「……ええねん。これは『別腹』や。……朱里、これ半分こしよ。一個じゃ、甘さが足りひん」
店を出て、人気のない公園のベンチ。
治くんは器用にプラスチックのスプーンを割り、プリンの蓋を開けた。立ち上る濃厚なキャラメルの香りが、夜の空気に溶け出していく。
「……はい、あーん。……これ食ったら、俺の『罠』、一個追加な」
「……っ、治くん。自分で食べられるよ、外だし……」
「……やだ。……俺が美味いと思ったもんは、俺の手で朱里に流し込みたいねん。……ほら、早くせんとキャラメルが固まるで」
逃げ場のない、夜のベンチ。
私は恥ずかしさに耐えながら、彼の差し出したスプーンを口に含んだ。
とろけるようなカスタードと、少し苦味の効いたキャラメルソース。
「……美味しい。……すごく、甘いね」
「……おん。……でも、俺にはちょっと『毒』やな」
「えっ……毒?」
治くんは自分の分を食べるのを止め、立ち止まって私をじっと見つめた。スナギツネのような細い瞳が、街灯の下で、ひどく熱く、鋭く光っている。
「……朱里がそんなに美味そうに食うと、俺、プリンより朱里の『味』の方が気になってまう。……これ、かなりの猛毒やわ」
彼はそう言うと、私の口元に残ったキャラメルを、親指でゆっくりとなぞった。そのまま、その指を自分の唇に寄せて――。
「……っ、治くん!!」
「……甘。……朱里の隠し味、やっぱり最高やな。……お返し、してや」
彼がさらに距離を詰め、唇を重ねようとした、その瞬間。
「あーーーっ!! 見つけた! 治、自分だけ朱里ちゃんと『深夜のキャラメルプレイ』しとるやんけ!! 卑怯や、卑怯極まりないぞ!!」
ガサガサッ!! と近くの植え込みから、おにぎりを持った侑くんが猛烈な勢いで突っ込んできた。後ろには、スマホの露出を調整して「月明かりとプリンのコントラストが最高」と呟く角名くん。
「……ツム。お前、ほんまに……死ね。……今、一番甘い具材(ところ)やったのに」
「具材って何やねん!! 朱里ちゃん、こいつのプリンには『治専用』っていう接着剤が入っとるからな!! 一口食ったら離れられんようになるぞ!!」
「……接着剤やない。……愛や。……角名、今のツムの『不審者顔』、学校のHPにアップしとけ。……朱里、逃げるで」
治くんは侑くんの口に残りのプリンをカップごと押し込んで黙らせると、私の手をギュッと握り、さらに暗い夜道へと走り出した。
「……朱里。……プリンの甘さ、まだ足りひん。……家着くまで、俺の味、上書きし続けてやるからな」
キャラメルソースの、甘い罠。
おにぎりの具材よりもずっと深い、治くんの「夜の餌付け」という名の独占欲が、私の理性をドロドロに溶かしていった。