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昨日の「キャラメルプリンの味見」の熱が、まだ唇の端に残っているような気がして。
三限目の数学、公式を書き連ねる田中先生の声が、今は遠い世界のBGMのように聞こえていた。
スッ。
もはや日課となった、隣の席からの「秘密の通信」。
治くんが差し出してきたノートには、数学の図形問題の余白を埋め尽くすような、圧の強い文字が並んでいた。
『昨日、ツムのせいでデザート食い損ねた。……週末、俺の家来い。プリンより甘いフルコース、用意しとくから』
「……っ」
私は慌ててノートを引き寄せ、震えるペン先で返事を書く。
『フルコースって……治くん、また料理作るの? 侑くんは?』
ノートを戻すと、治くんは一瞥して、鼻で「フッ」と笑った。そして、迷いのない筆致で書き足す。
『ツムは合宿の居残りで不在や。……料理も作るけど。……メインディッシュは、別にある』
「……っ!!」
メインディッシュ。その言葉の響きに、心臓が爆発しそうになる。
治くんの書く「食べ物」の言葉は、いつだって私の理性を揺さぶるための、甘い罠だ。
「おい、宮! 桜町! そこ、また二人でニヤニヤしとるな。集中せぇ!」
チョークの破片が飛んできた。
私は飛び上がるように背筋を伸ばし、治くんは「……すんません。週末の献立が、どうしても決まらへんくて」と、ちっとも反省していない様子で堂々と答えた。
昼休み。
廊下で、自動販売機の陰から「執念の塊」のような侑くんが飛び出してきた。
「あーーーっ!! 朱里ちゃん! 治のやつ、また日曜日に自分を誘いおったな!! あいつ、俺がおらん隙に『不潔なフルコース』振る舞おうとしとるぞ!!」
「えっ、あ、それは……」
「……ツム。お前、ほんまに……死ね。……お前は合宿所で、泥水で炊いた飯でも食っとけ」
背後から現れた治くんが、侑くんの口に、購買で買ってきたばかりの「超特大焼きそばパン」を、パンの袋ごと半分以上押し込んだ。
「むぐっ!? ふごっ!? 治、お前……ビニール食わせるな!! 殺す気か!!」
「……殺しはせん。……ただ、喋れんようにするだけや。……角名、今のツムの『袋かじり顔』、連写しとけ」
角名くんは「これ、今日の一枚だわ」と笑いながらスマホを回し、悶絶する侑くんを引きずって更衣室へと去っていった。
「……あー、うるさかった。……朱里。……週末、楽しみにしてろよ。……隠し味、一滴残らず君に叩き込んでやるから」
スナギツネのような細い瞳が、独占欲たっぷりに私を閉じ込める。
週末の、秘密のフルコース。
お米の甘さよりもずっと濃い、治くんの「お家デート(という名の囲い込み)」という名の執着が、私の胸を激しく焦がしていた。