テラーノベル
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うちの母は料理する時、しゃもじしか使わない。チャーハンくらいならまだ分からなくもないが、味噌汁も卵焼きもスパゲッティもしゃもじで作る。
「魚もしゃもじなの?」
「なんか使いやすいんだよね。」
「菜箸あるじゃんそこに。」
「ちゃちゃっと使って洗えば他のこともできるでしょ。便利よね。」
元々洗い物が増えるのが嫌で始めた1本主義らしい。だったら、トングの方が使いやすいと思うけどな。掴めるし、掻き混ぜれる。
「あのね、母さんは色々試した結果ここに落ち着いたの。」
「私は絶対トング派だな。」
「それじゃあ卵焼き作れないじゃない。目玉焼きもすくえないわよ?」
「端っこ掴んで皿に移せばいいじゃん。」
「ほら、しゃもじならフライ返し代わりになる。早く食べなさい。学校遅れるわよ。」
母のしゃもじ1本主義は私が物心着く前からの話だった。これが普通だと思って学校で言って大恥を書いたことがあった。お陰で学校でのあだ名はしゃもじだ。
「あんたもしゃもじ好きなんでしょ?」
「まあ、別に嫌いじゃないけど。」
「しゃもじは世界を救うわよ。」
「しゃもじじゃ戦えないよ。」
(カコン)
しゃもじだけが取り残されたキッチンにはご飯が炊けた音だけが響いていた。
「お母さん。ねえ、お母さん。」
カウンターに転がった玉ねぎは今日の味噌汁の具材。シンクで洗い途中のサニーレタス。割れた窓の破片が混じった鶏肉。夕飯時のキッチン。
「窓、鳥でもぶつかってきた?ねえ。」
外から物音がして、慌てて飛び出る。心臓がありえないくらいバクバクしていた。
「お母さん。お母さん。」
地面には真っ黒い羽根が1枚。やっぱり烏じゃん。
「お嬢さん。その羽根触らない方がいいよ。」
伸びた手を引っ込めた。
「あ、あの。お母さん見ませんでしたか?髪は短くて、多分黄色いエプロンつけてました。」
「まあ、落ち着いて。」
そう言って頭をゆっくり撫でる。袴に身を包んだ高貴な雰囲気のあるこの人は何か知ってるんだ。
「お母さんを探してるんだね。」
「はい。知ってるんですか?」
「知らないよ。」
なんで、期待させるようなこと言うの、この人嫌い。その場を立ち去ろうとすると、カチャカチャと音を立てながら矢筒を開けた。
「一緒に探そうって事だったんだけど。」
「これって矢ですか?」
触れた瞬間バチンと強い電気が走った。
「見せてごらん。」
「痛い。痛いから離して。」
「君意外と体強い?素晴らしいよ。」
「女性に対してそれは失礼だと思いますが。」
「それはすまない。でも君ならきっとお母さんを助けられるよ。」
お母さんを助けられるなら、理由はそれだけで良かったんだ。ようやく決まった、こいつと手を組んでまたあの幸せな日々を取り戻す。
「私は何をすればいいんだ。」
「協力してくれるのか!嬉しいな。じゃあ、君には囮役になってもらう。」
コメント
1件
うわあ、第1話から面白すぎる!!😭💕 「しゃもじしか使わない母」っていう日常のほっこりエピソードかと思いきや、突然の異変…!「カコン」の音のあと、母が消えてて、黒い羽根、袴のイケメン登場…あっという間に異世界ファンタジーに引き込まれたよ〜! 「お母さんを助けられるなら」って即決する主人公の覚悟、めちゃくちゃ尊い…。でも囮役って!?続きが気になりすぎる!!🌸
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