テラーノベル
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監獄の廊下は、どこまで続いているのか見当もつかないほど長く、
不気味な静寂に支配されていた。
壁一面を走る青い光のラインは、
まるで巨大な生物の血管のようにドクンドクンと一定の律動で明滅している
その光が放つ微かな羽虫のような羽音だけが、耳障りに響いていた
おんりー 「……静かすぎる。さっき扉を派手に壊したのに、アラートひとつ鳴らないなんて」
おんりーは廊下の先、闇が深く澱んでいる地点を睨みつけながら、重心を低く落とした
今は愛用の剣も、身を守る防具もない
しかし、長年の経験で研ぎ澄まされたその身体は
空気のわずかな震え、魔力の密度の変化を敏感に感じ取っている。
MEN 「そりゃそうだ。ここは『物理的な侵入者』なんて最初から想定してないだろうし
この監獄を設計した奴らは、自分たちが作った魔法の檻が完璧だと信じて疑ってない
……おんりー、悪いけどそこから一歩も動かないで」
MENが手元の透過画面に指を走らせながら、鋭く、だが冷静な声で制止した
おんりーが足を止めた直後、彼が踏み出そうとしていた床の石畳が
一瞬だけ赤黒く変色し、バチバチと不吉な放電現象を引き起こした
おんりー 「……今の、罠?」
MEN 「罠っていうか、防衛システムの一部だね。
ここを通る者の『魔力波形』をスキャンして、登録されてない異物は即座に分子レベルで分解する
……って、さらっと恐ろしいこと書いてあるわ、このプログラム」
おんりー 「分解、か。……物騒だね。MENなら、なんとかなるの?」
MEN 「んー、普通ならお手上げ。でもね、これを作った奴は自信家すぎ。
基本のアルゴリズムが古いままだし、何より『魔法』という力に頼りすぎていて、
論理的な守りがガバガバ。俺がちょっと『書き換えて』あげるよ」
MENは壁を走る光のラインに、躊躇なく自らの指先を沈めた
まるで水面に触れるように、石壁の中に指が入り込んでいく
彼の指先からノイズのような黒いバイナリデータが流れ込み、壁の青い光がどろりと毒々しい紫色に濁り始めた
MEN 「よし……。これでこのエリアの『認識』を一時的にバグらせた
今のおんりーは、この監獄のシステムにとって『空気』や『石ころ』と同じ扱い。
攻撃対象からは外れたはず」
おんりー 「空気、か。……それはそれで、あんまりいい気分じゃないけど」
おんりーは苦笑しながらも、ゆっくりと足を前に出した
先ほどまで彼を拒絶するように放電していた床は、今はただの冷たい石の床に戻っている
MENの技術が、規模は小さいものの世界の法則を塗り替えた瞬間だった。
おんりー 「さすがだね、MEN。……でも、これだけ派手にシステムをいじったら、
流石に『管理者』が黙ってないんじゃない?」
MEN 「だろうね。魔法の循環が一部止まってるわけだし。……ほら、お出迎えが来たみたいだよ」
その言葉が終わるよりも早く、廊下の奥から重厚で規則的な金属音が響き渡った
ガシャン、ガシャン、と。重い鋼鉄が地面を叩く音が、迷宮のような廊下に反響して増幅されていく
現れたのは、全身が鈍色に光る魔導金属で覆われた三体の「守護兵」だった
人の形をしてはいるが、関節の繋ぎ目からは蒸気のような魔力が噴き出し
頭部にある巨大な魔石が赤く不気味に発光している
彼らの手にはおんりーの身長ほどもありそうな、巨大な魔導槍が握られていた
MEN 「うわ、ゴリゴリの魔法兵器じゃん。流石にこれはハッキングだけで無力化するのは時間がかかる
……物理的に黙らせるのが一番早いわ」
おんりー 「……了解。やっと俺の番だね」
おんりーは静かに息を吐き出し、意識を集中させる
手首に嵌められた魔法の腕輪は依然として重いが、MENがシステムをバグらせてくれたおかげで
魔力による直接的な拘束は弱まっていた。
MEN 「おんりー、無茶はしないでよ。相手は痛みを感じないゴーレムみたいなもんだから」
おんりー 「大丈夫。……速さなら、絶対に負けないから。」
おんりーが地を蹴った。 その瞬間、彼の姿が廊下からかき消える
爆発的な加速。踏み込んだ床の石畳が、その衝撃に耐えきれず粉砕され、破片が宙を舞う
守護兵の一体が、機械的な反応速度で槍を突き出した
だが、その穂先が届くよりも早く、おんりーはその懐に潜り込んでいる
おんりー 「……まずは、これ」
おんりーは槍の柄を支点に跳躍し、守護兵の肩を蹴り上げる
そのまま空中で回転し、二体目の守護兵が放った薙ぎ払いを紙一重で回避
翻った彼の足が守護兵の首の繋ぎ目──魔力が集中している急所──を正確に捉え、強烈な一撃を叩き込んだ
守護兵 「ガ……、ガガッ……システム、エラー……」
不気味な機械音が響き、一体の守護兵が膝を突く
おんりーはその隙を見逃さず、空中で強引に体を捻ると
守護兵の腕からこぼれ落ちた魔導槍をその手で掴み取った
おんりー 「……よし、これで戦える」
槍を手にした瞬間、おんりーの纏う空気が一変した
それは──数多の戦場を最速で駆け抜けてきた「走者」としての鋭利な殺気
MEN 「……はは、相変わらずバケモノじみた反応速度。
おんりーが本気を出すとこっちの演算が追いつかないわ」
MENは呆れたように笑いながらも、その視線は手元の画面から逸らさない
彼は戦闘の衝撃で揺らぐ魔法回路の隙間を突き
さらに深い階層のデータを引き抜こうとしていた
MEN 「おんりー! そのまま足止め頼むわ。今、このフロア全体の地図をダウンロードしてる
……あと、面白いもの見つけた」
おんりー 「面白いもの……?」
おんりーは二体の守護兵の猛攻を華麗なステップでかわしながら問い返す
重厚な槍が空を切り、石壁を容易く粉砕する音が背後で響くが彼は一度も後ろを振り返らない
MENが守ってくれると、言葉にせずとも理解しているからだ
MEN 「この監獄の心臓部、第4階層に『宝物庫』がある。
そこにおそらく、俺たちの本来の装備……おんりーの剣も、俺の特製デバイスも保管されてるはずだよ」
おんりー 「……そう。それならあいつらに貸しを作る必要もなくなるね」
おんりーは手にした魔導槍をあえてその場に投げ捨てた
そして、拳を固め、眼前の敵を見据える
おんりー 「MEN、地図は任せたよ。そこまで、最短ルートで突っ切る」
MEN 「了解。……最高にエキサイティングな脱走劇にしようか」
MENの指が画面を弾き、監獄内の照明が一斉に赤く染まった
システムへの本格的な侵入。 管理者が異変に気づき、監獄全体が二人を排除するために動き始める
──だが、最速の足を持つおんりーと、世界の理を書き換えるMENにとって
『それ』は単なる「合図」に過ぎなかった。
二人は顔を見合わせ、不敵に笑う
奪われた記憶、奪われた力、そしてこの不条理な監獄。
そのすべてを「エラー」で塗り潰すための進撃が、今、加速していく──
コメント
5件
かっこよすぎ!!さいっこう!!
うわ、、かっこいいっ、、✨ 最高です!! 「『それ』は単なる合図に過ぎなかった」、、かっこよすぎです!!