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「声治ったんやってな、態々こんなんええのに」
『カラスバさんにはアザミ共々お世話になってますから』
そういって、パンやらアイマスクやら色々机の上に置いていくシオン
『それと、いつか予定空いてる日あります?』
「なんやデートのお誘いか?」
『もう、違いますよ〜。こうして話せるようにもなったので、色々話しておきたいな、と
アザミのことに……施設の事とか、』
シオンの鋭い目がカラスバを射抜く
そんなシオンの瞳にゾク、と背筋を震わせ口角を上げる
「ええよ、オレはいつでも暇さかい連絡してや」
『ありがとうございます〜!じゃあ、また連絡しますね』
「ちょ待ちい」
お互いスマホロトムを近づけて連絡先を交換した後、サビ組事務所を去ろうとするシオンを止める
「ホテルZまで送るわ」
『あ、いや私もうホテルZ出たので…』
「は?そんなら今どこ住んどん」
『えっと……それは…』
どこかバツの悪そうな顔をして口をモゴモゴさせるシオンに嫌な予感がするカラスバ
『…リザードン達が教えてくれた…なんか、洞窟…?そこに住んでたみたいで…とりあえず…』
その言葉にカラスバは大きな溜息をつき「あそこかぁ〜……」とその場にしゃがみ込む
『お金が溜まるまでの辛抱なので…それにあそこかなり広いし、住み心地も案外いいと言うか…』
「あかん」
『え?』
「そないとこに若い娘がおったら、どこぞの変な輩に食われたらどないすんや。部屋用意したるさかい、そこに住み 」
『えっ!?ッ、ゲホッゲホッ!!』
驚きそのままむせてしまうシオンに対し、カラスバは横にいたジプソに空いている賃貸を探すよう伝えた後シオンの背中を優しくさする
『ゲホッ…は、え、いや、まって家賃…!!私が探しますから!』
「どうせ安いとこにでも住む気やろ。あかんあかん。」
『いやでも、本当に大丈夫ですから…』
「断るん?断ってもええけど、断るんならアザミの仕事増やすで」
そう言うと、ヴッと顔を歪め何も言えずカラスバをただ睨むシオン
「妹想いなお姉ちゃんやな〜」
こう思うとシオン最大の弱点であるアザミをサビ組に入れたのは正解だったかもしれない
そう思いながら、睨んでくるシオンを見て小さく笑った
「ほんまにここでええん?」
『これだけでももう十分すぎるくらいですよ』
結局揉めに揉めて、選んだ所はリビングに寝室と客室のような部屋がある2LDKの普通の賃貸だった
しかしオートロックにプラスして、防音対策までしっかりされている
後者は全てカラスバの強い要望
シオン自体は別にそこまでこだわってはいない
「ここら辺やったら治安もええし、色々近くにあるさかい」
『…ここまでしてくれる理由はなんですか?』
シオンの言葉にカラスバは柔らかく笑い、頭を撫でる
「──お前になんかあったらアザミに怒られるからな」
───02:37
「はぁ〜……」
自宅に帰るなり、ジャケットをソファーへ脱ぎ捨てネクタイを緩める
「…今日はええ1日やったな」
シオンの連絡先も知れたし。
家もオートロックに防音やし、防犯対策はバッチリや。
本来はもう少し大きい部屋でのびのび暮らして欲しかったが、どうやらそういうのは好きじゃないらしい
そう思いながら、ある部屋の引き出しを開け中から黒色のスマホロトムを取り出す
3年前シオンが使っていたスマホロトムだ
あれ以降、パスワードを解除しようと何通りもパスワードを打ち込んでいるが解除出来ない
アザミから誕生日や身長等聞いて全て試しているがここ3年開く気配がない
「今日も駄目やな」
溜息をつき、引き出しの中へスマホロトムを入れた後1枚の写真を手に取る
それはエイセツシティに行った日にシオンに撮られた写真
写真の中で紫色の髪を靡かせ、愛嬌のある笑顔で笑うシオン
『ねぇ、カラスバさん!デート行きましょ!』
『ねぇねぇ、カラスバさんフェアリータイプはどんなタイプに弱いんですか?』
今は髪色も相まってか、大人っぽく美人な姿形をしているがこの時は子供っぽくピュアな笑顔で笑いかけてくれていたシオン
「…ほんま、会いたいわ」
シオンの前では気丈に振る舞っていたが、やはり何度も過去にすがりついてしまう
あの時、早く気づいていれば
シオンがあんな強行策に出ず、施設の手から逃れられたかもしれない
あの時、もっと強い解毒剤を持っていれば
記憶を失わなくて済んだかもしれない
シオンの答えなんか待たずに好きと伝えてれば
こんなに後悔しなかっただろう
「はっ…もう、何もかも遅いっちゅーのに…」
髪をくしゃっと手で触り、苦しそうに顔を歪ませ笑う
そんなカラスバをドアの隙間からペンドラーが悲しげに見つめていた