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春の柔らかな日差しが、レースのカーテン越しに差し込む昼下がり。
部屋の中には、ほんのりとぬくもりを含んだ空気が漂い、窓から入ってくる優しい風が、薄手のカーテンをふんわり揺らしていた。
そのカーテンの隙間から外を除けば、青く晴れた空の下で、満開の桜がゆったりと揺れているのが見える。
「ねえ蒼《あお》くん見て!できた!」
少しはしゃいだ声が、ベッドルームからリビングに響いた。
リビングのソファにゆったりと座っていた蒼は、その声に顔を上げた。
ぱたぱたと小走りで出てきた莉世《りせ》が、蒼の目の前で大きくノートを開いた。
頬を紅潮させ、目をキラキラを輝かせたその表情に、蒼は思わず微笑んだ。
「朝から何してるかと思ったら、またどうしたの?」
軽く笑いながら尋ねると、莉世は胸を張って答えた。
「じゃじゃーん!死ぬまでにしたい100のことリスト、完成!」
「…面白いこと始めたね。」
「ふふん、でしょ?」
そう言って、莉世は得意げにノートをもって蒼のすぐ隣にちょこんと腰を下ろす。
開かれたノートのページには、色とりどりのペンで丁寧に書かれたリストが並んでいた。
タイトルには赤のマーカーで「死ぬまでにしたい100のこと」と大きく書かれ、ところどころに手書きのイラストが添えられている。
ハートや星、リボンに食べ物、旅先の風景…お世辞にも上手いとは言えないが、どれも莉世らしい可愛らしさがにじみ出ていた。
「せっかく蒼くんと結婚したんだもん。楽しいこと、いっぱいしたいじゃん!」
「結婚して、まだ4か月だけどね。」
「もう4か月!まだ4か月!これからじゃん!」
その言葉に、蒼はくすっと笑った。
結婚してからの4か月は、本当にあっという間だった。
学生時代よくお泊りをしてたとはいえ、慣れない新生活の中で、食器の置場ひとつでもぶつかったり、選択のやり方で言い合ったこともあった。
けれど、そんな毎日もどこか心地よく、笑いあって夜を迎えるたびに「この人と一緒になれてよかった」と心から思えた。
「でねー、最初は、これ!」
莉世が1ページ目の先頭を指さす。
「お弁当を作って、公園でお花見ピクニック!」
「…え、まさか今日とか…」
「今でしょ今!社会人になって初めてのお休みの日だよ?家にいてももったいないじゃん!ちょうどお昼の時間帯だし、桜も満開だし、タイミングぴったりじゃない?」
確かに、時計を見れば12時を回ったところだった。
昼ごはんの時間。
莉世のいう通り、タイミングとしては完璧かもしれない。
「ねっ、蒼くんの好きなやつ全部入れるから~!」
大げさに手を合わせて頼み込む莉世。
そのしぐさがあまりにも可愛らしくて、蒼の顔がほころぶ。
「しょうがないな。じゃあお弁当、一緒に作ろうか。その100のこと、全部付き合ってあげる。」
「やったー!蒼くん、大好き!」
勢いよく抱き着いてきた莉世を、蒼は笑いながらしっかりと受け止めた。
学生時代から変わらないその細い体からは、ほんのりシャンプーの甘い香りがして、何とも言えない幸福感に包まれる。
窓の外では、淡い桜の花びらが風に舞っている。
2人の春が、今、ゆっくりと動き出したのだった。