コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あんなに素敵な恋人がいるのなら、私と会わなくてもよかったのに……。
やっかみを感じてしまう自分が情けなくも思える。
彼と並んだ女性を、立ちすくんで見つめていると、苦い思いが込み上げた。
バカみたい──。
どうして今まで、あんなにも思い悩んでいて……。
今度こそ、忘れよう。こんな風に会ったのもいい機会だもの、彼とはもともと縁がなかったんだと思って、これで全部なかったことにしてしまおう。
私はそう踏ん切りをつけると、彼らから踵を返して、反対の道へと歩き出した──。
そうして、それからさらに半月余りが過ぎたある日、私は店舗に商品の実売状況を聞きに回っていた。
社内でももちろんどの商品が出ているかは知ることが出来たけれど、新たなパフュームの開発のためには、実際にお店のスタッフさんの声を聞かせてもらうのが一番だった。
「いらっしゃいませ、お久しぶりです」
私の姿を見つけた古参の店舗スタッフに、笑顔で声をかけられる。
お店とのフラットな関わりを保てるよう、私が社長の娘であることまでは特に知らせてはいなかった。
「お久しぶりです。今日は、売れ筋を伺おうかと思って」
「はい、それならやっぱり、この猫型のボトルですね」
そう言って差し出されたのは、猫の形を模したガラス製の香水瓶で、これは猫の意味がある「KATZE」の店名に由来した、人気商品だった。