テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
フィノールの街の施療院に着くと、私たちは急いで病室に通された。
ルークの状態を見て、あまりにも危険だと判断されたからだ。
ルークはベッドに寝かされると、何人かの聖職者のような、医者のような……とりあえず『先生』と呼べば良いのだろうか。そんな人たちに次々と診られていった。
しばらくすると、一番偉そうな先生が私に話し掛けてきた。
「……これは酷い呪いですね。
ここまで酷いものは見たことがありません……」
「あの、完全に解けなくても……命だけでも助けてもらえれば……!
む、難しいでしょうか……?」
「……まずは、できるだけ軽くすることを目指しましょう。
それと、今ちょうど施療の老師が滞在されているんです。老師にも相談してみることにしますね」
そういえば、街門の兵士が『高名な僧侶様』がいるって言っていたっけ……。
「お願いします! 是非、お願いします!!」
「分かりました、私たちも全力を尽くします。
それで、そちらの方――」
「……え? わたしですか?」
不意に、先生はエミリアさんに声を掛けた。
エミリアさんはこの病室に通されてからもなお、ルークに魔法を唱え続けてくれていたのだ。
しかしその表情も陰り、今は気力だけで唱え続けているような状態だった。
「あなたも、随分とお疲れのようです。
何時間も魔法を使っていたのでしょう? これからは私たちに任せて、少し休んでください」
「で、でも――」
「いえ、ここは先生の言う通りにしないと。
ほら、もうふらふらじゃないですか……」
私が言った端から、エミリアさんは身体をふらつかせた。
精神力も魔力も、とうに限界だったろうに。
「……そういうあなたもですよ?」
先生は、私にそう言った。
「え? 私は魔法なんて使ってませんでしたけど――」
「いやいや、あなたの顔色もとても悪いです。
体力的に、相当辛いのではないですか?」
そんなことは無い――
……と思った瞬間、突然身体が重くなったように感じられた。ついでに、強い眠気が一気に襲ってきた。
そういえば昨晩、一睡もできていなかったんだっけ……。
「部屋を用意しますので、二人とも休んでください。
仲間が心配な気持ちも分かりますが、彼のことは私たちがしっかりと診ますので」
エミリアさんはともかく、私は――
そう思いながらエミリアさんを見ると、彼女もまた私を見ていた。
……おそらく、同じことを考えているのだろう。
ここは堂々巡りになるかもしれないし、それならお言葉に甘えて、二人で一緒に休ませてもらうことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――雑に暗い闇の中、赤色だけがやたらと鮮明に映える世界。
ああ、またか。また、あの夢か。
私は今、きっと眠っているのだろう。
夢の中で、それが夢だと分かる……明晰夢。
周りは静まり返り、色だけがやたらと鮮やかに見える。
色……とは言っても、そこには黒色と赤色しか無いのだけれど。
この夢は一体、何回見れば済むのだろうか……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――うっ、うわああああぁあああっ!!!?」
私は目を覚ますと同時に、大きな声を上げてしまった。
「……おっと、すまんの」
目を開けた瞬間、突然視界に飛び込んできた老人の顔。
私は思わず、それに驚いてしまったのだ。
「……え?
えーっと……あれ?」
私はベッドから上半身を起こして、荒れた呼吸を整える。
外を見れば、今は朝のようだ。
――え? 朝?
「ほっほっほ。よく眠れたかの?
昨日の昼すぎから、ずっと眠っておったんじゃよ」
炎魁です
37
蒼羽@不定期投稿
674
#ファンタジー
成瀬りん
21,075
#魔道具職人
こはる
834
「え……そんなに……?
あ、それよりも! ルー……あ、いえ、私の仲間は!?」
「もう一人のお嬢ちゃんならまだ寝ておるよ。二人とも、ずいぶん疲れておったんじゃのう。
青年の方は、多少の呪いはまだ残っておるが、それなりに動けるようにはなったぞい」
「本当ですか!?
……ところで、あなたは?」
「儂はメインデルトという者じゃ。
偶然この街にいたんじゃが、お嬢ちゃんたちの担当をさせてもらっていたのよ」
「偶然?
……もしかして、あなたが『高名な僧侶様』っていう……?」
「ほっほっほ。まぁ、そうも呼ばれるわいな。
三人とも結構な状態だったのでな、全員まとめて診てやったというわけじゃ」
「そうだったんですか……。ありがとうございます……!」
確かに私たちはこのひと月、逃亡生活を続けて、かなりの疲労が溜まっていた。
ベッドで眠るなんて最初に寄った村以来だったし、今回は本当に身体を休められた気がする。
「それで、えぇっと……。
お嬢ちゃんの名前はメイベルちゃん……だったかの?」
メイベルというのは、テレーゼさんからもらった冒険者カードに刻まれていた名前だ。
ちなみにエミリアさんはナタリー、ルークはブレントという名前が割り当てられていた。
「はい、そうです。私の名前は――」
「……アイナちゃん、じゃろ? 指名手配中の」
「――っ!?」
私はメインデルトさんの言葉に驚き、思わずベッドから降りて身構えてしまった。
眠っている間にバレた……? 一体、何で……?
「……ああ、うん。驚かせて悪かったな。
だが安心しておくれ。儂はそれを、誰かに言うつもりは無い。ただ、念のために確認したかっただけなんじゃ」
「え……?
でも何で、私の名前を……?」
「仲間の青年が言っていたんじゃよ」
「え゛」
「呪いをある程度取り払ってな、それで彼は目を覚ましたんじゃが……。
開口一番、お嬢ちゃんたちの心配をしていてな。そこでぽろっと……な」
ああ……。
テレーゼさんの『荷物』から冒険者カードを見つけたときには、ルークはもう呪いで倒れていたもんね……。
目を覚ましたら街の中だった……なんて状態だったら、何がどうなっているのか混乱しただろうし……。
「……でも、何で私たちのことを黙っていてくれるんですか?
懸賞金も、たくさん懸かってますよ……?」
「ほっほっほ。困ってる人間を診るのが儂の仕事じゃからな。
儂は少しくらいなら心の色が見える。お嬢ちゃんたちは、悪人というわけでもなかろう?」
「心の色……? そ、それって凄いですね……」
「何の何の。
……それで、目覚めはどうじゃったかな?」
「え? そうですね、驚いちゃいました。すいません……」
「いやいや、そうじゃなくて。
あの青年から聞いたが、毎晩悪夢を見ていたんじゃろ?」
「そんなことまで……?
えっと、やっぱり夢は見ましたけど――……あれ?」
そういえば、確かに悪夢は見たものの……目覚めは案外普通だった。
突然のメインデルトさんの顔に大きな声を上げてしまったけど、それは悪夢とは関係が無いわけだし。
「最終的にはお嬢ちゃんの心次第なんじゃが、儂もできることはさせてもらったぞい。
根本的な解決にはなっておらんが、これからは多少、目覚めは良くなるはずじゃ」
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。……まだまだきっと、辛いこともたくさんあるじゃろう。
儂にできるのはそれくらいだが、頑張るんじゃよ」
「は、はい……! ありがとうございます……!」
思い掛けない激励の言葉に、私はまたもや涙を流してしまった。
最近はちょっと、泣きすぎて目が痛いというか、何というか。
……もう少し強い人間でありたい。
私はこっそり、そんなことを思ってしまうのだった。