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夜。
風呂も済ませて、部屋の灯りも落としたあとだった。
ソファに並んで座っていても、会話はない。
いつも通りの、静かな時間。
ないこはしばらく黙っていたが、
意を決したように、ぽつりと口を開いた。
「……一つ、聞いてもいい?」
まろはテレビから視線を外し、ないこを見る。
「ええよ」
その返事を聞いてから、ないこは少しだけ間を置いた。
言葉を選んでいる、というより
怖がっているようだった。
「俺、感情がないって言ったでしょ?」
まろは頷く。
「笑わないし、泣かないし……
一緒にいても、楽しくないと思うの」
声は落ち着いている。
でも、どこか自分を切り離したような言い方だった。
「それでも」
「…なんで、俺を選んだの?」
聞いた瞬間、胸の奥がひりついた。
答えを聞くのが、少し怖い。
条件だったのか。
妥協だったのか。
それとも、同情か。
まろはすぐには答えなかった。
少し考えるように、視線を落とす。
「正直に言うで」
その前置きに、ないこの指先がきゅっと握られる。
「最初はな、感情がないって聞いて、
変わってる人やな、とは思った」
「でも、」
「それを隠そうとも、誤魔化そうともせんかったやろ」
静かな声だった。
「自分はこうやって言い切れる人って、
俺は嫌いやない」
「無理に好かれようとしてない。
期待させることも、裏切ることもせん」
少しだけ、柔らかく笑う。
「…それって、めっちゃ誠実やと思った」
ないこは視線を逸らす。
胸の奥が、また落ち着かなくなる。
「感情がないから選んだんやない」
まろは、はっきりと言った。
「感情がないって言う人と、
一緒におってもええって思ったからや」
その言葉は、ないこの中に静かに落ちた。
納得は、まだできない。
でも。拒絶でもなかった。
「そ、そっか…」
ないこはそれだけ言って、背もたれに身を預ける。
聞けてよかったのかどうかは、わからない。
けれど、聞かずにいられなかった。
その夜、ないこは少しだけ長く、目を閉じていられた