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岡田は自分が何をしているのか、よく分からなくなっていた。警察署のデスクに座りながら、彼は目の前に広がる報告書に目を通していたが、頭の中は別のことでいっぱいだった。
何度も何度も繰り返される闇バイトの連鎖。それが引き起こす犯罪の数々。彼は警察として、確かに正しいことをしているのだろう。しかし、心のどこかで、この世界の不条理に苛立ちを覚えていた。こんなにも多くの人々が犯罪に関わり、そしてその裏で犠牲になっていく。それを目の当たりにする度に、岡田は自分の存在が無力であるかのように感じた。
「岡田、どうしたんだ?」
ふと、背後から声がかかる。振り返ると、中山が心配そうに見つめていた。
「何も…」
岡田は目を逸らしながら答えた。
中山は椅子を引き寄せ、隣に座った。
「お前、変だよ。あの時の事件の後、ずっと不安定じゃないか?」
岡田は息を吐き出した。
「変だってわかってるさ。でもな、俺がやってることって、何も変わらないんだ。動物を使った闇バイトの事件だって、確かに捕まえた。でも、それで何が変わる?犯罪はどんどん生まれるし、無力感にさいなまれるだけだ。」
中山は黙って聞いていたが、やがて言った。
「だからって、お前が無力感に負けたら意味がないだろ。警察としてやってることは、確かに小さな一歩かもしれない。でも、何もやらずに諦めたら、何も変わらないぞ。」
岡田は苦笑を浮かべた。
「うるさいな、お前は…。そんなこと言っても、俺がやってるのは結局、綺麗事なんだよ。警察としての使命だとか、正義だとか、そんなものは結局、俺たちの心でしか存在しない。どんなに頑張っても、現実は俺たちが想像する以上に汚れてる。」
中山は少しだけ黙り込み、そして岡田をじっと見つめた。
「じゃあ、お前さ、なんで警察になったんだ?」
岡田はしばらく無言で中山を見つめた後、低い声で答えた。
「俺は…正義とか、綺麗事に憧れてたんだ。俺が警察になったのは、一番格好良く見えたから。犯罪者を捕まえて、社会のために働く。それが俺の理想だった。でも、現実は全然違う。犯罪者を捕まえても、次々に新たな犯罪者が生まれて、結局は俺たちが対処しきれないほどの闇が広がってる。」
中山はその言葉に何も言えなかった。ただ、静かに頷くしかなかった。
岡田はその後、デスクにうつむきながら座り込み、目を閉じた。思い出すのは、あの頃だ。警察学校に通っていた頃、仲間たちと語り合った夢や希望。正義のために戦うと誓ったあの日。しかし、現実はそれらを打ち砕いていった。
「警察としての綺麗事言ってるだけのゴミ。」
岡田は心の中でそう呟いた。それは、誰かに向けた言葉ではなく、ただ自分自身を責めるような、虚しさから出た言葉だった。
その瞬間、岡田の目の前に新たな事件の報告書が置かれた。内容は、またしても暴力団による違法行為の発覚だった。
「またか…」
岡田はその報告書を手に取ると、ゴミ箱に投げ捨てた。その瞬間、彼の心の中に溢れる感情が暴走するように湧き上がった。
「どうして、こんなにも無駄なんだろう。どうして、こんなにも努力が報われないんだろう。」
岡田は思わず声を漏らした。その言葉は、彼が心の奥底で感じていた絶望をそのまま表したものだった。
だが、岡田はその瞬間、はっきりと感じた。
それでも、今、自分が何をするべきなのかは分かっていた。
「俺は警察だ。だから、こんな自分でも、もう一度立ち上がらなきゃいけない。」
岡田は椅子から立ち上がり、決意を固めると、新たな事件に向かって歩み出した。自分が今、できること。それをやらなければ、何も変わらないのだと、ようやく彼は理解した。
その時、岡田は自分の中に眠っていた小さな希望を見つけた。それが、今の彼にとって唯一の支えだった。