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──放課後になり、職員室へ向かう途中で、数学教師の三日月と廊下ですれ違った。
生活指導の主任も兼ねている、見た目にも厳しそうなこの教師が、私は少し苦手だった。
何も言われないようにと目を伏せて通り過ぎようとした、その背後から、
「夏目さん」
と、ふいに声をかけられて、私はビクッとして振り返った。
「なんですか? 三日月先生」
なるべく平静を装って応えながら、生活指導的な立場から何か言われるようなことなどしてないはずと、頭の中でとっさに考える。
「放課後にノートを持って、どこに行くのですか?」
意外とありきたりな質問に、ほっと胸をなで下ろす。
「…えっと、流星先生に授業でわからなかったところを、聞きに行くんです」
「そうですか。ああ、でも流星先生なら、職員室にはいませんでしたよ?」
この廊下の先にあるのは職員室だけだったから、そこから来たのだろう三日月が気を回して教えてくれたようだった。
『職員室にはいません』という言葉に、
「どういうことよ?!」
思わずムッとして口にする。
「どういうこと……というのは?」
困惑した様子で聞き返してくる三日月先生に、
「あ…こっちの話ですから…」
と、あわてて否定をした。
「流星先生に、放課後に職員室に来るように言われていたので……!」
流星先生ときたら、自分でした約束すら覚えていないんだろうかと、無意識に怒ったような言い方になる私に、
「ああ、それなら化学準備室にいらっしゃるはずです。職員室以外でしたら、あそこにいられるかと」
そんな怒りをやんわりと静めるような、低く穏やかな声のトーンで、そう告げられて、
「そうですか、あの、ありがとうございます…」
つい怒ってしまいそうになったことが気恥ずかしくもなり、そそくさとその場から逃げるように立ち去った。