テラーノベル
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7話目もよろしくお願いします!
今回は胸がぎゅっとなるかもしれません….
スタートヽ(*^ω^*)ノ
気がつけば、自宅の玄関に立っていた。
どうやって帰ってきたのか何も覚えていない。
レトルトはよろよろと靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
足取りは重く、視界はぼんやりと滲んでいた。
「……あ……れ……?」
声にならない声が漏れる。
ふと、ポトリと何かが落ちた。
――涙だった。
次の瞬間、堰を切ったように感情が溢れ出した。
膝から崩れ落ち、床に手をつく。
嗚咽が、喉の奥から止めどなく湧き出した。
「なんで……なんでだよ……キヨくん……!」
あの姿が何度も、何度も、頭に浮かんでくる。
P-Pに抱きしめられていたキヨ。
何も言い返さず、ただ黙って抱かれていたキヨ。
あんなの、見たくなかった。
信じたかった。ずっと、信じてたのに――
レトルトは、クッションを掴んで顔を埋め、大声で泣いた。
ーーーーーー
どれくらい時間が経っただろう。
声が枯れて、頭がぼんやりして、涙も涸れかけた頃。
レトルトは、震える手でスマホを手に取った。
――うっしー。
唯一、何も言わず話を聞いてくれる親友の名前を選んでいた。
ワンコールで繋がる。
「……うっしー……」
「おう!どうし….どうしたんだよ!?」
レトルトは声を絞り出す。喉がガラガラで、涙声のままだ。
「なにがあった」
「…………ごめん、なんか、うまく言えないけど……来て……お願い……」
「わかった、すぐ行く。動くなよ。」
返事も待たず、電話は切れた。
受話器を持ったまま、レトルトはまたそっと顔を伏せた。
さっきよりも、少しだけ小さく。
静かに、嗚咽を漏らしながら。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。
レトルトは、ぼんやりとしたまま体を引きずるようにして玄関へ向かう。
インターホン越しのカメラには、心配そうな顔のうっしーが映っていた。
扉を開けた瞬間、うっしーの表情が凍りついた。
「……レトルト……」
真っ赤に腫れた目、ひどく乾いた唇、力なく下がった肩。
いつものレトルトとは、まるで別人のようだった。
何も言わず、うっしーはそっとレトルトに近づいて、そっとその肩を抱く。
「……」
レトルトは何も言わず、ただその腕の中にすがった。
もう一滴も出ないと思っていた涙が、またじわじわと滲んでくる。
「とりあえず、座ろう」
うっしーは優しくそう言いながら、リビングへとレトルトを連れて行く。
ソファに座らせ、水を汲みに行き、そっと差し出す。
レトルトは黙って受け取り、一口だけ飲んだ。
喉がひりつく。
「なにが….あったんだよ」
レトルトが落ち着くのを見計らって
うっしーが静かに聞く。
レトルトはぽつりぽつりと語り始めた。
キヨの会社に行ったこと、社長室で見た光景、抱き合っていた相手――P-P。
途中、言葉が詰まりながらも、レトルトは何度も「俺ってあほやなぁ」「俺が勝手に期待してただけなんだよな」と笑ってみせた。
そのたびに、うっしーの拳は静かに握りしめられていく。
「……許せねぇ、あいつ…殺してやる」
静かに、それでいて殺意をも感じさせる怒りがに滲んだ声だった。
レトルトの隣に座り、肩を貸すうっしー。
レトルトは力なくうっしーにもたれながら、乾いた目で床を見つめていた。
部屋の中は静かだった。
まるで呼吸すら止まってしまったように。
その静寂を、荒々しいノック音が破る。
『レトさん!!!』
ドアがガチャリと開き、キヨが飛び込んでくる。
乱れた髪、肩で息をしながらレトルトの姿を見つけるなり、目を大きく見開いた。
キヨの視線が、レトルトに寄り添ううっしーに向かう。
レトルトの肩を支えるその腕。
レトルトがもたれかかるその姿。
キヨの胸の奥で、ぐらぐらと嫉妬の炎が燃え上がる。
でも――それよりも、レトルトと話したい。誤解を解きたい。
『…レトさん、俺……話を、聞いてほしい』
その声は、懇願するような、必死な響きを帯びていた。
レトルトは顔を上げない。
ただ、うっしーの手元に視線を落としたまま、微動だにしない。
『レトさん…俺の方に来て』
キヨがそっとレトルトの方に手を差し出す。
伸ばされた手にビクッと肩が揺れるレトルト。
――
「……触らないで」
その瞬間、レトルトが震える声で言った。
ピタリと、キヨの動きが止まる。
『レトさん……?』
「触らないでよ…..キヨくんなんか大嫌い」
レトルトはようやく顔を上げた。
その目は、泣き腫らして真っ赤になっていた。
「……信じてたのに」
震える唇、滲む涙。
レトルトの言葉がナイフのようにキヨの胸に突き刺さる。
呆然と立ち尽くしていると、レトルトを隠すようにうっしーが立ちはだかる。
「おい、キヨ」
その声がした瞬間、空気が一変した。
静かで、低く、冷たい。
けれど、それはどんな怒声よりも――怖かった。
キヨの背中がびくりと震える。
「俺、言ったよな?」
「俺の親友を泣かせたら、殺すって」
うっしーの目が、まっすぐキヨを射抜く。
「もう2度と、レトルトの前に現れるな。俺はお前を許さない。俺の親友を泣かせたお前を。」
「帰れ」
うっしーの冷たい一言が響く。
『……レトさん、ごめん』
震える声で、キヨはそう言った。
その言葉にどれだけの意味を込めたか――
レトルトに届いたかどうかすら、もう分からない。
ただ、胸が張り裂けそうだった。
息が苦しい。
頭が割れそうに痛む。
心臓の音だけがやけに大きく響いて、まともに立っていられない。
フラフラと身体を引きずるようにして、キヨは家を出た。
愛する人を傷つけた。
俺が、壊した。
誰より大事な人を。
つづく
コメント
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恐ろしい勘違い合戦が起きている、!