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程なくして、俺はリンとソウとの抱擁を解く。二人を名残惜しく思いながら、サブの元へと向かう。確か……村長の家って言ってたよな? 自分の家からそこまで離れてはいない。
急にサブのことが気になり始めていた。家族の方へ時間を割いたことに、少し罪悪感があった。だから、俺がいない間に容体が急変しているのでは? と、変なことばかり考えてしまう。早歩きから小走りへと変わり、地面を蹴る。早く向かわなくては。あいつのこと、なんだかんだ言って俺は信用している。あの時、俺も助けてもらった身だ。不義理はしたくない。考えているうちに、村長の家に到着した。
相変わらずこの家の造りは凄いな。あと、なぜか長老に似た銅像のようなものが置いてあることに、毎度違和感を覚える。この家に対してこの像、アンバランスすぎないか? それに威圧感が凄えんだが。内心そう思いながら、ドアの前に立つ。
――コンコン
「爺さん、ゲンだ。サブの容態を見に来た。開けていいか?」
「おー、ゲン。よく来てくれた。って、お主、体は平気なのか?」
ドアを半開きにして出てきたのは、村長であるヤンガだ。爺さんは老化で瞼が重く、普段は目が細まっているのに、俺を見た瞬間カッと目を見開いた。俺は思わず苦笑する。
「はは、なんか治っちまったらしい」
「いや、そんな馬鹿なこと……いや、もしや……あり得るやも……。んー、まあ、なんじゃ、そんなことよりサブを見てやってくれ。奥の個室にいる。」
一瞬、爺さんの眼光が鋭くなったのを俺は見逃さなかった。なんだ、あの含みのある間は。何を思ったのか気にはなったが、そんなことよりサブの容態だ。村長の家へ入り、
「邪魔するぜ」
ドアを開けると、そこにはベッドの上に腰掛けるサブがいた。左足を包帯のようなものでぐるぐる巻きにされ、小さめの台に乗せている。
「サブ、お前大丈夫なのか?」
「え、旦那!?」
サブは、むしろ俺のことを心配しているようだった。
「なんで旦那がここにいるっスか? 寝たきりじゃ……」
「おおー、それがな、起きてみたらすこぶる調子がいいんだ。不思議だよなー、かっかっか」
「え、ゲンの旦那は不死身なんスか? ありえないッスよ。あんな化け物に吹き飛ばされてたのに。オレッチは死ぬかと思うくらい激痛だったんスよ。足は岩に挟まって、気がついたら村長の顔が目の前にあって……うっ……んぐ」
サブは思い出したのか、涙ぐむ。本当はよっぽど怖かったんだろう。そりゃ俺より十歳くらい歳下だもんな。あんな奴と鉢合わせして酷い目にあったら、そうもなる。俺はこれまで生き抜いてきたから、よっぽどのことじゃ泣いたりはしない。まあ、家族のことは別だがな。
「おいおい、泣くこたあねえだろ? 生きて帰って来れたんだ。二人とも無事にな? だから、いつものお前に戻れよ。」
「ゲンの旦那ぁ……ありがとうッス……」
「ああ、いいってことよ」
とりあえず、サブの容態は良いらしい。少しくらいなら動かせるみたいだ。あとは安静にして待つだけ。良かった、最悪の事態になっていなくて。
「うむ、お主ら調子は良さそうじゃの」
「爺さん、ありがとよ。サブのこと手当てしてくれて」
「ええんじゃ。村の民はみなの宝じゃ。ほれ、苦花のティーじゃ。飲め。」
爺さんに渡されたのは、苦花を煎じたお茶だ。ほのかに苦味と花の香りが混ざった、独特な匂いがする。俺は啜って飲んでみる。
「苦いな。だが、体がリラックスしているような……」
「そうじゃろう、そうじゃろう。自慢の一杯じゃよ。ほれ、サブも飲んでみい。元気になるぞぉ。」
「おお、これは効いてる気がするッスね。味は激まずっスけど」
サブは「苦え」と舌を出して、苦さを紛らわせていた。
「まあ、お主にはまだこの苦味が深みとして響かんのじゃろうな。これからの未来、生きているうちに色んなことを体験し、それを積み重ねれば、この味の奥深さが記憶と重なるかもしらん。」
しみじみとヤンガの爺さんは語る。
「爺さん、すげえ深えこと言うな。さすが村長であり長老だ。で、聞きたいことがあるんだが……さっき玄関で、俺が完治したことについて何か知ってるような反応をしていたが……どうなんだ?」
さっき頭に引っかかっていた、あの表情について問う。
「うむ、気になっておったか……そうじゃの……いつかは誰かに話そうと思っておった。じゃが、この村でそのようなことは起きぬだろうと思い、言わんでおったが……」
爺さんは、先程よりも言葉の節々が弱くなる。
「なんかあったんスか? 起きるって?」
ナイス合いの手だ。
「そうじゃ……これは代々伝わる口伝じゃ」
「「口伝?」」
サブと俺は顔を見合わせ、爺さんに疑問をぶつける。
「随分昔の話じゃ。我ら一族の男と女が狩猟に出た。その時、恐ろしい化け物と出会ってしまったのじゃ。二人は逃げようとしたが、女は捕まり喰われてしまった。男は女を好いておった。怒りで我を忘れ、化け物に挑んだ。夕暮れが沈んだ頃――その時じゃ。少女が目の前に現れたという。するとどうじゃ、男は今まで手にしたことのない力を得たそうな。じゃが、これには裏があるとも言われておる。どれも真相はわからんがのう。」
爺さんはティーをズズッと啜り、続ける。
「後の口伝では分かれておる。実は男が女を殺したのではないか。男こそが化け物なのではないかとな。しかしじゃ、その少女と出会った者は凄まじい能力を持つと言われておる。だからじゃよ、ゲン。その驚異的な再生能力……お主、出会ったのじゃな……。その者に利用されてはならんぞ……」
俺は淡々と話を聞きながら、意味深な言葉に生唾を飲み込んだ