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それからの日々は単調なものだった。
俺はただひたすらにレオに挑み、転がされる毎日。
どんなに殴っても蹴っても掴み掛かろうともダメージを与えられている気がしない。
その反面、レオの反撃に俺は打ち倒されるばかり。
とはいえ進歩がないわけではない。
続けるうちに一撃に耐え、さらに一撃を食らっても倒れる事なく、今は5発までならどうにか持ち堪えられるようになっている。
気遣いから手加減されているわけでは決してない。この獣人はそういうことの出来るヤツじゃない。むしろここのところは倒れた所に蹴りがくるほどだ。休憩にはまだ早いなどといいながら。
俺は巨人の力というのを引き出せているのだろうか。少しのタフネスだけは身についた気がするが、そもそも来る日も来る日もこれだけ痛めつけられていれば慣れもするだろう。
感覚を知りたくてレオとの時間以外は例の鎧を着けて過ごしている。
鍛錬場にもふたたび通い出した。その際にはパンツ姿に鎧だ。周りの俺を見る目がなにやら変わってしまったようだが、なあにこいつをやってやりゃ驚愕して腰抜かすのさっ!
俺がこれまでここでやってきたのと同じ重量挙げからの背負いスクワット。だがその重量はそれまでの3倍。ここの2番手の実に6倍強! ふはははっ! 俺はまた記録を更新している! これが魔力を使える巨人のなせる技なら、少しでも早く! 習得してみせるぞっ!
いつもの夕刻。ダリルの店の練習場。
この日、俺は死の恐怖と直面した。
きっかけは俺の慢心だ。「もし魔道具の鎧を身につけていればレオにも負けはしない」と、くだらないことを言ったこと。ダリルは目を細めて心底つまらなさそうに俺を見ただけだが、レオは違った。
「ここまで我が相手しておきながら未だにその力の一端も引き出せない半端者が道具の力で勝つとぬかすか」
これまでも、実力差などは痛いほど身にしみていて、それでも負け続けの現状に悔しさを覚えてつい口にした負け惜しみが、逆鱗に触れたらしい。
「少しだけ、待て。補強する」
そう言って何やら小さな石のようなものを手の中で握りつぶしたダリルは、粉となったそれを空中に撒きどうやったのか場内に満たしてしまった。やがてそれは周りの壁に吸い込まれて行く。
「魔道具を起動しろ」
猛る獣が拳を握りしめる。レオの姿がわずかに揺らめいて見える。
「矮小な巨人よ我に勝って見せろ」
この時はじめて──そう、はじめてこの獰猛極まりないネコ科の化け物が牙を剥いた。