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「はいっ。頼まれてたやつ。」
北上先生は約束通り手記を盗み、昨日と同じ時間に屋上で僕に手渡してきた。
「あの人さ、大事っていう割に、普通に引き出しの中に置いてあったよ。」
「ありがとうございます。萩野さんに渡しておきます。」
何げない動きでズボンのポケットの中に滑り込ませる。
「頼んだよ」
北上先生は、昨日と同じように購買で買ってきたのだろうパンを開け始めた。
「文化祭の準備。進んできてますね。」
「まぁ、後2日後だしねー。今日から全部準備期間だし。今年も忙しくなるのかなぁー。あー、やだやだ」
「教師がそれだけやる気がないのは、さすがに良くないと思いますよ。」
「教師だって人さ。嫌なことは嫌さ。」
「正論ですねー。」
「みんなが頑張って準備しているとこに言うのもあれだけど、今年も人は少ないんだろうな。」
「仕方ないですよ。ここに不特定多数の人間が入るのはあまりに危険すぎますし。」
この学校のルールの中に〈文化祭 体育祭などでは身分証明書の提示、誰の誘いで来たのか。それを書かなければ一部の例を除き入れることはできない。〉しかしその一部の例とは、僕が平賀さんを体育祭の時に入れた〈身分証の提示を断られた場合、誘った人によっては中に入れることを許可する。〉というルールである。
「‥‥先生にとって、強いってなんですか?」
ふいに〈鶴〉を思い出してそういった。
『強い』ことは、〈鶴〉は『人を守ること』というだろう。優也は『敵を圧倒的な力を持って勝つこと』というだろう。日向は『小さな力で多くの敵を策にはめる事』というだろう。
「そういうお前はどうなんだ?」
何だろう。強いことは‥‥
「敵をぶっ飛ばして、圧倒的な力の差をもって圧倒的に勝つこと。」
「幸人。お前、勘違いしてるだろ。」
「……何をですか」
「強いという事は、無双できることではないんだよ。敵を全員吹き飛ばして、一人も傷つかずに解決するのが『強い』ってことじゃない。‥‥どれだけボロボロになっても、嫌なことから逃げずに、最後の一歩をどっちに踏み出すか決められる。‥‥それができる奴が、一番強いんだ。」
北上先生は持っていたパンの最後の1口を食べて、飲み込んだ。
「じゃぁ、私は私で仕事があるから。じゃぁね。」
北上先生は食べ終わったパンの袋を片手に、屋上を出て行った。
「僕も準備を始めますか」
あぁ、平賀さんの方で今、工事してるから、そっちも手伝わないとな。忙しい 忙しい。
コメント
1件
北上先生の「強い」の定義、すごく沁みました……。「どれだけボロボロになっても、逃げずに最後の一歩を決められる」って、優也や日向、鶴たちのそれぞれの強さの根っこにあるものを言い当てている気がして。 幸人がここからどう変わっていくのか、すごく気になります。手記の行方も文化祭も、もう目が離せないですね!