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第34話、読みました…。由宇が魔女に「お前の人生には何の価値もなかった」って言われて、それまで耐えていたものが崩れて縋りつく場面、すごく胸が痛かったです。悪夢と現実が重なって、逃げ場のない閉塞感がひしひしと伝わってきました。最後に「由宇ちゃん」と呼ぶ声が聞こえたとき、思わず息を呑みました。あれって、誰なんでしょう…。次が気になります。
周囲を石造りの壁、床、そして天井に囲まれた一室。 ——由宇が囚われているのは、そんな殺風景な場所だった。
奇妙なことに、四方のどこにも扉は無い。
天井に取り付けられた裸電球が室内をぼんやりと照らしており、床のあちこちに黒ずんだ染みが広がっている。
廃ビルの屋上で魔女に連れ去られた彼女は、気がつけばこの部屋の中に居た。
由宇はすぐに悟った。
ここは、自分が悪夢で見た場所。
大勢の女性が、おぞましい拷問にかけられた場所なのだ——と。
一度は覚悟を決めたはずの自分の運命が、一気に実感を伴って襲いかかってくる。
うずくまり、ガタガタと震える由宇を見て、魔女は愉快そうに笑った。
赤と青の子分達も、それに倣って体を揺らす。
「——魔女様!魔女様!」
けたたましい鳴き声と共に、壁をすり抜け、一羽の鴉が現れた。
鴉はバサバサッと音を立てて床に降り立つと、魔女に向かって頭を下げた。
「魔女様!ご報告です!」
「何だい、ぎゃーぎゃーと騒々しい」
「『囲』の連中が門を閉じ始めました!向こう側に通じる門が、次々に塞がれています!」
「おや、そうかい。となると、あの小僧の記憶も消えちまうかねえ……」
魔女は腕に抱いたナハトの頭を撫でながら、フン、と軽く鼻を鳴らした。
「暫くの間『魔法の鏡』で苦しむ姿を盗み見てやろうと思ってたんだが——ま、メインディッシュはあくまで小娘。あの絶望しきった面を見れただけでも、充分お釣りがくるってもんだ」
魔女はニヤリと笑うと、
「ご苦労だったね。下がりな」
と鴉に機嫌よく声をかけた。
鴉が、カア、と短く鳴いて再び壁の向こうへと飛び去って行く。
ひっひっひっ、という笑い声が響く中、由宇は呆然としつつ呟いた。
「記憶が……消える……?」
「そうとも。記憶だけじゃない。お前の存在は、はなから無かったことになるんだ」
魔女が言うには『囲』と呼ばれる者達が、特殊な儀式によって〝世界の歪み〟を正そうとしているらしかった。
儀式が終われば、由宇の居た痕跡は、現世から完全に消滅する。
それはとても恐ろしいことであると同時に、ある種の救いがあるように思えた。
しかし。
「『両親や友達を悲しませずにすむ』——そう思ってるんだろ?ええ?」
由宇の考えを見透かして、魔女が笑みを深める。
「確かにその通りだねえ。お前がここで死んでも、誰も悲しまない。お前の生きた証は、何一つ残らない。アタシだって、お前なんかすぐに忘れる」
わかるかい——そう言って魔女は、由宇を見下ろし、続けた。
「お前の人生には、何の価値もなかったんだ」
その一言が駄目押しとなった。
由宇の中でかろうじて形を保っていた何かが、音を立てて崩れた。
「——い——嫌だ——」
口から、勝手に言葉が漏れた。
「嫌だ——死にたくない!死にたくないっ!」
由宇は魔女の足に縋りついて泣き喚いた。
もはや、自分ではどうすることもできなかった。
「お願いします!何でもします!だから、どうか——どうか、命だけは!」
「ふふ、ようやく素直になれたじゃないか。だけれども——もう遅いんだよ、この小娘がっ!」
魔女が由宇を足蹴にする。
「間も無く〝夜〟が来る。今のうちに、自分のくだらない十数年間でも振り返っておくんだね」
そう言い放つと、魔女はくるりと背を向け、目の前の壁——鴉が飛び去ったのとは反対方向の壁へと向かって歩きだした。
そのまま当たり前のように壁をすり抜け、姿を消す。
二体の子分もそれに続き、部屋には由宇一人が取り残された。
「待って——待ってください——!」
必死に後を追おうとした由宇だったが、もはや魂のみの存在でなく、魔女の様な不可思議な力も持たない彼女には、壁をすり抜けるような芸当は不可能だった。
由宇は泣きながら、壁を掌で叩き続けた。
当然ながら、壁はびくともしない。
由宇にできることは、もはや祈ることのみだった。
「誰か……助けて……」
壁に額を当て、由宇が掠れた声で呟いた、ちょうどその時であった。
どこからともなく、彼女を呼ぶ声が聴こえてきたのは。
『……ちゃん……由宇ちゃん……』