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「……」
カルトにあんな剣幕で怒られたことなんか初めてだった。
……突き放されたのも、初めてだった。
カルトはおれのことを好いてくれていると思っていた。
だから嫌われたく無くて、カルトが喜ぶことをしようと努力してきたつもりだった。
けれど全部間違っていたみたいだ。
「はあ……」
ため息を吐いても気分は晴れない。
あの日からずっと雨が降り続いている。まるでおれの心を表しているかのようだ。
波は荒れ、風は吹き荒び、空は真っ黒に曇っている。
こんな天気だと船酔いしてしまう。
おれは甲板に出てぼんやりと海を眺めることにした。
そういえば昔はよくこうやって海を見ていた気がする。
おれには兄弟がいたから、寂しくは無かったけどやっぱり一人で見る景色というのは少し物悲しかった。
でも今は違う。おれの隣にはいつもカルトがいてくれる。
「……」
戻ろうと踵を返した瞬間、濡れた甲板に足を取られ風に煽られて体が後ろに倒れる。
「?!やべッ……!」
このまま海に落ちたとして、おれは泳げない。
(死ぬのかな)
そう思って目を瞑ったが、いつまでも海水の冷たさは襲ってこなかった。
恐る恐る目を開くと必死の形相をしたカルトがおれの腕を掴んでいた。
「は、え、?カルト?」
「……さねェ」
「へ?」
「オレの目が届かねェところで、死ぬなんて許さねェ!!!」
そう叫ぶとカルトはおれの体を引き寄せた。
無事甲板へ引き上げられたおれはカルトの顔を見ようとしたが、有無を言わさず抱きしめられた。
「……オレは、死神だ。お前の死に目を看取るのはオレだけの役割だ……オレ以外の死神に看取られるなんて、許さねェからな……」
そう言うカルトの声は、震えていた。
嗚呼、暖かくて、優しくて、残酷な人。
おれの愛する人は、誰よりも優しい死神だった。