コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ドル…なのか…?」
消え去った彼の残像が私の頭の中で離れないでいた。
「あっ、いた!リエン、探したのよ」
背後から聞き馴染みのある声が聞こえた。振り返ると、森の暗闇を潜り抜けて来たのか、ティニが立っていた。
「ティニじゃないか。どうしてこんなところに」
彼女は一人だった。こんな深い森に私がいるとなぜ分かったのか。それにチタニーはどうしたのだろうか。
「それはこっちのセリフよ。彼女がリエン一人だと危ないって言うんだもの」
ティニは私の腕を掴むと強引に引っ張っていく。
「どうして強く掴むんだい?」
ティニは私の言葉など聞いていないのか、そのまま足早に進んでいく。来た道を戻ろうとしているのだろうけど、彼女はいつになく機嫌が悪そうだった。
「私は怒ってるのよ」
腕に込められている怒りの矛先は私なのだろうか。一体、私が何かしたのだろうか。
ティニは足を止めると、私を睨みつけながらに言う。
「リエンのその自己犠牲精神とチタニーの神様気取りの態度に…ムカついてるのよ」
私は意味が分からなかった。ティニはそんな私を少しも気にかける様子もなく、進んでいった。彼女の背はまるで今は話しかけるなとでも言っているようだった。
私とティニが教会へ戻ると、チタニーは深刻な面持ちで待っていた。
「呼んできたわよ、チタニー」
ティニは私を彼女の方へ物を投げるように、押し出す。私は彼女にぶつかる寸前で足を止めた。危うくその小さな身体に衝突するところだった。
「ちょっとティニ。そんな乱暴にしないでくれないかな。さっきから君の怒っている理由がよく分からないんだけど」
ティニは私の言葉など聞いていない様子だった。ただ黙って、チタニーの言葉を待っているようだ。
「ティニール、コリエンヌから写真を取って」
チタニーは私の手を指さした。そこには、黒服の男性から受け取った写真がある。彼女には何もかも見通す怖さがあることを忘れていた。途端、手の内から写真がすり抜ける。
「おい、何するんだティニ」
ティニに奪われたと気付く頃には、既に中身を見られてしまっていた。
「これは…なんのつもり?」
彼女はそれを見て一層不機嫌な顔をする。見られてしまった時点で、ティニが私に追求をしてくるのは分かっていた。
「これは何の真似なのか、教えてくれないかな」
私はティニを他所に、チタニーに答えを求めた。彼女が写真の存在を明かしたのはなぜなのか。ティニを不安にさせるのは、彼女だって不本意なはず。
「どうしてこんなことをするのかな」
チタニーは感情が欠落した人形のようだった。私の言葉に反応する瞳に、人らしい情のようなものを感じなかった。
「これリエンだよね。私の知らないうちにこんな事をしてたの」
ティニは明らかに動揺していた。
「ねえ、これ。撮られたんでしょ。なんでリエンが持ってるの」
彼女は私の言葉を待たず、写真を突きつける。
「ちょっと待って…どうしてこれをすぐに信じるんだ」
聞く気がないのか、ティニは私の襟首を掴む。視界が彼女に釘付けになる。
「ちゃんと答えてよ。これ、誰から貰ったの。これはどういうことなの」
彼女は急かすように、逃げられないように言葉を重ねてくる。言いたいことは沢山ある。でもここで、黒服集団の一部と出くわした事を話せば、彼女の不安を煽ることになるのは目に見えていた。いらない心配はかけたくなかった。
「はっ…しらを切るつもり?いいわよ、全部チタニーが教えてくれるから」
ティニは私の嫌な予感を的中させてくる。
「待って、それはどういう事かな。チタニーを使うって。君は自分の言っていることが分かっているのか?」
私は焦っていた。チタニーにはなぜか、全てお見通しな気がしていたからだ。それを全てさらけ出されてしまうのは違う気がする。