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「ねえ、明菜から電話が入っているよ。出なくて良いの?」
彩が心配そうな顔で和也に聞く。二人は元居た場所から離れて花火を観覧している。
「出なくて大丈夫だよ。後で俺が謝るから」
「どうしてみんなで花火を見ないの?」
「俺達いつも四人だから、拓馬達は進展がないと思って。たまには二人っきりにさせないとね」
和也は悪戯っぽい顔で笑った。
「もしかして、和也は俺達を事故に巻き込まないように別行動にしたんじゃないか?」
拓馬には、和也が意図的にこの場を離れたとしか思えなかった。だとすれば考えられる理由はそれしか無い。
「私もそう思う。和也君の性格を考えたらそれしか無いわ」
いよいよ、一番最初の花火が上がり、大会がスタートした。
「私があんなところで時間を潰さなければ……」
「明菜の所為じゃない。元々は俺が撒いた種なんだから。それに和也が言っていたんだ。彩を庇って自分だけが死ぬような事故は限られてくるって。少なくともこの広場では、そんな事故は起こらないよ。探すのは終わってからにしよう」
自分が話した言葉だが、拓馬は口に出した事で自分自身が落ち着いた気がした。
「そんな考え方もあるんだ……」
「そうだよ。今は焦っても仕方がない。せっかくだから花火を見よう」
「うん」
二人は並んで座り、花火の上がる夜空を見上げた。
「暗いから手を握ってても良い?」
「えっ? ああ、良いよ」
明菜の左手が拓馬の右手を握る。拓馬は安心させるように明菜の手を握り返した。
やがてその手は恋人繋ぎになり、明菜の右手も添えられる。拓馬もそれを拒む事なく、何も言わずに受け入れた。
明菜は花火を見上げる振りをして、半分ぐらいは拓馬の横顔を眺めていた。じっと眺めていると、どこかに行ってしまいそうな気がする。
――今日が約束の日だ。明日からも拓馬君はこうして私の横に居てくれるのかな……。
「どこにも行かないよね?」
明菜は拓馬の横顔に問い掛けた。
「えっ? 何か言った?」
だが、花火の音に掻き消されて、拓馬には届いていない。
「ううん、何でもない。花火が綺麗だねって言ったの」
「ああ、綺麗だな」
そう言って拓馬はまた、花火の上がる夜空を見上げた。
拓馬は目の前の花火に、彩と見た夜空を思い出していた。この花火大会を彩と一緒に見た事があるのだ。今と同じように手を繋ぎながら。
――今は横に明菜がいるのに彩を思い出すなんて、俺は酷い男だ。明日からどうすれば良いのか? 彩を忘れる事が出来ないのに、明菜と付き合って良いのか? 明菜なら俺よりもっと良い男と付き合える筈。中途半端な気持ちで付き合うべきじゃない。
拓馬は夜空を見上げて、そんな事を考えていた。
最後の連続花火が夜空に消え、大会が終了した。明菜は、和也達を探しに行かないといけない気持ちを持ちながらも、このままずっと拓馬と一緒に居たいと思った。
「さあ、和也達を探しに行こう」
拓馬の言葉で明菜は現実に引き戻される。
――さあ、気持ちを切り換えないと。
明菜は気を引き締めた。
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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