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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「静かにしなさい! 近所迷惑よ!」

「く、うぅぅ……」

「明日から修行ノルマを始めるんでしょ。早くお風呂に入って休みなさい」


うぎぃぃぃーーー!!!

やり場のない怒りが爆発しそうだよ!!

どこかに思いっきりぶつけたい!


「あとこれも、お姉ちゃんからよ」


木刀を渡された。

……なに? これでお姉ちゃんを叩けばいいの?


「素振りして怒りを鎮めること、って言ってたわよ」


……いいよ、思いっきり素振りする。お姉ちゃんを頭の中でボコボコにする。


「外で素振りしてくるよ」

「大きな声は出さないようにね」

「……うん」


庭に出て木刀を構える。

ちゃんとした構えなんて知らない、師範代の真似だ。ちゃんとした振り方も知らない、師範代から受けた錯覚の真似だ。


「お姉ちゃんめー!!」


ブンブンブン!


「この性悪女ーーー!!!」


ブンブンブン!


「アウレーリア! 大きな声出すなって言ったでしょ!」

「ごめんなさい」


……少しはボコボコに出来たけど、お母さんに怒られたのでプラスマイナスゼロだよ。


「ふぅー。落ち着けわたし……」


声に出してボコれないなら無言で素振りをするしかない。無言で素振りしてこの怒りを発散できる?

……無理だね。

なにか適当な物をボコボコに出来れば無言でもいいけど、そんな都合のいい物はないし、木や壁を木刀で叩いてもこっちが痛いだけ。なにかいい物ないかなー……。

辺りを見てみる。

……あれって、ゴムボール?

庭の隅にこぶし大のゴムボールが転がっていたので、木刀で軽く叩いてみる。


グニッ、グニッ……


……これの大きいのがあれば、叩いても大丈夫じゃない? でも、そんな都合のいい物なんてないか。売ってるのを見たこともない。

自分で作ろうにも、ゴムの材質なんて知らないし、どれだけ時間がかかるかも分からない。自分で作れるのなんて、魔術もどきの氷くらいだ。

……氷かー。仮に大きな氷の塊を出せたとしても、叩いたら痛いよね。……水なら痛くないかな。

大きな水の塊? なにそれ? 出せたとしてもすぐに散らばるよね。出すなら水より固くて、叩いても痛くないような柔らかい何かじゃないとダメだ。

……うーん、水っぽい塊……。


「……ゼリーとか?」


あ、いけそうな気がする! 大きなゼリーの塊!

魔術「ゼリーの塊」

……ちょっと名前があれだね。もっと可愛い名前……ゼリー人形とか? うん、少しはましになったかな。人型でイメージしやすいし。

ストレス発散魔術「ゼリー人形」

いいね! 楽しそう!

プルプルのゼリー……人型をイメージして……。


「出てきて、ゼリー人形!」


プルンッ……プルプル……。


「いいよー、可愛いよー!」


のっぺらぼうでつるんとした全身の人型ゼリー。

水色の半透明で、大きさはわたしと同じくらい。

……あとは、木刀で叩いても大丈夫かどうかだよね。


「せーの……えい!」


ニュルン!


振り下ろした木刀は頭から地面まで突き抜けた。

……全く痛くない。でも、物を切った感触はあるし、ゼリー人形は崩れずにくっついて元に戻った。


「凄いねー、これ。切った感触はあるから満足感はあるし、元に戻るから何度でも切れそう」


ゼリー人形……思った以上に凄い魔術! ん? 魔術じゃなくて魔術もどきかな?

……どっちでもいいか。便利ならそれでいいよね。

さー、覚悟してねお姉ちゃん。滅多切りにしてあげる!


「ふふふふふふ……」


ブン! ニュルン!

ブン! ニュルン!

ブン! ニュルン!

ブン! ニュルン!

ブン! ニュルン!

……。……。……。……。


「ふぅーーー、大満足。性悪女を懲らしめてやったよ。疲れたーーー」


30分間ひたすら切り続けた。

こんなに運動したのは体育以外では初めてかもしれない。

……ゼリー人形、消えないけどいつまであるのかな? もしかして、わたしが消さないと消えないタイプ? まさか、ずっと魔力を消費し続けてるとか? それってまずいんじゃ……。


「属性剣を戻せ、魔力が尽きて倒れるぞ」


訓練所でのシズカさんの言葉がよみがえる。

……まずい! 属性剣と一緒なら魔力が尽きて倒れるかもしれない! け、消さなきゃ! ストローのイメージで魔力を吸い出して……え、出来ない!? なんで!? ……人形との繋がりがイメージできない、どうしよう……。


「触れてれば、イメージしやすいかな?」


プニ……


あ、これならいけそう。

このゼリー人形の魔力を吸い出すイメージ……。


パシャッ……


「よかったー、消えたよー……」


ゼリー人形ははじけて消えた。水跡も残ってない。焔もそうだけど、魔力を吸い出して消すと何も残らないんだね。

……悪いことに使えそうじゃない?

でも、わたしが考えるようなことを大人が考えないはずないか。周りで悪いことに使われたって聞いたことがないし、きっと出来ないようになってるんだね。


「……汗かいたし、お風呂に入ってもう寝よう。明日からはこれ以上の運動が待ってるんだから……」


……10kmのランニングに腕立て腹筋スクワットが合計150回……。お姉ちゃんへの怒りが再燃してきたよ!


「お姉ちゃんめーーー!!!」


ブンブンブン!


「アウレーリア! いい加減にしなさい!」

「ごめんなさい、もうやめるよ」

「なら、さっさとお風呂入って寝なさい」

「うん……」


運動した後はお風呂でさっぱりだよね。お姉ちゃんへの怒りも洗い流そう。

魔術もどきの泡洗浄で身体を洗う。


「あー、この微弱な振動が疲れた身体に気持ちいいー……」


……明日からは地獄のノルマが始まるのか……耐えられるのかな、わたし……うん、無理だね。

学校でのマラソン大会だって5kmが最高だ。その後の筋肉痛はすごくつらかった。

その2倍を毎日。しかも腕立て腹筋スクワットが50回のおまけつき……あ、泡洗浄終わった。

流して湯船につかる。


「ふぅーーー。ホントにどうしよう……」


このままじゃ倒れるのは目に見えてる。でも、サボったらお姉ちゃんに即バレして投げられる。

……行くも地獄、引くも地獄ってこのことだよね。

サボったら投げられるのは確定事項、回避するにはノルマをこなすしかない。どうやったらノルマをこなせるか……。

一度に10kmと50回×3は無理だから、朝と夜に分ける? 5kmを2回と25回×3を2回……。これならギリギリできるかな?


「でもねー……」


絶対に筋肉痛になるよね。2日目でもう動けないような気がする。

毎日マッサージをしてくれる人でもいれば少しは楽になるかもしれないけど……。

さっちゃんに、朝と晩にマッサージしてもらう? わたしは幸せだけど、さっちゃんには迷惑だよね……。


「ホント、どうしよう……」


泡洗浄が強力に出来ればいいけど、思いつかない。だって泡だよ。所詮は泡。あんな軽いものをいくら震わしても微弱マッサージにしかならない。

もっと重いもので全身を覆って震わすことが出来るもの……。


「……これ、いけるんじゃない?」


浸かってるお湯を見つめる。

温めるには粉みたいに細かくイメージしたけど、もっと大きく、さっきのボールくらいの大きさにイメージしたら全身マッサージ出来る気がする。

魔術もどき「お湯マッサージ」

……いいんじゃない?

このお湯を沢山のボールにして、ブルブル震えるイメージ……。


「お湯マッサージ」


……おぉ!!


「これ、いいかも!」


身体を動かすと、イメージしたボールの位置が変わって気持ちいいとこを調整できる。


「おおー、これいいねー。ノルマの後はこれをしよう!」


この魔術が使える人がいっぱいいたらマッサージ店が潰れるんじゃないの?

……もしかして、マッサージ店でも同じことをやってるとか?

わたしが思いついて出来てるんだから、プロの人達がしないわけがないよね。こんなに気持ちいいんだし……。


「泡洗浄も含めて、今度さっちゃんにやってあげよう」


支部の温泉に行って、またさっちゃんと洗いっこするんだ。次の日曜は道場だから、その次の日曜かな……。


「あーーうーー、ホントに気持ちいいーーー」


なんかもう、この魔術を覚えただけでもノルマを課せられたかいがあったってもんだよー。

……もしかして、ノルマをこなしていけばもっと便利で気持ちのいい魔術を思いつく?

どんどん辛い目にあって、それを上回る快適魔術を思いつく……これが、修行の成果ってやつなのかな? みんな、こうして強くなっていく?


「アウレーリア、あまり長く入ってないでもう出なさい、お母さんも入るんだから」

「はーーい」


ちょうどお湯マッサージも止まったし、もう上がろう。魔術もどき「砂漠の風」で髪を乾かして整える。


「ホント便利だよねー。もっと色々使いたいなー」


色々使いたいけど、何をどう使いたいのか全くイメージが浮かばない。やっぱり修行が必要だね。そう思うと、ノルマのことも少しは前向きに考えられる。

……うん、頑張ってみよう!


「疲れたーーー!」


ボフッ!


布団の上に思わずダイブした。それぐらい今日は疲れた。一番の原因はお姉ちゃんだ。

……スリッパ折檻と投げられたのを思い出したらまたムカムカしてきた。壁にかけてあるノルマ用スポーツウェアを見るともっと怒りが沸いてくる。

……熱い。

夏だから暑いのは当たり前だけど、暑いを超えて熱い。それぐらい怒りがわいてくる。


「……送風機、つけなきゃ……」


……これも、魔術もどきでもっと快適に出来るんじゃない? 夢の冷風機の再現!

温風の反対、冷風……砂漠の反対……冬とか?

冬の風……涼しいというより寒そうだね。

風じゃなくて、空気……冬の空気をイメージ……いけそうな気がする。

部屋全体を包む、冬の空気をイメージして……。


「冬のくう……!?」


なに!? 物凄い悪寒が走ったよ!?

魔術は発動してない。けど、物凄い悪寒が走った。感覚でこの魔術は発動したらダメだって感じる。イメージは出来てるし、いけそうな気はするけど、発動しちゃダメだって思いが強い。


「……なに、これ?」


初めての経験だ。

今まで魔術もどきでこんな風に感じたことはない。イメージ出来たらどんなものも使えた。


「……やめておこう。今日は送風機で我慢しよう」


……嫌な予感がするし、無理しない方がいいよね。明日は早起きして5kmもランニングしなきゃいけないんだから。

悪寒の理由もシズカさんに聞けばいいし、深くは考えない。


「寝よ……」


よっぽど疲れてたのか、わたしはすぐに眠りに落ちた。

永遠のフィリアンシェヌ ~友情と愛情の物語~

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