「みんなはちまき付けた?」
私たち5人と1年生全員、左手首にはちまきを巻いた。
「よし、じゃあ円陣組もかー」
円陣なんていつぶりだろう。
「凪、おいでや」
滝原くんは1人分の幅を空けてくれていた。
「この夏最初のパフォーマンス、全力でやりきろう!いくぞー!」
「「「「「おーーー!!!!」」」」」
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校舎から、頑張れ〜、という声が聞こえる。
滝原くんが、すっと息を吸う。
「お願いします!!!!」
繰り返し。
「「「「「お願いします!!!!」」」」」
最初は滝原くんと皆川くん。
2人の、はいっ、という声が中庭に響く。
緊張している。鼓動が鳴り止まないし、手は震えている。
もう出番だ。
瑠衣ちゃん、日高くん、私の3人が上がった。
日高くんが軽く膝を曲げるのが掛け声の合図。
「「「はいっ!!!」」」
手は震えたままだった。
でも私の字を、みんなが褒めてくれた。
きっと誇っていいんだ。
練習のときはもっとゆっくり書けていたが、緊張で筆が動くのが早くなり、3人の中で一番早く書き終わった。
ただ、ゆっくりと姿勢を戻し、丁寧に礼をした。
次だ。
『全力』という文字を、力強く。
今度は紙の上に2人しかいない。
さっきより注目されている気がして、足も震えている。
日高くんが膝を曲げる。
「「はいっ!!」」
掛け声で少し和らいだ。
赤い墨で、大きく。
緊張であまり耳に入ってこなかった音楽も聞こえるようになった。
さっきよりゆっくり、落ち着いて書いた。
日高くんが書き終わるのを待ち、同時に礼をした。
私と日高くんの間をすれ違うように、滝原くんがゆっくりと上がった。
1年生はダンスを終えその場に座り、音楽の伴奏だけが鳴り響いている。
全員が、滝原くんただ一人に注目している。
「はいっ!!!!」
透き通った、でもよく響く声だった。
鮮明な青が、紙を彩っていく。
緊張しないはずがないのに、全く焦りが見えなかった。綺麗なのに迫力があって、力強いのに繊細だった。
最後の一画を書き終え、滝原くんは礼をし、みんなの真ん中の位置に戻った。
音楽が鳴り止み、1年生が紙を校舎の向きに回した。
「移り変わる季節に手を引かれ
その手を離し 自力でようやくここに立つ
右も左もわからず
ただ 上には青空と揺れる緑
下には 踏み出したくて仕方がない私の脚
前には果てしない景色
後ろには 私の一歩を押す風のみ
心には仲間
夏が始まる今 全力でただ前へ」
1年生が声を揃えて読み上げた。
校舎から、すごい、という声や軽く拍手をする音が聞こえてきた。
「ありがとうございました!!!」
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
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