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#4
猛烈な痛みと共に朝を迎える。グルが信じられないほど大きく目を開けて体を起こすと、膝の上に吉木が座っていた。
「おはようグル君! ツボ押してたけど起きちゃった?」
「勝手にツボを押すな!! 今、何時だ?」
辺りを見渡すが、時計はない。殺風景な壁のみしか見当たらなかった。
「4時! 寝すぎたかな?」
グルの膝からは離れようとせず、ご丁寧に正座をしてケラケラ笑っている。グルはもう一度横になって寝ようとした。
「駄目だよグル君。このまま撃たれたら死んじゃう」
寝ているグルに吉木が顔を近づけて言った。その場に沈黙が流れ、真剣な顔をしている吉木に動揺を隠せなかった。
「は?」
「僕は何するか分からないよ。それでも寝るの?」
その言葉は「浦ならやりかねない」という恐ろしさを込めていた。
「……起きる」
渋々体を起こすと、吉木がにやりと口角を上げた。
「いいね、起きないと始まらないよ。もう始まってるけど 」
──そう。訓練はもう始まっていた。
グルが机に目をやると、爆弾にナイフ。大量の暗器も並べられていた。そこには拳銃もある。
「ほらほら、膝の上に乗られてるんだから本当に何でも出来る。この状況を回避するには?」
「……手を掴む?」
「そしたら君も手が出せないよ」
「肋骨を殴る」
「やってみて!」
拳を握って、人差し指を飛び出させ、その飛び出した指の第2関節で打撃をする。吉木の肋骨を狙った。すると、おとなしくやられるわけもなく吉木が一本拳をかわしてグルの喉仏を強く殴った。
「横になってたら不利でしょ? 僕もパローマに毎日喉仏殴られてたんだから……って、呼吸困難になってるか、ごめんごめん」
吉木の方向に倒れかかったグルの背中をポンポンと叩く。そこで、にやりとグルが笑った。吉木の肩を鷹の爪のように掴んで反対の肩を大きく振り上げる。
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙?! い゙った?!」
吉木が後ろ側に倒れた。何が起こっているのかというと、一本拳で股間を殴ったのだ。無論、全力で。痛みで体が明らかに震えているのを見ながら、グルは金的が一番だと確信した。そして、机においてある拳銃を手に持つ。
「喉仏より痛いと思うぞ、大丈夫か?」
心配の声をかけるが、吉木は涙目で唸り声を上げていた。布団の布を掴んで歯を食いしばっている。
「うぅぅ……あんなに……全力な金的……初めてだよ……痛い、立てない……潰れてない……よね、感覚がおかしい……」
「俺に聞くな。全力で殴っただけだ」
確かに事実。けれど金的は禁断の術だ。
「え、感覚がない。嘘でしょ。冷たいよ……」
上半身を起こして確認しようとするが、痛みで確認できるような状態ではない。女性諸君に例えよう。ソフトボールがとんでもない速さで足首の骨に当たり、痛みが引かない。やわな例えをしたが、似たような痛みである。いや、それよりも表現の出来ないお腹に響いて立てなくなる痛みは、蹴られてみないとわからないだろう。
「潰れていたとしても……冷静だな、泣くかと思った」
泣いてはいないが、涙目なのは一目瞭然。いつも向日葵のような笑顔を見せる吉木でさえも顔がひきつっていた。
「痛すぎて泣けない。しかも拳銃を突きつけないで? 体術の訓練しないと間に合わないって……」
立とうとすると、一ミリたりとも引かない痛みに苦しめられる。しかも、グルが膝の上に胡座をかいて拳銃に弾を詰めているのだ。
「賢いなぁ……。まぁ、冗談は置いといて……
すっっっっっごい痛い金的をどうもありがとう。痛みが引かないのは君の足が僕の股間を押さえつけてるからだと思うんだよね。どいて?」
「ツボを押したこと許してねぇからな」
そう言いながらも、グルは拳銃を構えつつ退いた。
「金的のほうが痛いよ」
溜息をつきながら吉木が起き上がる。そしてふらふらと転びそうになりながらベッドから降りた。
「とりあえず、 着替えよう!」