テラーノベル
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屋上を叩き始めた雨粒が、次第に勢いを増していく。
冷たい雨が肩を濡らしていくけれど
黒瀬くんに包み込まれた手だけが、熱いくらいに火照っていた。
「……嫌、だった。他の人と楽しそうにしてるの、見てるだけで胸が苦しくて……っ」
一度溢れ出した言葉は、もう止められなかった。
彼が私をどう思っていようと、この想いだけは嘘にできない。
「舞さん……っ」
黒瀬くんが、傘も差さずに私を強く抱き寄せた。
雨に濡れたスーツの冷たさとは裏腹に、彼の体温がダイレクトに伝わってくる。
「ごめんなさい、試すようなことして。……僕、舞さんが僕をどう思ってるのか、不安で仕方なかったんです」
「無理やりあんな関係になったから、どうしても繋ぎ止めたくて強引にしちゃってましたけど…僕、他の人と食事なんて行く気ないんですよ……?」
耳元で聞こえる彼の声は、これまでの余裕たっぷりな「ケダモノ」の面影は微塵もなく、震えていた。
顔を上げると、そこには潤んだ瞳で私を見つめる、年相応な一人の青年の顔があった。
「……僕、ずっと前から舞さんが好きだったんです。配属される前から、一目惚れだった。気を引きたくて、あんな強引なことばかりして……本当に、子供でした」
「え……?」
「どうしても好きになって欲しいって思って。でも、舞さんの涙を見たら、動揺しちゃって」
彼は雨に濡れた私の頬を、指先で優しくなぞった。
その手つきは驚くほど繊細で、大切にされている実感が胸を甘く満たしていく。
「舞さんは…その、嫉妬してくれたってことは……僕のこと、好きですか……っ?」
雨音の向こう側で、彼の真っ直ぐな言葉が真っ白な心に響く。
私はもう、言葉を返す代わりに、彼の濡れたシャツをぎゅっと握りしめた。
「……っ、もう、好きだよ。意地悪な蓮くんも……本当は優しい蓮くんも、全部」
雨の中で重ねられた唇は、これまでのどんな口づけよりも甘く、優しく。
私たちは降りしきる雨の中で、ようやく「本当の恋」の始まりを分かち合った。