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#Paycheck
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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「じゃあ――そうする」
エリオットのその一言。
軽いはずなのに、どこか逃げ道のない響き。
チャンスは何も言わない。
ただ、目を細めて見ている。
もう主導権は戻らないと分かってるみたいに。
エリオットは一歩だけ近づく。
さっきまでみたいに急がない。
距離はすでに近い。
だから、ほんの少しでいい。
「ね」
小さく呼ぶ。
チャンスの視線が落ちる。
「ん?」
「もういいでしょ」
少しだけ笑う。
「意地張るの」
チャンスは一瞬だけ黙って――
それから、ふっと息を吐いた。
「……張ってねぇよ」
「張ってたよ」
即答。
でもその声はやわらかい。
責める感じじゃない。
ただ、分かってるっていうだけ。
そのまま、エリオットは手を伸ばす。
さっきまで縛られていた手首。
今は自由になったその手で、
チャンスの頬に、そっと触れる。
「ほら」
軽く、撫でる。
「ちゃんとこっち見て」
逃げられない距離。
でも、優しい触れ方。
チャンスは少しだけ視線を逸らしかけて――
やめる。
そのまま、受け入れる。
「……ほんと、面倒なやつ」
小さく呟く。
エリオットはくすっと笑う。
「知ってる」
そのまま、ゆっくり距離を詰める。
今度は迷いがない。
触れる直前で、ほんの一瞬だけ止まる。
視線が合う。
呼吸が重なる。
「逃げないでね」
小さく、確認みたいに。
チャンスは目を細めて――
「逃げねぇよ」
低く返す。
それを聞いた瞬間。
エリオットは、やっと笑った。
安心したみたいに。
そのまま――触れる。
さっきより、少しだけ長いキス。
急がない。
確かめるみたいに、ゆっくり。
チャンスは一瞬だけ遅れて、
でも、ちゃんと応える。
さっきまでの駆け引きはもうない。
ただ、距離が近いだけ。
離れる。
ほんの少しだけ。
でも、まだ近い。
エリオットはそのまま小さく息を吐く。
「……これでいい」
満足したみたいに。
チャンスはその顔を見て、
少しだけ呆れたように笑う。
「勝った気でいるだろ」
「いるよ」
即答。
「完全勝利」
にやっと笑う。
でもその目は、やわらかい。
チャンスは小さく息を吐いて、
そのまま、エリオットの髪に手をやる。
軽く撫でる。
「……ほんと、ずるい勝ち方だな」
「でしょ?」
誇るでもなく、ただ楽しそうに。
そのまま、ソファにゆっくり体を預ける。
自然な流れで、距離も崩れる。
隣同士。
肩が軽く触れる。
「ね」
エリオットが小さく呟く。
「今日さ」
「ん?」
「楽しかった」
少しだけ間を置いて、
「全部」
チャンスはそれを聞いて、
ほんの一瞬だけ黙る。
それから、静かに返す。
「……俺もだ」
短いけど、ちゃんとした声。
エリオットは満足そうに笑って、
そのまま少しだけ寄りかかる。
拒まれないのを、分かってるみたいに。
チャンスも何も言わない。
ただ、そのまま受け入れる。
外は静かで、
部屋の中も静かで。
さっきまでの駆け引きが嘘みたいに、
穏やかな空気だけが残る。
「……ね、チャンス」
「なんだ」
「また行こうよ」
「どこに」
「カジノ」
小さく笑う。
「次も勝つから」
チャンスは少しだけ笑って、
目を細めた。
「……次は負けねぇよ」
「どうかな」
エリオットはにやっと笑う。
でもそのまま、目を閉じる。
少しだけ安心したみたいに。
夜はまだ終わってない。
でも――
もう勝負はついてる。
静かに、甘く、
全部持っていった夜だった。