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「……さん!」
な……なんだ? 誰かがあたしを呼んでいるのか?
「……お姉さん!」
ああ……そうだ……。あたしはあの子の名前をまだ聞いていない。
だから、あたしは……まだ……死ぬわけには……いかない!
「……は……はは……どうやら……あたしは……命拾いした……みたいだな」
「お姉さん! よかった、生きてたんだね」
「……みたいだな。ところでなんであたしは花に囲まれてるんだ?」
地面に横になっている彼女の周りには、たくさんの『ラッパスイセン』が立っていた。
「それは分からないけど、お花さんたちがお姉さんの傷を治してくれたんだよ」
「……なるほど。そういうことか……黒沢のやつ……余計なことを」
彼女はそう言うと、その子に手を伸ばした。
「少し早いけどよ……お前の名前……教えてくれよ」
その子は杉元の手を握ると、もう少しで彼女が死んでしまうのではないかと勘違いをした。
「まだお姉さんは私との約束を果たしてないから教えるわけにはいかないよ。けど、それがお姉さんの最期の願いだとしたら、私は言うよ」
その直後、杉元はニシッと笑った。
「バーカ。あたしはこれくらいじゃ死なねえよ。というか、今のは冗談だ」
「え? 冗談なの?」
「ああ、そうだ。だから、心配するな。いいな?」
「うん……分かった。何か私にできることがあったら言ってね」
「ああ、その時はよろしく頼むぞ。可愛いお医者様」
「もう、からかわないでよ……」
杉元は少しの間、体を休めていた……。
*
それから、数十分後……。
「よし、じゃあ、行くか」
杉元はそう言いながら、体を起こした。
「え? もういいの? 我慢してない?」
その幼女は心配そうに彼女の顔を見た。
すると、杉元はその子の頭を撫でながら、こう言った。
「別に我慢なんてしてねえよ。でも、ありがとな。そばにいてくれて」
「わ、私は別に何もしてないよ」
「んー? なんだー? 照れてるのかー? 可愛いやつだな、お前は……」
杉元はニコニコしながら、そう言った。
「もうー! 子ども扱いしないでください! 私はこう見えても、一人前の魔女なんですよー!」
「へえ、そうなのか。じゃあ、家まで一人で行けるな」
「そ、それは……その……私はまだ箒《ほうき》に乗るくらいのことしかできないので、守ってくれる人がいないと困ります」
「そうか、そうか。じゃあ、あたしが守ってやるしかねえな」
「は、はい。よろしくお願いします」
「よおし、そんじゃあ、行くぞー!」
「あっ! ちょっと! 待ってくださいよー!」
杉元は自分の槍とそれを覆うための黒い布を見つけると、元気に歩き始めた。
その直後、そこから数十メートル離れたところに体長三十メートルほどの巨人が姿を現した。
「な……なんじゃありゃああああああああああ!!」
杉元がそんなことを言うと、どこからか飛んできた二本の黒い槍が巨人の両目に突き刺さった。
その直後、巨人は倒れた。しかし、建物などが壊れる音があまりしなかった。
「い……今のはいったい……」
「さあな。それは、あたしにも分からねえよ。けど、巨人が倒れた時に黒沢が何かしたのは分かる」
「黒沢……って、誰ですか?」
「うーん、そうだな……。あたしの恋敵とでも言っておくかな」
「こ、恋敵《こいがたき》って、なんですか?」
「うーん、まあ、あたしが好きなやつとそいつの好きなやつが同じってことだ。お前に分かるように言うなら恋のライバルってやつだ」
「そ、そうなんですか……。じゃあ、お姉さんは今、誰かに恋をしているってことですか?」
「ん? あー、まあ、そういうことになるかな」
「そ、その人はお姉さんが好きになるくらいの人なんですか?」
「うーん、まあ、少なくとも、あたしよりかはあいつの方が強いな」
「お、お姉さんより強い人……ですか。それって、もしかしてケンカばかりする人ですか?」
「いや、あいつは戦いを好まないやつだよ」
「そうですか……。じゃあ、お姉さんはその人のどんなところが好きなんですか?」
「どんなところが好きって……まあ、あれだな。自分のやり方で最後までやり通すところかな」
「そ、そうですか……」
「ああ、そうだ。さて、そろそろ行くぞー」
「あっ、はい」
その子は杉元の満足そうな横顔を見ながら、こう思った。
この人の好きな人は悪い人ではなさそうだ……と。
*
それからしばらくすると、その子の家に到着した。
「へえ、ここがお前の家か……。なんというか一目で分かるな」
「まあ、扉から屋根まで黒い家なんて、あまりないですからね……」
「そうだな……。というか、早くお前の大切な物を取ってきたらどうだ?」
「あっ、そうでしたね。じゃあ、お姉さんは少しここで待っててください」
「ん? いいのか? 中に誰もいないとは限らないぞ?」
「いえ、この家には家族以外が入ると電流が流れる仕組みになっているので大丈夫です」
「へえ、便利なもんだな。まあ、気をつけて行ってこいよ」
「はい、そうします」
その子はそう言うと家の中に入っていった。
「……さてと、あいつが戻ってくるまで槍の手入れでもするか」
杉元はそう言うと、あぐらをかいて座った。
そして、名槍『黒神槍』の手入れをやり始めた。
「槍の手入れは楽しいぞー。カシウス、ロンギヌス、ゲイボルグ。一度は使ってみたいけど、本当にあるのか分からない。日本号、御手杵《おてぎね》、蜻蛉切《とんぼきり》。すなわち、天下三名槍。振り回してみたいけどー。展示物だから、できないよー。だから私はこれ使うー」
杉元はそんな歌を歌いながら、槍の手入れをしていた。
「……うーん、それにしても遅いな……。ついでに用を足してる……なんてことはないよな……」
杉元はその辺にあった石を家の中に放り込んでみた。しかし、何も起こらなかった。
「あいつ……まさか……!」
嫌な予感がした。もし、自分のためにあの子が嘘をついていたら、今頃、あの子は……。
「……おーい! あたしだー! 返事をしろー!」
杉元は暗い家の廊下を走った。無我夢中で走った。あの子がどこにいるのかは分からないが、この家の中にいるということだけは分かる。
だから、彼女は走った。それから数分後、彼女は普通の家の中にはない広くて明るい空間にたどり着いた。
「ここは……いったい……」
杉元は水色の水球の中に胎児のような姿勢で目を閉じている全裸の幼女を見つけた。
「お前……なんでこんなところにいるんだよ」
その子は少し前まで一緒にいたはずの幼女だった。
「おい……こんなわけの分からねえもんの中で休んでる場合じゃねえだろ。お前はこの家にあるっていう大切な物を取りに来たんだろ!」
杉元はなぜか浮いているその水球を槍で貫こうとした。しかし、できなかった。
もし、これが生命維持装置のようなものだったとしたらと思うと、槍を持つ手がかすかに震えていた。
その時……その水球が弾け飛んだ。
「……くっ!」
その水があまりにも冷たかったので、杉元は少し驚いたが、すぐにその子のところへと走った。
「おい、大丈夫か! おい!」
杉元が彼女の近くでそう言っても、彼女は目を閉じている。
「くそ! いったいここで何があったんだよ!」
その時、黒い何かが杉元の方に飛んできた。
杉元はそれを右手で握りつぶした。
「……おい……ここでいったい何があったのか知ってるやつがいたら、正直にあたしの前に姿を見せろ」
杉元がそう言うと、ぞろぞろと黒いローブを被った者たちが姿を現した。
「なあ……お前ら……。お前らはこいつの何なんだ? こんな幼い子どもにいったい何の用だ?」
その中の一人が杉元にこう言った。
「そいつがこのまちの魔女の娘だということは知っていたが、この家にかけられた人払いの魔法が強すぎて、どうにもここにたどり着けなかった。しかし、今日、このまちであのようなことが起こってくれたおかげで、ようやくここにたどり着くことができたのだよ」
「つまり……お前らはこいつを殺すために今日まで生きてきたってことか?」
「ああ、そうだ。しかし、さすがは魔女の娘だ。まさか、我々の魔法を自分の体の中に吸収してしまうとは」
「そんなことはどうでもいいんだよ。あたしが知りたいのはこいつがまだ生きているのかどうかだけだ!」
「ふむ……まあ、今は生きているがあと少しで死ぬだろうな」
「なんだと?」
「他人の魔力を属性・威力に関係なく吸収すれば、大抵の者はその力に押しつぶされて死ぬ。しかし、他人の魔力を自分が吸収しやすいものに変えることができるのなら、生存率は高まる」
「じゃあ、こいつを今すぐ手当てすれば、助かるってことだな?」
「それはそうだが、我々がお前を生かしておくとでも思って……」
「……『黒神槍』……こいつらを食え……」
「……ココロ……エタ……」
その直後、彼らは一瞬で先ほどまで槍だった黒い何かに食われてしまった。
黒い何かは元の槍の姿に戻ると、彼女にこう言った。
「ゴチソウ……サマ……」
「勘違いするなよ『黒神槍』。あたしはお前の腹を満たすためにやったわけじゃないからな」
「ソウカ……ダガ、ナカナカ、ウマカッタゾ……」
「そうかよ……。それは良かったな」
彼女はそう言うと、部屋の隅にあった彼女の黒いローブを持ってきて、彼女に着せた。(体は自分の黒いスカートの中にあったハンカチで拭いた)
そして、その子を背中に乗せるとその空間を照らしていた光の玉を等間隔で廊下に置いていった。
*
「……う……うーん……ここは……」
「よう、気分はどうだ?」
「お姉さん……家に入っちゃダメだって、言ったでしょ?」
「おいおい、倒れてたお前をお前のベッドまで運んだのは、あたしだぞ? そんなこと言うなよ」
「ふふふ……そうだね。助けてくれてありがとう。お姉さ」
「杉元《すぎもと》 黒曜《こくよう》……」
「え?」
「あたしの……お前の……命の恩人の名前だ。だから、忘れるんじゃねえぞ?」
「……そっか。それがお姉さんの名前か……。なら、私もちゃんと言わないと……いけないよね……」
その子は少し間《ま》を置くと、こう言った。
「私の名前は……アリア……アリア・アタランテ」
「そうか……。それがお前の名前か」
「うん……そうだよ。けど、私はこの名前……嫌いだった。だって、舞台に立つなら、大勢の方がいいもの」
「まあ、そうだよな。けど、あたしは好きだぞ。その名前」
「え? どうして?」
「うーん、まあ、あれだ。一人で舞台に立ったら、たくさんの人に自分だけを見てもらえるから……かな?」
「そうか……。それもそうだね。私の名前のいいところを教えてくれて、ありがとう。黒曜……お姉ちゃん」
そう言いながら、目を閉じた彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。
杉元はアリアの目尻に溜まっている涙を拭うと、彼女が再び目を覚ますまで、その場に留まることにした。