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勇斗の言動に最近特にまじで振り回されてる気がする。俺の事可愛いって言ったり期待して近付いたら突き放されたり、なんで?
なんでなんてわかってる。
ファンサービス、そもそも俺の見た目が勇斗の好みの時とそうじゃない時がある、多分そんなところだろう。
期待する俺が悪いんだ。
ファンサービスの発言に振り回される俺がおかしいんだ。
ぐるぐると自分の中で考えて消化する日々。
辛かったり嬉しかったり。
本当に振り回されている。
そんなある日。
バタンッ
「……ッ」
キスされそうになった。
キスされそうになった……!
咄嗟にかわしたけど、ドキドキし過ぎて心臓が痛い…。
2時間ほど前……。
「仁ちゃん」
「んー」
「今日なんか可愛いね」
「…うるせえ」
「んーめっちゃ可愛い。タイプ」
「…もういいってそういうの」
「……」
もうすぐ本番。
ライブ衣装を着て椅子に腰掛け、膝の上に置いたスマホで動画を見てた。
完全に力抜いてリラックスしてたら勇斗が隣に来て、いつもの調子で軽口を叩かれイラッとして俯いたままでいたら……
不意に顔が、俺の俯いた顔をすくうように近付いた。
「……ッ!?」
「……」
ガタッと音を立てて逃げるように椅子から立ち上がった俺を、勇斗が真顔で見つめていた。
「…な、にすんだよ!」
「…最近元気ないみたいだからちゅーしてあげようと思って」
「……ハ?」
「ライブだし、テンション上げてこ」
「…意味わからん…て」
「今日ちゅーすっかんね。」
「…へ…」
そう宣言して勇斗は離れていった。
状況が理解できないままライブははじまり、パフォーマンスに集中した俺にまた勇斗がキスをしようとしてきて、本当に…心臓に悪かった。
「……おまえまじでやめろあーいうの」
「え?あ、ちゅー?」
「ちゅーって言うな。ほんっっとにしそうになったから!」
「…」
ライブ後、興奮のままに控え室から少し離れたシャワー室に勇斗を連れ込んで詰め寄った。
必死で訴える俺を勇斗はニコニコしながら見つめている。
「…」
「…そんな怒んないでよ、緊張感出たでしょ?」
「は?」
「歓声聞こえたし、ちゃんとカメラ抜かれたし俺いい仕事したわー」
「…ふざけんな。まじふざけんな!二度とすんな!!まじでキモいんだからな!」
「…」
アレも仕事のうち。そう言われてるようで、俺の気持ちを弄ばれているようでめちゃくちゃ腹が立った。
だから、強い言葉を使った。
俺の気持ちなんて勇斗が知るはずもないのに…。
「…ふう」
「…」
ずっとおれの顔をニコニコして見つめていた勇斗がふとため息をついた。
「…もういいよ。ごめん。俺がやり過ぎだった」
「…」
「もうしない」
「…え?」
しょぼくれた顔でそう言われてつい残念そうな声が出る。
して欲しい、して欲しくない、近付きたい、それ以上近付かないで……
色んな気持ちが交差する。
そんな俺の様子を見ながら勇斗が少し熱を含んだような声で言った。
「…ほんと可愛いね。…またしたくなる」
「…っ」
勇斗の目が、いつもと違う気がした。
「……」
「……な、なんだよ」
急に黙られて居心地が悪い。
取り繕うように俺は言葉を漏らした。
「…なんかもう、仁人が考えてることわかってきた」
「は…」
「顔に出すぎ」
「な…なにが?出てないし…」
「…俺期待しちゃうよ」
「……ッ」
ゆっくりと近付けれて、壁に追いやられる。
勇斗の、真剣で甘い目が近付いてくる。
自然に後ずさるが、トンと背中が行き止まり期待と絶望が混ざり合う。
「…」
「あ…」
そのまま顔の真横に手をつかれ、また顔が近付く…。
あ…やばい…これは…嘘…
「……ン」
ぎゅっと咄嗟に目を瞑った。
直後唇に触れるもの。
勇斗の唇……
「……ンゥ」
「……」
角度を変えられて声が漏れる。
え……今俺、勇斗と…キスしてる……
「……ぁ」
頬を指先でなぞられて変な声が出た。
やばい……逃げられない…
「…ヤ…んっ」
薄目を開けた瞬間また口付けられる。
気づいたら舌を入れられていて、力が抜けていく。
ほんの少し見えた勇斗の顔が近くて、妙にエロくて、キスだけで達してしまいそうだった。
「ぁ…ッ…ヤッ、」
「……」
堪えきれない喘ぎのようなものが漏れて恥ずかしくて動けない。
身体は固まってるのに唇だけは柔らかくて温かくて…
ふと勇斗の唇が離れた。
………
「…ハ…ァ…」
「……」
「……」
ゆっくりと目を開けると、じっと俺の顔を見つめる勇斗が居た。
脳が溶かされるような口付けの余韻が残ってなにも言えない。
「…抵抗しないんだね」
「……ッ!」
少し微笑んでそう言われボッと顔が熱くなる。
無理、やっぱ無理、めっちゃ恥ずかしい…!
「…ッ」
「待って」
逃げるように勇斗の横を通り過ぎようとしたが咄嗟に抱きすくめられて動けない。
「…きもちわるかった?」
「……」
「…やっぱ…キモい?」
「……」
静かにそう聞かれなにも答えられない。
なんて答える?
気持ち悪いわけない。
…むしろ嬉しかった。
でもそんなこと言えない。
勇斗とキスできて嬉しいなんて、言えない。
というか今のはなんのキス…?
なんで、キスしたの?
考えてる間も勇斗が俺を抱き締めていた。
俺を抱きすくめる腕が嬉しい。
なんならこのまま離れたくない。
でも、期待して、本当にいいの?
「…は、はやとは…なんで」
「…ん?」
「…なんで、キス…したの…?」
絞り出すようにそう聞いた。
知らぬ間にぎゅっと、回された腕を掴んでいた。
聞くのが怖い。でももしかして…という希望に縋りたい。
これで冗談なんて言われたら、死んでしまいそうだ。
「……それは」
「…茶化さないで、答えて…」
「……」
「……」
沈黙が怖い。
声が震える。
「…仁人が、好きだからした」
「……」
「可愛いから、好きだからした」
「……」
聞いた事のあるいつものセリフ。
でも、こんな風に好きって言われたのは、初めてだった…。
「すき、って…どういう…」
「仁ちゃん、俺にばっか聞いてズルいよ」
「え…」
「まず俺の質問に答えて?」
「……」
それはその通りで。
怖かった俺は勇斗の気持ちが知りたくて、なにも答えていなかったことに気付く。
「……キモく、ない」
「……」
「きもちわるい訳…ないっ」
「…」
ぎゅっと顔を埋めた。
勇斗の匂いがする。
いつも誘われるように嗅いでいた勇斗の香り。
花の匂いに誘われてやって来るミツバチみたいに、吸い寄せられそうな強烈ないい香りに…脳が痺れそう…。
「俺…ずっと…好きだった」
「…」
「苦しかった…」
「…」
「だから……キスされて…嬉しぃ…」
最後は消え入りそうにそう言った。
恥ずかしくて、このまま消えてなくなってしまいたい。
勇斗の好きと俺の好きが、一緒だよって、誰か言って欲しかった。
「…」
スっと肩を掴んで身体を離される。
くっついて温かかった身体が冷たい空気に晒される。
心許なくて、泣きそうになった。
「…」
「…それほんと?」
「……ッ、ほんとだよ」
「…」
なんか言ってくれ…
これまでにない程勇気を出したのに、勇斗は黙ったまま。
また茶化される?本気にしたことを笑われる?
それとも…
「嬉しい」
「……へ」
「めっちゃ、嬉しい」
「…ァ…うそ」
「嘘じゃない。俺仁人が好きだ」
「ま、じ…?」
「…まじ」
真剣な目でそう言われる。
夢じゃないよね?
勇斗の笑っているけど真剣な顔に、ぶわっと高揚感が押し寄せる。
嘘じゃない、夢じゃない、これってもしかして、両思い?
「い、いつから?」
「…わっかんねー。気付いたら?」
「まじ……」
「仁人は?いつから俺のこと好きだったの?」
「え…わかんない」
「なんだ。じゃあ俺らずっと両思いだったんじゃん」
「そ、そうなの?」
「もっかいしていい?」
「えっ」
「…キスしたい」
「あ…い、いいよ」
もうされるがまま、なすがまま。
勇斗のペースに巻き込まれて、嬉しさを実感する暇もない。
軽い放心状態の俺の唇が今度はいきなり深いキスで塞がれた。
「ん、…ッ」
「…」
静かなシャワー室に口付けの音が響く。
また俺は勇斗のキスにぜんぶ持っていかれて、考える力がなくなっていく。
あー…きもちー、かも…
「ハ…やば」
「ンゥ…」
「いや…仁ちゃん、その顔やばい、反則」
「な、にが」
「なんかめっちゃえっちな顔してる」
「…ッ」
「あのさ…うちくる?」
「え…」
「一緒にかえろ?」
「…うん」
「おっしゃ!じゃあ戻ろっ」
他に考える余地がなくなった俺を勇斗は嬉しそうに自分のペースに持っていく。
断る理由なんてなかった。
まだ現実感のないふわふわしたままの俺の手を引き控え室に戻った。
その後はなんかもう少しも抵抗なんて出来なくて、多分する気もなくて…車に乗ったあともずっと手を握られていて。
ほんとかな、なんて考える必要もないくらい勇斗の嬉しそうな姿があって…。
こんな勇斗は初めてだった。
近付いたり離れたり、俺を不安にさせたり喜ばせたり、、俺が一人で考えを巡らせていただけだったんだと、その時初めてわかった。
そして勇斗もきっとそうだったんだと…思った。
―――