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ーー乗り込んでから凡そ三十分余り。エレベーターはようやく、目的の地に止まった。
「到着です」
扉が開き、霸屡に先導されて外部へと。
「おいおいマジかよ……」
「これ全部、大理石ですか?」
其処は想像した地下とは似ても似つかぬ、さながら宮殿内。眼前にはまるで、王の間に続くような一本道が展開していた。
「此所が狂座発祥の地である『エルドアーク地下宮殿』内、王の間へと続く通路です」
何故地下にこのような施設が――と思う間も無く、霸屡が奥へ向けて歩み出した。皆もそれに無言で続く。
言いたい事、聞きたい事は山程有ったが、誰もが感じていたのだ。
この先から感じられる、何かとてつもない存在の気配を。
「創主には既に此所に来る事は連絡済みです。あの御方は貴方達の来訪を心待ちにしています。ですので――」
先頭を歩きながら、振り返らず霸屡が警告する。
「くれぐれも粗相の無いよう……」
それは皆に向けてだが、特に時雨に向けてのもの。
「何で俺を見る……」
向けられた視線に時雨は不満を漏らすが、確かに一番心配だ。
「全くよ、大体怪しいんだよ。何だよ此所? 何で地下に宮殿なんだか……。なぁ、そうだろ?」
「…………」
時雨は意見を振るが誰も応えない。応えられない。
「はは……」
進むにつれ、重厚な圧迫感が大きくなっていくからだ。それは能天気な時雨も分かっている。
そして突き当たりに聳える、大きく豪華な扉。どうやらこの先に――居る。
「霸屡です。到着しました」
霸屡はサーモの方で通信連絡し、立ち入りの許可を伺っている。
「――はい、了解しました。……では行きましょう」
霸屡が振り返ると、眼前の扉は押してもいないのに、自動的にゆっくりと開いていった。
「…………くっ」
思わず固唾を呑みながら、皆がその先へと足を踏み入れていくと、其処に待ち受けていたのは――
“エルドアーク地下宮殿――王の間”
其処は広く、まるで大聖堂の様相を呈していた。
此所が地下で在る事が場違いであるかのような、奥に向かって敷き詰められた一本の黄金装飾の絨毯。それは正に、王の下へと続く道標であるかのように輝いている。
そして奥の玉座に居座る何者かの姿。
ゆっくりと――霸屡を先頭に、目下まで歩み寄っていく。
「SS級三名、S級一名、統括一名、以下お連れしました」
その者に伝えた霸屡は片膝を着き、深々と会釈する。それに釣られた訳でもあるまいが、皆も反射的に膝まづいた。
そうせざるを得なかったのだ。玉座に居座る者から感じられる、その圧倒的な威圧感に。あの時雨でさえ。
「くっ!」
“ヤバいヤバいヤバいっ――”
誰もが感じたもの。それは心臓を鷲掴みにされたような――恐怖。
“まさか、これ程の者が……”
“本当に人なのか? これが――”
“エンペラーの野郎と同じ。いや、それ以上か!?”
“こっ――怖い!”
まるで直視する事すら憚れるような思考の中、只一人――霸屡が顔を上げ、その者の名を呼ぶ。
「創主――ノクティス様」
そう『ノクティス』と呼ばれた者。その身に纏う金銀装飾に彩られた中世衣装は、皇帝の如き威厳を醸し出し、驚く程に白い肌の色に溶け混む様な、長く輝かしいまでに煌めく金色の髪が艶やかだった。
金と銀の二つに別れた両の瞳。その見ているだけで瞳の奥に吸い込まれそうな、美しいまでに神々しいヘテロクロミア(金銀妖眼)を以て、眼下を見据えている。
“男性なのか女性なのか?”
その存在感は“性別”といった次元で括れるものでは無い。
それはまるで、性別の無い至高の存在。
“天使”
アンドロギュノス(両性具有体)とも表現すべき姿であった。
玉座に頬杖を突いたまま、ノクティスがゆっくりと口を開く。
「御苦労だったねハル。そして――初めまして。私が狂座の創主、ノクティスだ。君達に逢えて嬉しいよ」
そう眼下を見渡しながら、中性的で穏やかな声色で。
「早速ですがノクティス様。如何なさいましょうか? ユキの――エンペラーが率いる『ネオ・ジェネシス』を」
言いたい事、聞きたい事は山程有った筈だ。
「此処で全てを見ていたよ。ユキ……彼とは何時か、こうなる日が来るとは思っていたけど」
だが何故か口を挟めない。ノクティスの持つその存在感に、誰もが金縛りにあったと云えた。
「やはり闘いは避けられないと?」
霸屡とノクティスの二人は、そんな彼等を置いて話を進めていく。
「残念ながらそうなる。ユキの気が変わらない限りね……」
“こいつら……”
二人を尻目に時雨は思う。話の大筋は分かるが、やはり全く真意が掴めない事に。
“一体何なんだ?”
霸屡とノクティス。そしてエンペラーとの関係性。
そもそも何故、自分達は此処に呼ばれたのか。肝心な事はまだ、何一つ聞いていない。
まるで二人だけの世界とも思える隔離された空間の中、不意に警告音が鳴り響いた。
“何の音だ!?”
これはサーモから発せられる警告音に近いが、御互いを見回しても誰からでもない。
「来たか……。早いね」
予め予測していたかのようなノクティスの口振り。
「深度二万下で通信連絡を寄越せる者は、彼以外有り得ないという事ですね」
そして同様、霸屡の台詞から先程の警告音は、何者かが此処に通信してきたという事。
「繋いでくれ」
「はい」
まだ事態が呑み込めない彼等を余所に、霸屡が自分のサーモより何かを操作すると――現れた。
全員がそちらに注目。玉座より右側の壁面に、巨大な液晶画面が。
「エンペラー!」
“雪夜……”
思わず声を上げたのも致し方無い。液晶画面に映っていたのは――通信してきたのは、かのエンペラーだったのだから。
『あーあー。ちゃんと繋がっているかい?』
エンペラーが液晶越しから確認を促す。
「ちゃんと見えてるし、聴こえてるよ……ユキ」
そして玉座に腰掛けたまま返すノクティス。
狂座の創始者同士。その会合に緊張が走る。
『やあ、久しぶりノクティス。相変わらずというか、まだこんな穴蔵に引き込もっているのかい?』
そしてエンペラーを皮切りに、二人だけの――何者も寄せ付けない会合が始まった。