テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「私が裏に撤しているのは、君が一番良く知っている事だろう?」
『あくまで傍観者気取りかい? 変わらないな……』
「それよりユキ。君は何故、今になって動き出した? 君は私にとって最大の理解者でも在り、そして唯一の……」
『言葉を返すが、それは君が一番良く知っているだろう? 最初から私の目的は一つだ。君は肝心な事は何一つ、彼等に話していないのかい?』
「変わらないねユキ……君は」
『それはノクティス、君もね』
「フフフ……」
彼等は一体何の話をしているのだろうか。
掴めなかった。口出し出来なかった。彼等という存在そのものに。
「君が敢えて連絡してきたという、その理由は分かっている――」
彼等の間には確かな絆を感じられたのもまた確か。だが当然、何時までも世間話に興じる為にこの場は無い。
「宣戦布告に来たのだろう?」
ノクティスはそれとなく、本当の目的をエンペラーへと促していた。
エンペラーの目的はそれ以外有り得ない。だが思わず場に緊張が走る。
やはりこの闘いは避けられないであろう事実を、再度痛感した為だ。
『流石ノクティス。話が早いね』
エンペラーはそれをあっさりと肯定。
狂座とネオ・ジェネシスの全面戦争。大方予想通りとはいえ、何故エンペラーはわざわざ伝えに来たのか。
先刻のエリミネーターとの直接対決。否、それ以前にこうなる事は御互い理解している筈。
「だがユキ。私達が闘う――これが如何に“無意味”である事は、君が一番良く分かっている筈だが?」
ノクティスの返答。それはかつての同士で闘いたくない――という意味合いとは違い、闘う事自体が無意味と言った。
“どういう事だ?”
これには皆も怪訝に思った。この二人が闘う事は、勝敗が着かない程に実力が拮抗しているという意味だろうか。
――違う。もっと深い意味が有る。
狂座を創ったエンペラーとノクティス。この二人の人物には、何か重要な意味が隠されていると。
『確かにね……。だからこそ、この闘いは無意味に等しいのだよ最初から』
エンペラーも同調。それは闘いたくないではなく、闘う意味が無いという意思表示。
では何しに来たのか?
『だが、この無意味な闘いを避ける最善の方法が、一つだけ有る』
それはかつてエンペラーが幸人達に促した、狂座をネオ・ジェネシス側への引き込みにあるのか。
「だがそれは――」
ノクティスもそれは承知している。目線を目下の幸人達に配るが、当然彼等がそれを呑む筈が無い事も知っている。
『物分かりの悪い彼等の事を言っているのではないよ。そう、もっと重要な……ノクティス、君にとっても悪い提案ではないと思う』
今回のエンペラーの本当の目的は、かつての同士を己の側へ引き込む事でも、ましてや御互いの戦闘による決着が望みでもない。
「ユキ……やはり君は」
他の者にはその真意が皆目見当付かなかったが、ノクティスだけはエンペラーの真意が分かった。最初から分かっているというのが正しいか。
『そう。S級エリミネーター、コードネーム『悠莉』。この子を私の下に引き渡して貰いたい』
予想だにしなかった、誰もが耳を疑うような提案を、エンペラーはノクティスへと促していた。
「……えっ? ボ、ボク?」
自分の事を言われたのだと思わなかったのだろう。悠莉が目を丸くさせながら、きょろきょろと辺りを伺っている。それと同時に琉月が彼女を庇うよう、反射的にエンペラーから悠莉が見えぬよう前に立った。
“何を考えている?”
彼は一体何を企んでいるのか。言葉のあやでもなく、確かにエンペラーは悠莉である事をそう言った。
それにしても――だ。確かに悠莉は次期SS級候補であり、将来性は類を見ない。それでも現時点での戦力としてはどうか?
『あの子にはネオ・ジェネシスに於ける、コード『ワールド』として担ぎ上げたいと思う』
だがエンペラーは悠莉を単なる引き込みや、戦力として置く肚ではなく、最大の敬意を以て迎え入れる事を提案していた。
「――なっ!?」
“ワールド……だと?”
この提案の、言葉の持つ意味には誰もが驚愕。
“大アルカナ『World(世界)』”
この『世界』は一連の大アルカナの最後に位置することから最も重要視し、宇宙そのものを意味している。
つまりエンペラーは年端もいかない少女でもある悠莉を、自らの上に置くつもりなのだ。
エンペラーの真意が全く読めないのも当然。だがノクティスにはその肚が分かっている模様。
そう。これは何か重大な、二人の間には重要な事実が悠莉を基に隠されている。
『ノクティス……君にとっても、これには何の不備もあるまい? これで私達が無意味に争う事無く、全てが万事解決となる。返答や如何に?』
エンペラーはこれが最善であると、再度ノクティスへ返答を促した。
「それは――」
「ふざけんなよテメェ?」
ノクティスが返答するのを遮るよう、幸人が口を挟んだ。その口調には怒気が孕んでいる。
「亜美に続き、今度は悠莉まで玩具にしようってか? ざけんな! 誰がテメェに渡すか。何時までもくだらねぇ事言ってんじゃねぇぞ!」
幸人は画面越しのエンペラーへ飛び掛からん勢いだ。
これまで黙していたが、やはりエンペラーの登場に気が気ではなく、更に悠莉まで我が物にしようという意向が、彼の逆鱗に触れたのだ。
『君の意見など訊いていないよ幸人』
「あぁ!? 殺すっ――テメェは此処で」
エンペラーはそんな幸人を嘲笑うかのように、更に火に油を注ぐ。
「落ち着けや馬鹿。まあ同感だがな」
「そういう事だ」
幸人を止めに入った訳でもあるまいが、時雨と薊も気持ちは同じ。
このまま見過ごすという選択肢は、最初から彼等には無い。例え上がどんな判断を下そうともだ。
「……悠莉は私の大切な妹。今の貴方には、とても任せられませんね」
当然、特に悠莉に目を掛ける琉月もだ。そう彼女を放さまいと、しっかりと抱き寄せる。
「ルヅキ、みんな……」
悠莉は皆の厚意に、思わず涙が溢れそうになった。
正直エンペラーより提案を持ち掛けられた時、自分一人が犠牲になって争いが回避出来るなら、それも仕方無いと思っていた。
自分の事は――自分に何が隠されているのかは、自分にも分からない。
ただ狂座とネオ・ジェネシス。この二つの頂点に在る者にとって、自分の存在は何か重要な鍵である事は何となく理解出来た。
それでも皆は関係無く、守ろうとしている。
「心配いらないって。お嬢はお嬢だ」
二人に挟まれたジュウベエがひょっこりと、そう顔を出して。
「うん!」
ならばもうぶれる必要も無い。居場所は此処に在る。