それにしても一体誰が…?俺たちに関わる人間は、スタッフや事務所関係者を含めたら数えきれない。
あの日、あのスタジオにいた人間だけでも相当な数に上る。その中の一人一人に聞いて回るわけにもいかないし、俺がSnow ManのBL小説を好んで愛読しているなんてこと誰にも知られたくなかった。
以前、メンバーの間で、康二が携帯をみんなに見せながら騒いでいたのを思い出す。
🧡「俺たち、裏でこんなん書かれとるんやで」
💜「やばっ。引くわ…」
画面をみた深澤がまず拒否感を出して、次々にみんなドン引きの反応をしていた。
俺はオタク界隈の人間だから耐性があるけど、普通の感覚の持ち主ならそうなるのが普通だろう。
俺はその時、いつも温和な阿部ちゃんの笑顔が凍りついた瞬間を見て、この話題は二度と口にするまいと強く心に誓ったのだった。
でも、俺は「森の熊さん」のいちファンとして、近くにもしその人がいるのなら会ってみたかったし、話してみたいと思った。
その日からそれスノの収録が密かな楽しみの一つになり、日々の「森の熊さん」とのコメント交換も気軽に楽しめるようになった。相手が身内なら何も気にすることはないからだ。
🩷『今日の作品も最高でした!いつもどんな時に作品を思い付かれるんですか?』
🐻『ありがとうございます。主に仕事の移動中に書いています』
🩷『今回も面白かったです。目黒くんは、渡辺くんのことが本当に好きなんですね』
🐻『いつもありがとうございます。あの2人は安定して仲が良いですね。書いていて楽しいです』
🩷『お疲れ様です!あべさく、待ってました!これからの展開が本当に楽しみです』
🐻『佐久間くんが、阿部くんの気持ちを素直に受け入れられるといいですね♡』
……とまあ、こんな感じ。
今は俺と阿部ちゃんの2次小説が佳境を迎えていて、俺は続きを心待ちにしていた。
それスノのスタッフの誰かが、俺と阿部ちゃんの恋を妄想しているのだと思うと、なんだか仲間ができた気がして心強い。
小説の中の阿部ちゃんは、架空の佐久間に対してめちゃくちゃ積極的で、前回は壁ドンして告白していた。現実では起きていない出来事だけど、読んでてにやにやが止まらなかった。
💚「佐久間、おはよう」
今日も阿部ちゃんはかっこ可愛くて、俺は見惚れて挨拶が一瞬遅れた。
やばい。現実と小説の区別がつかなくなってきている。阿部ちゃんはいつもの爽やかさで、メイクに入る。
俺は、阿部ちゃんのすぐ近くで、今朝時間がなくて読めなかった「森の熊さん」の新作を読み始めた。
今朝の小説は「めめラウ」
結構節操がなくて、色んなカップリングを書き、しかもどれも面白いのだから堪らない。
俺は、本物のめめとラウールを盗み見ながら読み終え、いつものようにコメントを書いた。
「阿部くん、ちょっといい?」
プロデューサーが楽屋に入って来て、阿部ちゃんが呼ばれて出て行った。
それを目の端で見ながら、コメントを送信する。
♪〜
阿部ちゃんの携帯が鳴った。
なんとなく目をやると、俺が送ったメッセージが一瞬表示されたのが見えた。
🩷「えっ!!!!!」
ガタッ。
急に立ち上がったので、みんなに注目される。
しかし、そんなことには構っていられなかった。俺は阿部ちゃんの携帯を手に取って、中を見た。
そこには、俺が何度も繰り返し読んだ小説のタイトルがずらっと並んでいる。
ユーザー名は森の熊さん。
🩷「編集画面じゃん。これって…」
💚「佐久間。携帯返して」
🩷「うわっ!!!!!」
阿部ちゃんは、特に怒るでもなく、慌てるでもなく、俺の手から携帯を取り返した。
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わお🫣