テラーノベル
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みんなで遊園地に行った日、蓮くんからキスされそうになって、拒否して。
そのあと、家で元貴とキスして。
そもそも数ヶ月前には、ひろぱともキスしてて。
「ていうかこれって、僕大丈夫なの?大丈夫じゃないよね?」
「なにが?」
今日は、遊園地から二週間ぶりに亮平くんとご飯に来ている。個室の和食料理のお店で、夜ご飯。
僕は、話の繋がりもなく、自分の頭の中で考えていた事をそのまま亮平くんに語りかけてしまい、困った笑顔を向けられた。
あのキスから、またもや何も言ってこない元貴も、自分もキスしたクセに何も言わないひろぱも、至って普通に僕に接してくる。
まあ、だって、そもそも『練習』って言われてキスされた訳だから、そのあと何も言いようがないよね?
最近は、僕の方がドギマギして、そんな様子を二人はどこか嬉しそうに見てたりするのだ。
「いや、同居人の幼馴染二人と、…キス…しちゃって、大人としてどうなの?って。」
「倫理観の話?それ僕に訊く?」
亮平くんが、クスッと笑う。
蓮くんと付き合ってる亮平くんは、お互いに自由恋愛を掲げているらしい…けど、なんだか二人の胸中はそれぞれに複雑そうだ。
「あと、蓮の宿題は、そういうことじゃなかったと思うけど。答えは出たの?」
「蓮くんと、二人の違いでしょ?」
「…涼架くんのことだから、身長、とか言いそう。」
見抜かれてる。僕が口を噤んでジッと見つめると、やっぱり、と笑われた。
「でも、ちゃんと考えてるんだね。えらいえらい。」
「ねえ、答え教えてよ。宿題、難しい。」
「宿題は、『考えること』自体だよ、涼架くん。答えはないからね。」
「…哲学?」
はは、と笑って、亮平くんは嬉しそうにお酒を飲む。
「…ねえ、あの二人と、どうやって仲良くなったの?初めて会った日、なんか三人で喋ってたよね?」
「んー…ごめん、これはまだ、ちょっと言えないなぁ。」
「えー、亮平くんまでー。」
「あはは、まあいずれね、たぶん話せる時がくるから。」
「そうなの?」
「たぶんね。」
僕は、意味あり気に微笑む亮平くんを、納得のいかない表情で見つめて、コップに残るお酒をあおった。
「はぁ…。」
休日の朝、元貴がソファーに溶け込んでしまいそうなほどダラリと座っていた。僕は、自分と元貴の分のコーヒーを入れて、ダイニングテーブルに着く。
「なんか、最近疲れてるね、元貴。」
「まあね…。」
「なんかあった?」
「…んー…。この前さぁ、来年のゼミを決めたんだけど。」
「わぁ、もうそんな時期かあ。」
「俺はね、もちろんニノ先生のいるゼミにしたんだけど。」
「すごいね、ほんと仲良しなんだ。」
「うん。」
柔らかくこちらに笑いかけると、ソファーから立ち上がり、僕の対面に座った。
「コーヒーありがと。」
「うん。…それで?」
「…ゼミはいいんだけど、ちょっと、一個上に、ややこしい人がいてさ…苦手なんだよな〜あの感じ…。」
「あー、苦手な先輩がいるんだ、それは辛いねぇ。え、どんな人なの?」
「えー、チャラい。」
「はは、元貴苦手そ〜。」
「すんごいんだよ、もう、男も女も関係なしに手ぇ出しまくってるらしい。」
「それは…またすごい人だね。」
「あ゛〜…ほんとヤダ。あいつさえいなけりゃ最高のゼミなのに〜…。」
「まあまあ…。三月まで我慢すれば、卒業するじゃん。あと…四ヶ月の我慢だね、頑張れ。」
「はぁ…長…。」
また溜め息をつきながら、コーヒーを啜る。
寝室から、目を擦って欠伸をしながらひろぱが起きてきた。僕は席を立って、ひろぱの分のコーヒーも用意するべく、キッチンへと向かった。元貴は、頬杖をついてまだ浮かない顔をしている。
僕はキッチンから、元貴を心配そうに見つめるも、学校のことでは僕に出来ることは何もないので、とりあえず今日は元貴の好きなご飯を作ってあげよう、と考えていた。
十一月も終わる頃、元貴の大学で学祭が行われるらしい。元貴は、ゼミのみんなと模擬店をやることになったそうで、僕とひろぱと、亮平くんと蓮くんが一緒に遊びに行くことになった。
「久しぶり、涼架さん。」
「蓮くん久しぶり。…あれ、涼架さん?」
蓮くんが、ニコッと笑った。
「『涼ちゃん』は、あの日限定ね。」
「そうなの?」
僕に顔を近づけて、耳打ちをする。
「…じゃないと、若井くんたちに噛み付かれるから。」
「はーいストップ。」
すぐさまひろぱが蓮くんの肩を掴んで、亮平くんの方へ押し戻す。亮平くんと蓮くんはクスクスと笑い合っている。
「なに?」
「なんでもない。はい行くぞ。」
ひろぱが僕の手を握って、引っ張って歩く。チラ、と後ろを見ると、亮平くんと蓮くんも、手を繋いで仲良さそうに色々指差して笑いながら話している。
二人の仲睦まじい様子を見られて、僕はつい目尻が下がった。
「…ね、ひろぱ、あの二人、やっぱお似合いだね。」
ひろぱにこっそりそう言うと、ひろぱは僕の手をギュッと握って、自分の方へ引き寄せた。
「俺らの方が、お似合いでしょ。」
「………ん?」
校舎の窓ガラスに映る僕たちの姿を見て、確かに身長がちょうど一緒だな、と僕は思った。
「ほんとだね、僕ら身長ぴったり一緒だ。なんか、モデルさんみたいじゃない?」
僕は、また色落ちをして、淡いライトブルーになった長い髪を少し触って、笑って見せた。ちょっと良いように言いすぎたかな?調子に乗るな、とかツッコまれるかな。
ひろぱが僕をじっと見つめて、微笑んだ。
「うん、かわいい。」
「…ちょっと、それは逆に照れるんですけど。」
「照れさせてんのー。」
「なにそれ?」
よく分からないけど、楽しそうなひろぱを見てたら、なんだか僕も嬉しくなって、二人であーだこーだ言いながら、学祭の雰囲気を楽しんでいた。
模擬店が並ぶ道を歩いて行くと、一際行列が出来ている場所があった。
テントの上部に貼られた画用紙の文字を遠くから眺める。
『心理学研究ゼミ』
『箱庭クレープ』
「あ、あれじゃん、元貴のお店。」
「すっごい人集り。」
「しかも、女の子ばかりじゃない?蓮、見える?」
「うーん…あ、多分いた。…でもこれは無理だな…。」
一番背の高い蓮くんが背伸びをして、前方を窺う。どうやら元貴の姿は見えたらしいが、なにせ人が多すぎて、進むこともままならない。
「はい箱庭クレープ、最後尾こっちでーす。」
手を上げて少し気怠そうに行列を整備している、ゼミ生らしき男の人がいた。僕らはとりあえずそこに並ぶことにする。僕たちの後ろにも、どんどん人が集まっていく。
「すごいね、どこのお店よりも人気みたい。」
僕が少し興奮しながらひろぱに言う。
「これ、俺たちが辿り着くまでに完売じゃね?」
「ねー、お店大変そう…。」
並びながら話していると、遠くからきゃーという歓声が聞こえた。
「ニノセンセ〜!来たんだ〜。」
「先生もクレープ作るの〜?」
女の子たちの、楽しそうな声が雑踏の中から聞こえてくる。
「あ、ニノ先生って、元貴が仲良くしてもらってる先生だよ。どんな人なんだろ〜、あーここからじゃ見えないなぁ。」
僕が背伸びをしてどこかにいるらしいニノ先生を探していると、目の前に行列整備をしていた男の人の顔が現れた。
「わ…!」
「…元貴?…って、大森元貴?」
「え?」
その男の人は、僕に話しかけてきた。
「おたくら、大森元貴の関係者?」
「はい、そうですけど…。」
そう答えた僕と、僕ら全員の顔を見回す。
「…なんか、顔面偏差値おかしくね?」
「…なんですかあなた。」
ひろぱが僕の前に出て、その男の人と相対する。
「なんですかって、ゼミ生に決まってるよね、ここで仕事してんだから。」
その人は、明るい髪色に、緩くパーマをかけて後ろに軽く流し、茶色の柄物シャツに黒いパンツを合わせて、その上に模擬店の制服なのだろう白衣を身に付けていた。
その白衣に付いた名札を指で摘んで、僕たちに見せるように持ち上げる。
「菊池…かぜ…」
「ふうま。」
僕が名前を読み上げようと試みたが、読み間違えたようで、菊池さんは自ら名乗った。
「あ、ごめんなさい。元貴のお友達ですか?」
「はい、オトモダチですぅ。」
「いつもお世話になってます、元貴の同居人の、藤澤涼架です。」
「はいよろしく〜。」
菊池さんが握手を求めてきたので、あ、と応えようとすると、横からひろぱの手が伸びてきて、握手した。
「同じく同居人の若井滉斗です。」
「顔怖ぁ。」
「は?」
ひろぱがイラついたように聞き返す。ちょっと、と僕は嗜めて、すみません、と頭を軽く下げた。
「こっちは、元貴の友人です。」
「どうも、阿部亮平です。」
「目黒蓮です。」
「ここはなに?アイドルグループかなんか?」
「え?いえ、違いますけど…。」
菊池さんが、じっと僕を見つめた後、僕らみんなに問いかけた。
「…この中で、大森元貴にお弁当作ってる人!」
「はい!」
僕が手を上げて答える。菊池さんが、ニヤリと笑って僕を見つめる。
「やっぱアンタかぁ。」
「え?」
「ねえ、ちょっと大森元貴んとこ連れてってあげようか。」
「え、良いんですか?ありがとうございます!よかったね。」
僕がみんなの方を向くと、菊池さんが僕の手を握った。
「いやいや、涼架ちゃんだけ。」
「…え?」
「ちょっと、近い…。」
ひろぱが間に入ろうとするが、行列が詰まってきて、思うように移動できない。ひろぱ達からは見えない低いところで手を繋がれ、強い力で握られる。
「ニノセンセー!!キチクがまたサボってますー!!」
後ろの方から、菊池さんと同じ行列整備をしているゼミ生さんが、大きな声で前方に向かって手を振った。
「やべ…っ!行こ、涼架ちゃん!!」
「え、ちょ…!!」
僕と同じくらいの身長の彼に不意に凄い力で引っ張られて、転ばないように必死に足を前に進めてしまい、人混みにあっという間に飲まれてしまった。
「涼ちゃん!?」
後方からひろぱの焦る声が聞こえたが、その姿はもう見えない。
「ちょ、菊池さん?!」
「いーからこっちこっち!大森元貴に会うんでしょ!」
「あ…。」
そのままグイグイと無理矢理に人ごみを掻き分け、なんとか模擬店通りの先まで抜け出した。
「…あれ?元貴は? 」
「大森元貴は休憩に入ったから、校舎にいるの。案内したげる。」
「あ、そうなんですね、じゃあみんなも…。」
「ごめん、学生一人につき、外部の子一人しか校舎に入れないんだわ。」
「あ、そうなんですね、結構厳しいんだ。」
「そーそー。だからとりあえず涼架ちゃんだけね。」
「はい。お願いします。」
そのまま、菊池さんはまた結構な速さで僕の手を引いて歩いて行く。
僕のポケットで、スマホが震える。取り出して見ると、ひろぱから着信だった。
「あ、ひろぱだ。」
「ん、貸して。」
パシッとスマホを取られて、菊池さんのポケットに仕舞われた。
「え?」
「研究データもあるからね。外部者のスマホは預かることになってんの。」
「えー、すごい、やっぱり大学って徹底してるんですねぇ。」
「そーでしょ。」
そのまま校舎内に入り、階段を上がって、『心理学ゼミ』と札に書かれた小さな部屋に通された。部屋は十畳ほどの大きさで、壁には低めの棚やロッカーなどが置かれている。部屋の真ん中には長机が四つ寄せ合って置かれていて、パイプ椅子も所狭しと並べられていた。
「わー、ここが、元貴のゼミなんですね。」
「うん、そう。」
カチャリ、と音がして、菊池さんが僕の方へと歩み寄ってくる。
「…あれ?でも、元貴は?」
「元貴って誰?」
「え?」
「アンタ、チョロいねぇ。」
僕の左手首をガシッと掴んで、肩の前に捻り上げる。凄い力だ。
「いた…っ。」
「…アンタ、大森元貴の何?」
「…あなた、ホントに元貴のお友達ですか?」
僕が、手首の痛みに耐えて、菊池さんを睨みつける。
「んーん、違うよ。俺はね?仲良くなりたいと思ってるのに、めーーーっちゃ嫌われてんだよね、なんでか知らないけど。」
僕は、改めて菊池さんの名札を見る。そこには、『2年 菊池風磨』と書かれていた。元貴の一個上…ということは。
「元貴が言ってた、手当たり次第のチャラい人だ…。」
「えー、ひっどぉ。そんなこと言ってんのアイツ。」
「…離してください。」
「やだ。答えてないじゃん。大森元貴の何?」
「幼馴染です。」
「…うわぁ〜、アイツそんなピュアなんだぁ〜。えー、おもろ。」
「何がですか?」
「アイツさぁ、ニノ先生といっつも仲良くご飯食べてんだけど、毎日手作り弁当なんだよね。それ、彼女?って聞いても無視でさ。おかずもーらいってやろうとしたらマジで手ぇ叩かれて。ここ、痛かったぁ。」
僕の手首を握っている方の甲を指さして、わざとらしく悲しげな表情で言った。
「んで、あの可愛い顔で睨みつけてきてさ、『お前が触っていいもんじゃない』とか言われて。すげー牙向くじゃん、そんな大事なヤツに作ってもらってんだ、って、逆に興味湧いちゃって。」
もう片方の手首も掴まれ、身体の前に両方固定される。
「そしたら、こーんな可愛い幼馴染だって、もうめっちゃオモロイじゃん。」
「面白くないです。離してください。」
僕は、真っ直ぐ目を見て、静かに伝える。菊池さんはニヤリと笑って驚きの言葉を吐いた。
「いいよ、俺と付き合ってくれたらね。」
「…はい?」
「大森元貴の大事なヤツ、どんなんかなって見てやろーと思ってたけどさ、こんな可愛いと思わなかったから。一目惚れしちゃった。だから付き合って?」
「お断りします。」
「お断れるかな?」
「え?」
「俺、大森元貴と同じゼミの先輩よ?アイツが明日からどーなってもいいの?」
「…どーなるっていうんですか。」
「さあて、どうしようかね。アンタが相手してくんないなら、アイツに手ぇ出しちゃうかもね。もしくは、虐め抜いちゃうかも。」
僕は、家で、この人に悩み苦しむ元貴の姿を思い出してしまった。あと四ヶ月、元貴はこの人とここで過ごさなきゃいけない。それを、僕が、更に元貴を追い詰めてしまったら…。
「…それは、やめてください。」
「じゃー、涼架ちゃんが俺に付き合うしかないよね?俺、優しいよ?マメだよ?」
とりあえず、この場だけでも、穏便に済ませないと…。僕は、そう決心して、菊池さんをキッと見据える。
「…分かりました、お付き合いすれば、元貴には何もしませんよね。」
「もっちろーん、約束も守る男ですよ。」
「はぁ…分かりました、お付き合いします。でも、こんなので」
こんなので人の心は手に入りませんよ、と言おうとしたが、不意に視界がぐるりと回って、頭と背中に衝撃が走る。
「いっ…た…。」
痛みに目をギュッと瞑り、ゆっくり開けると、目の前に菊池さんの顔と、その向こうには天井が見えた。
僕は、部屋の真ん中の長机にお尻から乗せられる形で、押し倒されていた。
「…え。」
僕は、力一杯押さえつけられている両手首の痛みと、目の前にいる菊池さんの顔に、恐怖の色を滲ませた。
「じゃあ、ヤろっか、涼架ちゃん。」
「…は?」
顔を不快に歪めて睨んだ途端、菊池さんの顔が覆い被さってきた。唇が、熱い。ヌルヌルして、気持ち悪い。僕は、一瞬キスをされていると理解できず、その一つ一つの感触をただただ嫌悪していた。
「ん゛ー!ん゛!!」
抗議の声を懸命にあげるも、全く聞き入れられず、舌で口内を弄られる。
眼から涙が零れて、怖くて、気持ち悪くて、悔しくて、僕は、だんだんと対抗する力が出なくなってきた。もう、何をしても無駄かもしれない、そんな諦めが頭を過ぎる。
菊池さんの手が、僕の服の裾の中に入ったその時、部屋の外から複数の足音が駆けてくるのが聞こえた。
「チッ…早ーな。」
菊池さんが小さく零すと、手を離して、僕のスマホを取り出した。僕は、ゆっくりと身体を起こす。
「ロックは?」
「…〇〇〇〇。」
「素直でよろしい。」
菊池さんのスマホも取り出し、両手で器用に操作する。
足音が部屋の前に着くや否や、けたたましくドアが叩かれる。
『キチク!!開けろ!!!』
元貴の声だ。
『涼ちゃん!!!大丈夫!!??』
ひろぱの声も。僕は、机に浅く腰掛けながら、涙がポロポロと溢れて止まらなくなった。
「…やめてよ、俺が虐めたみたいじゃん。」
菊池さんがそう言うと、はい、とスマホを返してきた。
「残念、今日はここまでね。また遊ぼーね。涼架ちゃん。」
菊池さんが、ドアを開けようとして、動きを止めた。
「…これ、100パー俺殴られるパターンじゃね?涼架ちゃん開けてよ。そんで、俺を守って♡」
そう言って、僕の両手を引いて立たせて、ドアへと促す。菊池さんは部屋の隅に行って、コソコソと身を小さくする。
「…元貴?」
僕は、ドア越しに話しかける。
『涼ちゃん?!大丈夫?!』
「うん、今開けるから、何もしないでね。」
『え?』
「絶対に、菊池さんを殴ろうとしないこと。分かった?」
『はあ?何言っ』
「分かった?」
『…分かったから。早く開けて。』
僕は、一呼吸おいて、ゆっくりと鍵を開ける。ドアを開けると、元貴とひろぱ、その後ろには亮平くんと蓮くんまでいた。
僕は両手を広げて、みんなが中に入らないようにそのまま外へ出て、ドアを閉めた。
「…涼ちゃん、なんで?キチクは?」
「とりあえず、外に行こう。」
「涼ちゃん!」
「元貴、落ち着け。」
ひろぱが、元貴を宥める。興奮気味の元貴が、ギロッとドアを睨むが、カチャン!と音が鳴って、また菊池さんが中から鍵をかけたようだった。
「お前絶対許さないからな!!」
「元貴、やめて、なんにもないから。」
「なんにもないわけないだろ、泣いてんじゃん。」
ひろぱが、僕の頬を撫でて涙を拭く。
「これは、僕も興奮しちゃって悪かったけど、元貴と仲良くして欲しいって、お願いしてただけなんだよ。説得に熱が入って、泣けてきちゃったの。」
「…なんで、庇うの。」
元貴が、怒ったような、悲しいような、そんな声で、俯きながら呟く。
「庇ってない。」
「…もういい。」
元貴が、ふいっと身を翻して、白衣を靡かせながら、階段の方へと歩いて行った。
「…ふぅ、頭に血が昇るとアレだからな、元貴は。涼ちゃん、ホントになんともないのね?大丈夫?」
「うん、ありがとう。二人も、ごめんね。」
亮平くんと蓮くんは、困ったような笑顔で、首を振った。
「…みんなは、学祭回ってきて。僕は、もう帰るよ。」
「なに言ってんの、一緒に帰るよ。」
ひろぱが、僕の手を握る。
「…僕らは、どうする?」
「一緒に帰ってあげたいけど、俺はもっくんもちょっと心配かな。」
「じゃあ、僕と蓮は、ここに残って、もっくんの様子を見ておくよ。」
「…ありがとう、ホントにごめんね。」
「ううん、だって、三人とももう僕の大事な友達だから。」
亮平くんがにっこり笑って、そう言ってくれた。また泣きそうになったけど、涙をグッと堪えて、僕も微笑みかけた。
「あの人、なんなの?」
帰り道、ひろぱが僕に尋ねてきた。
「菊池さんって言って、元貴の先輩なんだ。元貴はすごく苦手意識を持ってるみたいで、前にその話を聞いてたから、今日、仲良くしてもらえるように話してたんだ。」
「そっか、涼ちゃん優しいね。」
ひろぱが、そっと僕の手を取って、暖かく包みながら歩いてくれた。
ひろぱ、僕、その人に、キスされちゃったよ。
その人と、付き合うことになっちゃったよ。
ひろぱに言えない言葉を飲み込んで、ひろぱに知られないように、一雫だけ涙を流して、すぐに拭いた。
その夜、元貴は帰ってこなかった。蓮くんから連絡があって、元貴はゼミの打ち上げにも行かず、蓮くんの部屋に泊まる、とのことだった。
あの二人には、また改めてお礼をしないとな、こんなに迷惑をかけちゃって、と落ち込む。
ひろぱがお風呂に入っている時、スマホに通知が届いた。LINEに、登録した覚えのない『風磨』の文字が表示されていた。
『ブロック、削除したら、今日の続きは元貴くんに相手してもらうからね、消しちゃダメよ♡』
僕は、『わかりました』とだけ送り、スマホを機内モードにしてこれ以上の連絡を拒絶し、枕元に置いた。
うつ伏せになり、枕に顔を押し付け、静かに泣く。
これから、どうすればいいんだろう。僕は、どうなるんだろう。元貴は、これから大丈夫だろうか。あの人は、なにを考えているんだろう。
そんなことをグルグル考えながら、精神的疲れのせいか、そのまま僕は眠りについた。
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ただのモブかと思ったらふーまくんか、、、鈴木ちゃん呼べば何とかなるとかありませんかねWWWWWWWWW、、、、、、LINE追加?!!あ!!風磨くん自分のスマホ取り出してたよね!!あの時に追加したんだ!!!てかふーまくんもっくん使うのずるいぞ!!!!コノヤロー!!!!!阿部ちゃん優しい私まで泣くかと思った もっと語りたいけどなんて言ったらいいのか、、
No.7!! どんどん新メンバーが増えていって、、しかも全員私が好きな人たちばかり! 本当なら どうかしちゃったの!?(同じ曲の歌詞で返したかっただけです😆) わかります笑 ⛄️が登場するだけで輝いてますよね〜✨これからもたくさん使ってあげてください!(?)
不穏な題名?!とおもいつつ、めちゃくちゃ面白いあだ名やん❣️とツッコミました🤣笑 そして何でも信じちゃう💛ちゃんが可愛いすぎます😇 オールスターな配役で、💛💜も好きな私はちょっぴり嬉しかったり🤭❣️ 続き、楽しみです✨