暗がりで冨樫はそれを引っ張ってみた。
ぎゃっ、という声がして、なにかが、もふっと冨樫の頭の上に落ちてくる。
そのとき、パッと脱衣場が明るくなった。
「なんだ、冨樫じゃないか」
「社長、電気つけちゃ駄目ですよ」
倫太郎と壱花だった。
冨樫の足元を見て、おや? という顔をしている。
「そいつはなんだ?」
え? そいつ? と見下ろすと、落下した弾みで頭を打ったのか、いてて……という顔をして、頭を押さえている可愛い小狐がいた。
「わあ、可愛いっ」
壱花は冨樫の足元にいる小狐を抱き上げた。
小狐がちょっと照れる。
「ついてきちゃったのかな?
それとも、船に憑いてる狐とか?」
船の中にお稲荷さんとかありましたっけ? と壱花が言ったとき、倫太郎が小さきものを見る目つきではない目つきで小狐を見て言う。
「……おい、狐。
高尾を知らないか。
高尾は何処に行った?」
ちっちゃな小狐は、あっちだよ、という顔で大浴場の方を見る。
「……嘘つけ。
お前が高尾だろう」
「えっ? 高尾さん?
でも、高尾さんは立派な大狐ですよ。
私、最初に見ましたし」
だが、倫太郎は壱花の腕の中にすっぽり収まっている小狐を睨んでいる。
小狐は壱花の腕から飛び降りると、高尾はこっちだよ、という顔をし、大浴場に向かい、走り出した。
後を追った倫太郎たちがガラリとガラス戸を開けると、月光の中、高尾が立っていた。
「あ、見てくれた? 下にいたおばあさん。
水汲みあげるの大変だったんだよ。
ちょっと被っちゃってさ、海水。
それでここで流そうかと思って」
と笑う。
「……お手柄だったな。
だが、あの小狐は何処行った?」
「小狐?
知らないけど。
ああ、僕についてきちゃったのかな?」
「いや、お前だろ。
さっきの小狐」
「なに言ってるんだよ。
僕はもう何十年と生きてる立派な大人の狐だよ。
ほら」
どろろんっ、と高尾は最初のときに見た立派な大狐になって見せる。
だが、そのとき、倫太郎がポケットの中からなにかを取り出した。
あの穴あきお玉の部品だ。
半分に折っていたカラフルなチョコつきメガネを広げ、目に当てている。
ひっ、という顔を高尾がした。
「……おかしいと思ってたんだ。
この商品、帳簿を見たら、不自然な売れ方をして消えてたから。
お前が帳簿を操作して隠したんだな」
壱花、と言って、倫太郎がメガネを壱花の目に当ててきた。