テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
長い時間、泣き続けたみことの肩が、やっと静かに上下を繰り返すだけになった。
母の腕の中でしゃくりを止めながら、みことはゆっくりと顔を上げた。
「……ありがとう、来てくれて」
絞り出すように言ったその声は、どこか安心とぬくもりが宿っていた。
父も、母も、穏やかに微笑んで、頷く。
みことはそっと自分の涙をぬぐってから、部屋の隅で見守っていた5人を見渡した。
──そして、ふいに真っ直ぐな声で言った。
「紹介したい人たちがいるんだ」
両親が目を見開く。
みことはゆっくりと立ち上がり、体をかばいながらも誇らしげに仲間の方へ歩み寄る。
「…みんな俺の……友達で、仲間で、俺を守ってくれてる、大切な人たち」
まず、こさめの頭を軽く撫でた。
「こさめちゃんは元気で俺の気持ちをパッと明るくしてくれるんだ」
「えへへ〜」とこさめが照れ笑いを浮かべる。
「なっちゃんは無気力そうだけど、実はすごく優しくてあったかい人」
ひまなつは目を伏せながら「……別に、普通だし」と呟くが、耳がほんのり赤い。
「いるまくんは腕っぷしが強くて、誰よりもまっすぐで、正義感の塊なんだ」
いるまは少し口元を歪めて、「当たり前だろ」と低く笑った。
「で……この、みんなをまとめるらんらんは、実は一番優しくて、怒ると一番怖い」
らんは苦笑いをしながらも、目元はどこか誇らしげだった。
そして──
みことは、すちの手を迷いなく取った。
「……で、すちが、俺をずっと大切にしてくれた人」
すちの目が少し揺れる。
「俺……最初、誰かに『大切にされる』なんて、わかんなかった。でも……この人が教えてくれた」
みことの声が震える。
「心配してくれて、怒ってくれて、手当てしてくれて、優しく名前呼んでくれて……。俺、そんなの全部、初めてで……」
みことはそっとすちを見上げ、少し照れたように笑った。
「……気づいたら、好きになってた」
部屋が静まり返る。
すちは驚いた表情を浮かべながらも、ぎゅっとみことの手を握り返した。
みことの父は驚いた顔をしていたが、すぐに小さくうなずいた。
「……大切にしてくれて、ありがとう」
父親が深く頭を下げた。
みことの母は涙ぐみながら微笑む。
「みこと……仲間の前では、ちゃんと笑えてるのね。嬉しいわ」
みことは、今度こそ涙を流さずに、はっきりと笑った。
「うん。……俺、もう、怖くないよ」
みことがすちの手を握りながら「好きになった」と両親に告げたそのあと、重い空気がようやくふっと和らいだ。
両親は互いに目を合わせてから、意を決したように口を開く。
「みこと、しばらく日本にいることにしたの。お父さんも、お母さんも」
その言葉に、みことは一瞬固まった後、申し訳なさそうに眉を寄せた。
「……ありがとう。でも、仕事忙しいんでしょ? だったら戻って良いんだよ」
「でも……!」
「大丈夫。俺は……」
みことはすちを見つめて、ふわっと笑った。
「すちと一緒にいたいんだ。今は、それが一番落ち着く」
母が目を潤ませてうなずき、父もため息交じりに肩をすくめた。
「……そうか。なら、頼むぞ、すちくん」
「はい。…必ず、みことくんを守ります」
すちの真っ直ぐな答えに、両親はしぶしぶながらも納得し、深々と頭を下げて去っていった。
そして、他のメンバーたちも「またな」とそれぞれ言葉をかけて去っていった。
すちとみことは、すちの家へ帰り、リビングのソファに並んで腰かけていた。
少しだけ間があって、みことがぽつりと名前を呼ぶ。
「……すち」
その声に、すちが穏やかに振り向いた。
瞬間。
みことは迷わず身を乗り出し、すちの唇にそっと、自分の唇を重ねた。
やわらかく、優しく、でも確かな意志を込めて。
そして、唇を離すと、まっすぐ見つめてにこりと笑う。
「大好きだよ」
心からのその言葉に、すちも静かに微笑んで、そっとみことの髪を撫でた。
「俺も。すごく、好きだよ」
やさしい言葉の応酬は、それだけで胸がいっぱいになる。
気づけば2人はそのままソファにもたれかかり、寄り添うようにして眠っていた。
互いのぬくもりを感じながら、夢のような静けさの中で──
もう、誰にも邪魔されない、2人だけの穏やかな夜が、静かに更けていった。