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したから吹き上げるようにして風が吹いてくる。短い髪の毛も、それに揺られて、少し肌寒く感じる。フィーバス卿のマントを羽織っているけれど、顔まではガードしきれていない。




「お父様……」

「日暮れだ。帰ろう、ステラ」




フィーバス卿は、先ほどと同じような優しい声色でそう言うと背中を向ける。時計台の上。フィーバス卿のこと、また少し知れた気がして、彼がどんな風に私のことを思ってくれているか知って、申し訳なさと、温かさが一気に押し寄せた。




(ダメだな。ほんとうに……)




嬉しくて、仕方ないのに、それでも一歩前に踏み出せないのは、足を引っ張る、過去の事。家族っていう存在が嫌いだ。名ばかりで、血が繋がっているだけの他人。トワイライト……廻のことがあって、私に優しくしてくれなかったというのは気づいた。けれど、それでも、傷付けられた過去が消えるわけじゃない。いや、廻が生きていたとしても、私は好かれるような体質じゃなかったのかも知れない。

だから、親に誉められるとか、家族だって優しくされるのが慣れていなかった。フィーバス卿が歩み寄ってくれているのに、私はその手を握り返すことが出来ない。過去は過去だって割り切れればいいのに、きっぱり割り切れない自分が憎たらしい。




(こんなんじゃダメなのに……)




先に降りていくフィーバス卿を追いかけようと一歩前に踏み出せば、ビュォオオオッと、冷たい風が吹き付け、バランスを崩してしまう。ちょうど、時計台の隙間から身体がはみ出、捕まろうと柱に手を伸ばしたが、届かず、さらに風が吹き付けたことで、完全に空中に投げ出された。




「う……そっ……」




そんなことってある?

高層ビル並みの時計台から落ちてただですむわけがない。早く、風魔法で体制を整えなければ、落ちてぺしゃんこになってしまう。そう思って、魔法を発動させようとしたが、テンパっているせいで、イメージがかたまらなかった。冷たい風が身体全体を包んでさらに、指先が硬く動かなくなる。

激しく吹き付ける風の中、目を開ければ、時計台から誰かが落ちてくるのが見えた。白銀の――




「ふぃ、フィーバス卿!?」

「ステラ、手を伸ばせ」

「え、えっ!」




馬鹿なのか、と一瞬思ってしまったが、助けに飛び出してくれた人に馬鹿なんて言えるはずもなく、私も必死に手を伸ばした。私の身体を包んでいた。マントは、空高く舞い上がって見えなくなってしまう。

私は、フィーバス卿の手を掴み、彼にグッと抱き寄せられた。空中で、彼は私を抱きしめると、ぼそりと詠唱する。すると、ふわりと、身体が軽くなって、風船みたいにぷかぷかと浮かぶ。けれど、風で飛ばされないようにと、フィーバス卿に抱きしめられているため、動くことは出来なかった。




「ええ、ええっと、あの」

「あんな所から落ちるなんて、思いもしなかった。何が起きるか分からないな」

「え……あ、ありがとうございます」

「無事で何よりだが、魔法は使えなかったのか」

「うう……」




説教されているのだろうか。確かに、魔法が好きとか、魔法が使えますとかいった割に、私は何も出来なかったし、フィーバス卿も、間に合わなければ大変なことになっていただろう。自分のは自分で守るよう。魔法が使えるものとして、少し恥ずかしかった。

ごめんなさい、と腕の中で謝れば、彼は何も言わなかった。

地上に降りるまで時間はかからず、スッと羽が舞い降りるように、フィーバス卿は地面に降り立つ。本当に、歪みがないというか、魔法にブレがない彼の魔力は素晴らしいと思う。それに比べて、自分は……




「本当に、何処も怪我していないな」

「は、はい!お父様が、助けてくださったので!」

「魔力は……」

「テンパると、魔法使えなくて。あはは、ダメですよね……」




笑い事じゃないけれど、笑ってとばさないとやっていけなくて、私は、頭をかきながら謝った。怒っているだろうか、それとも幻滅した? と、マイナスに考えてしまう。フィーバス卿は、はあ、と大きなため息をついた後、また私の頭を撫でた。




「いや、俺も昔そうだった。魔法は、イメージが大切だ。土壇場で使えないなんてこと良くある」

「お父様も……」

「誰しも、すぐに魔法が使えるようになるわけじゃない。それに、慣れている奴でも、失敗することぐらいある。お前が無事でよかった。それだけだ」




と、少しぶっきらぼうにフィーバス卿はいった。


私は、またその言葉に救われて、噛み締めた。ちょっと不器用なのは、お父さんぶっているからなのだろう。娘だから、甘えるとか、私にも出来ればいいのだけど、さすがに恥ずかしいし、馴れ馴れしく思う。

私は、フィーバス卿に頭を深く下げた。




「ありがとうございます」

「ああ」

「お父様の、魔法って凄いですね」




とっさに出た言葉は、何だか薄っぺらくて、私は思わず頬を引きつらせた。




(な、何言ってんの!?当たり前じゃん。アルベドも、ブライトもフィーバス卿のこと凄いって言ってたじゃん!凄いのは知ってるの!)




心の中で、テンパっているなんてこと、気付くはずもなく、フィーバス卿は首を傾げる。当たり前だろ地割れたら、それまでだなあ、と言葉を待っていれば、フィーバス卿は、そうか、といって顎に手を当てた。私の方をじっと見てくるので、目をそらしたくなる。




「いや、この風魔法はレイ公爵に教わったものだ」

「レイ公爵……アルベドの?」

「アルベド・レイの父親だ。今は寝込んでいるらしいな。長くは持たないといった」

「……え」

「戦友のような関係だ。昔は仲がよかった。だが、光魔法と、闇魔法は、交わらない存在だと、皇帝の介入もあって引き裂かれた」

「それって、ええっと」

「アルベド・レイのあの性格は、公爵譲りだろうな。まあ、公爵は、彼奴のように、光魔法、闇魔法が手を取るなんて理想は抱いていなかった。ただ、自分によってくるものは、追わず、拒まず……そんな男だった」




そう言い終えると、フィーバス卿は、時計台の方を見た。

ああ、だから、アルベドにあんなに寛大なのかと私は思った。アルベドのよそよそしい態度も、自分の父親と、フィーバス卿が繋がっているからなのだとか。けれど、アルベドのお父さんが、そんな風に光魔法と闇魔法について考えているなんて思いもしなかった。

確かに、理想という言葉で片付けられてしまうのだろう。光魔法と闇魔法が手を取るなんていう世界。というか、フィーバス卿にはその理想も、夢もバレていると。




「まだ彼奴は若い。色々経験して、挫折して、最善を見つければいい」

「アルベドの、ことですよね」

「彼奴以外誰がいる。まあ、歴代のレイ公爵家の中で彼奴が一番魔力を持っているだろうな。魔法の扱いにも慣れている……魔法が好きなんだろうな」

「魔法が」

「お前も、まだまだ、彼奴のことを知らないようだな。俺も分からんが」




と、フィーバス卿は肩をすくめる。


その通りだと、私は頷いた。アルベドの事まだまだ知らないなって思ったし、魔法が好きという風にフィーバス卿には見えるのに、私はそんな風に感じなかった。確かに、魔法の扱いには慣れているし、教えてくれたけれど、それが、魔法が好きだっていう根拠になり得るのか。どちらかというと、ブライトの方が好きなような気がした。彼も彼で、家のプレッシャーがあるのかも知れないけれど。




「改めて、帰るぞ。ステラ。ここにいたら冷えてしまう。屋敷に帰ったら夕食を取ろう。暖まるといい」

「は、はいっ」




また、先を歩くフィーバス卿の背中を追って私はかけ出す。

よく分からないことばかり。雪が降りそうな空は、私達が屋敷に入るのを見てから、しんしんとその白を散らし始めた。


【番外編~回帰~】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたい

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