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ツアー先のホテル。
みんなとのご飯会のあと、俺は一人で部屋に戻った。
シングルベッド、白いシーツ、間接照明のほのかな灯り。
少しお酒が入ってるせいか無音の空間が、寂しく感じられた。
「……疲れたな」
ベッドに腰を下ろし、スマホを弄る。
SNSを開けば、ライブの感想が溢れていた。
『最高だった!』
『ひーくんのダンス、やっぱりすごい!』
『ふっかさん、今日めっちゃ楽しそうだった!』
ファンの言葉に、自然と頬が緩む。
だが、その一方で、胸の奥にぽっかりと穴が開いたような気分になった。
ふと、スマホの通知が鳴る。
画面を見ると、照からのメッセージだった。
『起きてる?』
『起きてるけど、どした?』
数秒後、既読がつく。
『……ちょっと、来れない?』
その言葉に、眉をひそめる。
(なんだ、珍しいな)
ツアー中に照からこんな連絡が来ることは滅多にない。
何かあったのか――そう思いながら、部屋を出る。
照の部屋の前に立ち、ノックをする。
「俺だけど」
ドアが静かに開いた。
「……悪い、急に」
「いや、別にいいけど。何かあった?」
部屋に入ると、ふわりとシトラス系の香りが漂う。
照の香水の匂いだ。
部屋の中は、俺の部屋と変わらないはずなのに、どこか違って見えた。
少し散らかったベッド、脱ぎっぱなしのジャージ。
無造作に置かれたタオル。
「……何?」
照がソファに座り、じっと俺を見つめる。
「いや、別に……。なんか、照らしくないなって」
「……」
沈黙が流れる。
照は何かを言おうとして、言葉を飲み込んだように見えた。
「……なんか、話したいことあったんじゃねぇの?」
そう促すと、照は小さく息を吐いた。
「……ふっかさ、最近ちゃんと寝れてる?」
「……ん?」
思いがけない言葉に、目を瞬かせた。
「いや、まあ……寝てるけど?」
「嘘」
照の低い声に、思わず口を噤む。
「ライブの時も、お前、時々ボーッとしてる」
「……そりゃ、疲れてるからだろ」
「俺も、疲れてる」
「……」
「でも、ふっかほどじゃない」
静かな部屋に、照の声だけが響く。
「お前、なんか悩んでるんじゃねぇの?」
その言葉に、喉がつまる。
「……そんなこと、ないよ」
「嘘つけ」
照の視線が、俺を貫く。
「……だったら、なんでこんな時間に俺の部屋まで来た?」
「……っ」
言い返せない。
俺は、自分が照の前では嘘がつけないことを知っている。
「……照が呼んだからだろ」
「本当に、それだけか?」
その問いに、俺は目を逸らした。
――本当は。
本当は、少しだけでも、誰かに甘えたかった。
強がることに疲れて、心の支えが欲しかった。
そして、抑えつけてる欲求を解放できる場所がほしかった。
だけど、照に相談できることじゃない――。
「照には相談できない、」
「、、そっか」
少し寂しそうな照を横目に見る。
長い沈黙の後、耐えかねた照が
「さっきはあんま飲めなかったし、飲み直す?」
と缶ビールをふる。
「おー」
ベッドに腰掛け、缶を受け取る。
疲れていたのもあって、いつもより酔うのがはやかった。