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今日は剣道部の体験入部に行く日だ。
「結局あの良い人見つからなかったな…」
武道場へ向かいながら、俺はそんなことを呟いた。できるだけ早くお礼がしたいので、今日も2年生フロアを何周もして探したのだが、見つけることはできなかった。
ほんと、いつもどこにいるんだろう、、。
武道場の入口まで来ると、中から話し声が聞こえた。
「やべっ、早く入んなきゃ」
そうして深呼吸してから、俺は一礼して武道場に足を踏み入れた。
「体験入部にきた1年凪谷です。先輩方の稽古に参加させて頂きます。よろしくお願いします。」
と顔を上げた瞬間、ずっと探していた笑顔が視界に映る。
「….!?!?あの時の!!!!」
「おー!お前剣道部志望だったのか!久しぶり?だな!」
そう。あれだけ探しても顔を見ることさえできなかった恩人が、武道場にはいたのだ。
「俺っ…!もうほんとお礼がしたくて…!何度も2年生フロアにお邪魔したんですけど、見つけることができなくて、、。すみません!!」
出せる最大の声量と誠意で、頭を下げた。
「あの時は本当に、ありがとうございました!!」
「お前はほんと律儀で大袈裟だな!!いいんだよ遅刻しかけてたついでだったんだし!」
「でも先輩がいなきゃ遅刻してました…!」
「いいっていいって!そういえば名前言ってなかったな!!新田 圭!」
「新田先輩…!!」
何度も何度も頭を下げていると、先輩の背後から声が聞こえた。
「こらこら、そんな感謝するとこの人調子のっちゃうよ〜!」
その声は、いつかの文化祭で聞いた歌声とそっくりだった。
「…………え」
間違いなく、”あの人”だった。
話し..かけられた…。…あれ、な、なんで。
剣道部だったのか…?い、いやそれよりもまず返事をしなきゃ。え、えっと…
「ま、迷子….」
「へ??」
いやいやいや何言ってんだよ俺!!!!!いくら動揺してるとはいえもうすこしマシなことを言え!!!
「迷子??お前迷子なのか?」
ほら見ろ!!意味わかんないこと言うから新田先輩も困惑してるだろ!
「あっいやえっと、、」
「….ねぇもしかして、文化祭のときのこと?」
…!!
「は、はい!!!あの俺、先輩が迷子の手引いて歌歌ってあげてるとこ見てて。俺は助けてあげられなかったからって、、ずっと憧れてて、、!」
……や、やばい口走りすぎた。
絶対に引かれる。
「うん。私もきみのこと、覚えてるよ」
「…え..?」
いやそんな訳。だって俺は迷子を助けてもいなければ先輩に話しかけてもいない。覚えてもらえる理由なんかない。
「あのときね、小さい子を心配そうに見てる人がいるなって思ってたの。それで、あぁあの子迷子なんだって気づいたんだよ。私が助けに行ってからもずっと心配そうに、でもほっとしたみたいに、見ててくれたよね。覚えてるよ!」
「…気付いてたんですか…」
確かに、俺はその子がちゃんと家族に会えるか心配で、それと優しくて勇気ある先輩に安心して、しばらく立ちつくしていた。
「うん。ずっと、ちゃんと家族と合流できたみたいだよって伝えてあげたかったんだ。君がいなきゃ私はあの子に気づけてないし、ありがとうって言いたかったの!」
…いいんだろうか。こんなに幸せで。
ずっと追い求めていた”あの人”は、イメージよりもずっとずっと優しく、強くて、
綺麗だった。