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マリア一行と激突して壊滅した熊獣人達の顛末は、偵察していた他の獣人によって詳細が獣王ガロンに知らされる。
『なに、ドムアが破れ去ったと申すか』
「はっ!」
報告に参上した狼獣人は平伏しながら獣王ガロンへと詳細を報告した。
それを聞き獣王ガロンは少なからず衝撃を受けた。獣人種の中で熊獣人は屈強で頑強な肉体を持っており、彼等を五百弱も投入した結果が壊滅。獣王の衝撃も無理はなかった。
「おのれ、ドムアめが!驕ったな!我らが君の顔に泥を塗るような真似を!」
側に控えていた狼獣人のガルフは激しい怒りを示した。対立関係にあった熊獣人が大打撃を受けたことは望ましいことであったが、決起の前段階で受けた被害としては座視できるものでは無かったためである。
『敵の実力を見誤ったか。実に嘆かわしいことではあるが、戦力を小出ししては同じ轍を踏むこととなろう』
獣王の呟きにガルフは勢い良く振り向き、そして膝をついた。
「我らが君よ!この様な醜態を立て続けに晒しては、我らが一族の汚点となります!ここは、我が部族にお任せください!」
『良かろう。けして驕るでないぞ、ガルフよ。相手の力量を確と見極めるのだ』
「ははっ!必ずや敵の首を持ち帰ってご覧に入れます!行くぞ!」
「はいっっ!!」
ガルフは狼獣人達総勢三百を率いて出陣した。
「情報を集めろ!奴等の動きをつぶさに観察するんだ!単独では動くなよ!」
ガルフは狼獣人達を『ロウェルの森』全体へ広範囲に展開させる。熊獣人に比べて肉体は頑強ではないが、代わりに俊敏な身軽さと同種による連携を強みとしていた。
ガルフは熊獣人達が殲滅された顛末から、集団で真正面から立ち向かうのではなく、少数による奇襲を反復することで戦力を削りとる戦術に切り替えたのである。
だがここでガルフは致命的なミスを犯した。手下達に伝えたのは、森に居る人間の小娘の一団を始末しろと言う命令だけだった。
確かに危険な『ラドン平原』を突破して『ロウェルの森』へ侵入するのは至難の技であり、他に人間が居ないと考えるのは決して間違いではない。何よりこの世界では高価な写真はもちろん似顔絵すらないのだから。
だが、今現在『ロウェルの森』にはマリア以外の人間の少女が居るのだ。その事に気付いた時、既に手遅れだったのだが。
広範囲に分散した狼獣人達は三人一組となり森の中を進撃する。そしてある一組が人間の少女を発見した。
「あれじゃないか?」
「雄も居るぞ?それに、魔族の奴等が居ねぇが」
「構わねぇさ、ガルフさんからは人間の雌を殺れって話だったんだからよ。いくぞ!」
「おう!他の奴等にも知らせる!」
直ぐ様一人が遠吠えし、仲間達に場所を知らせる。まさしく狼の遠吠えであった。
三人は木々を伝いながら素早く接近し、そして頭上に到達すると一気に飛び掛かった。
完全な奇襲である。だが、相手には音や匂いに敏感で何より勘に優れた少女が居たことが命運を分けた。
シャーリィ達は森の中を進んでいたが、シャーリィの側を歩いていたアスカがシャーリィの右手を握る。
シャーリィは驚くこともなく、右手に持っていた勇者の剣に魔力を通し、魔法剣を発動する。光輝く刃を出現させ、アスカの示す通りに上に向かって腕を振るう。
「…あ?」
光の刃が飛び掛かった三人の狼獣人を捉えると、無慈悲とも言える結果を産み出した。魔法剣は彼等を分子レベルで分解し、文字通りその姿形をこの世から消し去ってしまったのである。
光の粒子となって消えた獣人達を無表情のまま見上げていたシャーリィは、視線を目の前で警戒しているベルモンドとルイスへ向ける。
「今のは好意的な行動に見えませんでした」
「ああ、俺も中々刺激的な歓迎に見えたよ。迷わずお嬢を狙ってきたな」
「だな。シャーリィ、あいつら味方じゃなさそうだ」
「そうですか。ではこれより『ロウェルの森』限定でアスカ以外の獣人を敵として判断します。先程の遠吠えから察するに、増援が来るでしょう。この場に留まり迎え撃ちます。リナさん」
「ここに、代表」
背後にはエルフのリナを筆頭に二十名のエルフ達が控えていた。
シャーリィの南下を知ったリナは『猟兵』から二十名を選抜して同行。残りは腹心のリサが率いて引き続き『ラドン平原』の警戒を行っている。
「狙われている以上土地勘の無いここで動き回るのは下策と判断します。よってこの場で迎え撃つつもりです」
「良い判断かと思います。少しばかり周りの木を伐採して視界を広げることを提案しますが」
「木を伐採しては気付かれます。枝葉を悟られない程度にお願いします」
「お任せを。皆、やるわよ!」
「はいっ!」
リナの指示によりエルフ達が周囲にある木々の枝葉を不自然になら無い程度に伐採していく。
それを見ながらシャーリィは追加で指示を出す。
「リナさん達は散開して襲撃に備えてください。こちらが待ち構えているのを悟られては困りますから」
「お任せを、代表。森での戦いなら獣人に遅れを取りません!」
下準備を済ませると、『猟兵』は散開。シャーリィを中心として広範囲の索敵網を形成した。
すると、直ぐに効果が現れた。
先程の遠吠えに呼び寄せられた狼獣人達が次々と警戒網の内部へと侵入。その度にエルフ達は鳥の鳴き声に聞こえる笛を吹いて警告を行い、それに合わせてシャーリィ達も警戒。先程よりも視界が良くなったこともあり、接近する獣人達の早期発見に成功する。
また狼獣人達も僅か四人の人間相手と判断。それが更なる慢心を招いた。
「えっ!?」
「なにがっ!?」
結果、奇襲を仕掛けたつもりであった獣人達は次々と待ち構えているシャーリィの魔法剣の餌食となった。
「こりゃ罠だ!直ぐに……ながっ!?」
「どうした!?ぎゃっ!?」
戦いに参加せず遠目に観察していた狼獣人のグループも居たが、彼等は警告を発する暇もなく周囲に展開していたエルフ達に始末される。
「隠して!早く!」
始末した獣人達の死体は見付からないよう直ぐに茂みなどに隠されて露見を防いだ。
ガルフが広範囲に展開させたのも仇となり、各グループは各個撃破されていく。
今もまた一組が襲撃を仕掛け、二人が魔法剣により消滅。シャーリィの初撃を運良く逃れることが出来た狼獣人だったが。
「なにが!?はっ!?」
「おらよっ!」
素早く回り込んだベルモンドが大剣を振り下ろし、脳天から股まで一刀両断。腸をぶちまける瞬間再び振るわれた魔法剣により跡形もなく消滅した。
「内臓の臭いは好きじゃありません。証拠隠滅です」
「悪いな、お嬢」
「けどよ、こんなに面白いくらい引っ掛かるもんなんだな?」
「マーサさん曰く、獣人は他種族を見下す傾向にあるのだとか。それが四人だけ、しかも自分達が得意とする森林戦ですからね。慢心するのも無理はありません。私はそれを最大限に利用しているに過ぎませんよ」
話をしていると、再び鳥のような笛の音が響き渡る。
「……ん、次が来た」
「まるで鼠取りだな?お嬢」
「ネズミに失礼です。私達の強みを活かしているだけですよ」
誤算により発生したシャーリィの狩りはまだ始まったばかりである。