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芙月みひろ
挨拶もそこそこに、僕たちはお義父さんが運転する巨大なSUVに乗り込んだ。車は札幌の中心部を抜け、市内屈指の高級住宅街「円山・宮の森エリア」へと坂を登っていく。格式高い石垣と、手入れされた木々に囲まれたその一角に、白石家の邸宅はあった。
門を抜けると、整えられた石畳の先に、伝統的な日本建築とモダンな洋館が融合したような、要塞じみた豪邸が姿を現した。
(……白石さんの実家、めちゃくちゃお金持ちじゃないか。これじゃ、僕なんて……)
「まあ、春川さん。遠いところまで、ようこそ」
玄関ホールに足を踏み入れると、出迎えてくれたのは白石さんの母・静香さんだった。上品な紫色の和服を纏い、そこから覗く項は、抜けるように白く艶めかしい。五十代という実年齢が嘘のような、みずみずしい潤いと色気を全身から放っている。
(すごい美魔女だ。……三十代後半くらいにしか見えない)
静香さんは、紅を引いた唇をわずかに緩めて微笑んだ。その視線が僕の顔から首筋、そしてシャツの隙間にある鎖骨までを、まるで筆先でなぞるように、ねっとりと這い回った気がした。気のせい、だろうか?なんだか気まずい……。
すれ違いざま、お義母さんが白石さんに小声で囁いた一言が、耳に届く。
「ふふ……ひより、あなた本当に、良い『素材』見つけたわね。今夜は、ゆっくり愉しめそうだわ」
「もう、ママやめてよ」
その言葉の真意を悟る間もなく、僕はダイニングへと案内された。
その夜、大理石のテーブルを囲んで開かれたのは、僕を歓迎する……という名目の「試験」だった。
中央のジンギスカン鍋で激しく湯気を上げるのは、最高級の生ラム肉。そして皿の上には、市場から直送されたばかりらしい、指先ほどもある大粒のウニや、ぷりぷりのボタンエビの刺身が、文字通り山のように積まれていた。
「食え! 白石家の婿になるなら、まずは食って飲んで、『器』のデカさを見せろ!」
大五郎さんは、僕の前に地酒の一升瓶をドン、と置いた。彼は驚異的な酒豪だった。自ら特大の盃に酒を注ぎ、ぐいぐいと空けながら、僕にも同じペースで酒を勧めてくる。
「情けない! これくらいで音を上げる奴に、ひよりんはやらん!貴様のひょろついたその根性を、この酒で叩き直してやる!」
「パパ、もうやめてあげて。陽一さん、さっきから目が回ってる……」
(……くっ、ここで倒れるわけには……。これは、真剣勝負なんだ……!)
白石さんのフォローも虚しく、僕の肝臓は既に悲鳴を上げていた。結局、僕は「根性」を見せようと無理を重ねた結果、最後の一杯を飲み干した瞬間、視界がブラックアウトした。
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