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「…結構大変ですね、調書って」
ペンを一旦置き、両手を伸ばす新人刑事の慎太郎。
「しょうがない。まだまだ供述調書とか証拠品関連のやつとか、捜査報告書とか――」
隣の席の北斗が真顔で説明しだしたのを、「もういいって」と向かいに座る高地が遮った。
「新人くんをそんなビビらせんなって。地方の交番でもやってきたでしょ? ちょっと量は増えるかもだけど、そんな変わんないから」
笑顔で言われたので、少し緊張が解ける。
「ってか森本くんってどこ出身?」
班長の大我がコーヒーカップを手に近づいてきた。
「神奈川県警の交通課です。地元で」
「お、俺と同郷じゃん!」
高地が嬉しそうに言う。慎太郎からも笑みがこぼれた。
と、
「あー疲れた。マジであのホシ黙秘続けるし。いい加減吐けよ。証拠は揃ってんだっつーの」
何やら文句を言いながら、樹が入ってきた。犯人の取り調べをしてきたところだ。
「そういう強迫してると弁護側に訴えられるぞ」
北斗にいさめられた。
「そういうお前も思いっきり睨んでるくせに」
「そっちもな」
仲良いですね、と隣に座ったジェシーに小声で言った。
だろ、とジェシーも笑う。「あの2人は同い年で巡査部長だから。…ところで森本くんは、なんで捜査一課に来たの?」
「ほんとは白バイ隊員になりたかったんですけど、なぜか打診がきて。でも刑事もかっこいいなって思ってました」
そう言うと、一瞬室内が静まり返った。
「…あっすいません、めっちゃ薄くて」
いや、と高地は笑う。
「俺もバイク好きだから、白バイ憧れてたな」
「そうなんですか」
「だから交通課希望したの?」
「はい」
「ほら、話してないで取り調べ行くぞ」
北斗が立ち上がった。
「はい!」
慎太郎の教育係は北斗なのだ。
廊下を歩いているとき、恐る恐る口を開く。
「…あの、皆さんって階級違うんですよね」
「うん。樹とは一緒だけど」
「どうしてずっとタメ口なんですか? 上司も混じってるのに」
ああ、とつぶやく。
「実は仲良いんだよ。係長とかほかの班の人には関係性をわきまえろって怒られるけど」
そこでやっと小さく笑った。
取調室のガラスの向かいに座っていたのは、うつむいている細身の男だった。
慎太郎は記録係として、北斗の隣でノートパソコンを開く。
途端に北斗の目に鋭い光が灯ったのを見て、わずかに息をのむ。低い声で質問を続けていくのに、刑事だな、と心の中で感嘆する。でもそんなことを言ったら、「当たり前だ」と無表情で言われそうだ。
やがて、北斗の詰問に観念したのか男は小さく自供した。北斗が慎太郎にちらりと視線を向ける。聞き逃すな、と言っているようだった。
そして聞き出すことは全て終えたようで、北斗が立ち上がった。慎太郎も慌ててついていく。
「どうだった? 空気感とかわかったか」
「はい。でもかっこよかったです。すごくクールで」
別に仕事だから、と北斗は言い放つ。
「まあほかの奴のも見るといい。色んな意味で勉強になる」
わかりました、とうなずいた。
「これから、俺も手伝うけど供述調書な」
「はい」と答えながら、また調書か…と息をついた。
続く