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セイギ

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セイギ

3 - Case 1-1

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2024年07月06日

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警視庁捜査一課の一室。

主任のデスクで、大我がスマホを手に何やら面倒くさげな顔で話している。その視線は、窓の外の景色に注がれている。

「……わかってます。出世がかかっている大事な時期なんですよね。だから出しゃばった真似はしないと。ええ、心得てますから。……こちらも今の仕事で色々と忙しいんです。それでは」

半ば一方的に電話を切ったのを見て、

「相手はどなたなんですか?」

慎太郎は高地に尋ねた。

「たぶんお父様」

お父様って、とつぶやく。

「そう。警視庁のトップ、京本警視総監。一応仕事場では電話とか敬語だけど、いっつもああいう投げやりな感じ」

すごいですね、と相槌を打ってからまた調書に向き合う。膨大な量の書類にもだんだん慣れてきた。

高地は大我の部下にあたるが、年齢は上だ。だから内輪のときは敬語を使っていない。

すると突然、着信音が鳴る。今しがた電話をしていた大我がまた話し出した。

「はい京本です。……え、殺人ですか。……わかりました今向かいます」

そして5人を振り返る。

「港区のマンションで刺殺体が発見された。行くよ」

みんなは腰を上げてスーツの上着を羽織る。慎太郎も意気揚々と立ち上がり、机の上の手帳と筆記具をトレンチコートのポケットに突っ込んだ。

「洒落た上着だな」

皮肉なのか何なのか、北斗が言う。

「ありがとうございます。これ、新しく買ったんです。やっぱ形から刑事になろうかと思って——」

「形より中身だ。早く経験を積んで——」

そう遮ったが、

「北斗、早く行くぞ」

と大我に止められた。

まあそういうことだ、と北斗は先に駆け出した。



パトカーに3人ずつ分かれて乗り込み、それぞれ樹と高地の運転で向かう。

大我の乗るほうから、もう一方へ無線を通じて情報が飛ぶ。

『現場は港区——マンション20階の205号室』

大我の報告に、北斗が『了解』と答えた。その横で樹が「豪勢だな」とつぶやいた。

やがて目的の建物に着き、エレベーターに乗って最上階に行くと、すでに規制線が張られていて複数の捜査員がいる。

所轄の警察官が、大我たちに敬礼をする。

自分じゃないとわかっている慎太郎は首をすくめた。

「現場初だよね?」

ジェシーに話しかけられ、うなずく。

「はい。…だからすっげえ緊張します」

「大丈夫、オーライ」と笑いかけた。

規制線をくぐって殺害現場の部屋に入ると、鑑識が作業をしている中、広いリビングに高齢男性が仰向けで倒れていた。そのシャツの胸は赤黒く染まっている。

「森本、手袋して」

慎太郎が呆然とそれを見ていると北斗に言われ、慌てて両手に手袋をはめた。

まず、男性に向けて静かに手を合わせる。しばらくそうしたあと、身体を調べはじめた。

「けっこう出血が多いから、深く刺さってそうですね。男かもしくは力のある女でしょう」と樹。どうやら外に出ると敬語になるようだ。

5人が遺体を検分している中、ジェシーだけが部屋を見回していた。

そこは、豪華絢爛な装飾品の並ぶリビングだった。高級そうなシャンデリアが頭上で煌めき、大きなテレビが捜査陣を睨んでいる。絨毯や一枚板のテーブルは外国のものだろうか。

しかし、その片隅にはやや不釣り合いな仏壇が置いてある。小さい額縁の中では、グレーヘアの女性が微笑んでいた。

「まあ貿易系の会社の社長だろうな」

そうジェシーがつぶやく。

「まあこんなシャンデリア、うちにもあるけどね」

続いて小さな声で大我が独り言をいった。

そしてふらりとジェシーがリビングを出て行く。やがて戻ってくると、

「洗面所には男物のアメニティしかありませんでした。女が住んでる可能性は低いかと」

わかった、とみんなは返した。どうやら彼の観察眼には信頼をおいているようだ。

まるで刑事ドラマの中に飛び込んだようで、案外おもしろいな、と慎太郎はひとり口角を上げた。


続く

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